『Keith Sweat』(キース・スウェット)
アメリカ合衆国のR&Bシンガー。R&Bやソウル、ジャズ等を混ぜたオリジナリティーの高い楽曲が特徴。その先鋭的な音楽性から、”ネオ・ソウルシンガー”と表現される事が多い。2000年にデビューし、いきなりプラチナム・ディスクを獲得。2013年時点で、累計11部門ものグラミー賞にノミネートされている。
<TSUYOSHI評>
時代を形作る歌声がある。90年代のR&Bシーンにおいてキース・スウェットはまさに必要不可欠な存在。その歌声はあまりにも独特。さほど高い音域は使わずヌルっと歌い通す、かかり過ぎな位に鼻にかかった声。歌唱スタイルとして彼の目立ったフォロワーがいないにもかかわらず、皆キース・スウェットのことが大好き。これぞワン・アンド・オンリー。
2008年、キース・スウェットが6年ぶりにオリジナルアルバム『Just Me』をリリースした。当時、細田”JAM”日出夫さんと発売前にサンプル版を聴いた。まずは1曲目『Somebody feat. Chris F.L.O Conner』(https://www.youtube.com/watch?v=6blvmmPs2mc)。イントロからいい雰囲気。ソウル・マナー。途中、The Delfonicsの『La La Means I Love You』を織り交ぜてみたり。いやぁ、素敵だなぁ。程なく1曲目を聴き終える。「あれ?ところで今キース歌ってました?」「このファルセットがキースでしょ」「えーっ!!!」 なんとキース・スウェットは終始ファルセット・ヴォイスで歌い切っていたのである。これまであの鼻にかかった地声しか世に残してこなかったというのに。よって、裏声で歌っているキース・スウェットのイメージがこれっぽっちも無かった私は、この1曲を聴き終えるまでキースがメインを歌っているとは思いもしなかった。ふむふむ、歌い出しからフィーチャリングの人が歌ってるんだ。…あれ、キースはいつ歌い出すんだ?...あれあれ?終わっちゃったよ、という具合に。いったい何故終始裏声で歌う事になったのかを知りたいところだ。大いなる驚きだったが、しかしファルセットのキース・スウェットもかなり良い。もっと聴いてみたい。なんならこれからもバリバリにファルセットを使えばいいのに。
さて、“スロー・ジャム”に限った話。乱暴な意見だが、私が思う「90年代における”スロー・ジャム”」は、歌と音作りとプロデュース全てを手掛けることができる人に限ってしまえば、それはキース・スウェットとR. Kellyさえいれば事足りてしまう。今回これを書くにあたり、久しぶりにキース・スウェットの1996発表のアルバム『Keith Sweat』とを聴き直してみた。ちなみに1994年発表『Get Up On It』は90年代初頭のストリートっぽさがうまくちりばめられているのだが、アルバム中に”スロー・ジャム”はあるにはあるが、総じてスロー・ジャム度はまだ低めな気がする。1998年発表『Still In The Game』も良いのだが、こちらは2000年代におなじみになる、いわゆる”チキチキ”が既に顔を出し始めていて、スロー・ジャム度が若干低い。16ビートの裏拍をあえて強調する”チキチキ”は”スロー・ジャム”には合わないというのが私の見解。という訳でのアルバム『Keith Sweat』チョイス。やはり安定の格好良さ。自分が音作りをやり出して改めて気付く、アルバムを通しての音楽的完成度の高さに感動。一見シンプルながら、深い。例えば、『Come With Me feat. Ronald Isley』(https://www.youtube.com/watch?v=vPMafJEcZ4w)。客演のロナルドさんも相まって、とてもセクシー。サウンド面からしても実に色々絡まっていながらも、とても聴き易く収めているところなど、随所本当に素晴らしい。”スロー・ジャム”は、柔らかな歌であろうが押し出しの強い歌であろうが、何であれ出来上がりは総じてセクシーに仕上がる。『Funky Dope Lovin’ feat. Gerald Levert, Aaron Hall & Buddy Banks』(https://www.youtube.com/watch?v=2u5qQOIWJKI)は、客演がこれほどに濃いのに結局スウィート。この頃が絶頂期だったアーロン・ホールと、生きる伝説である父:エディ・レヴァート(The O’ jays)に肉薄しつつあったジェラルド・レヴァートのパフォーマンスが素晴らしい。この後に結成された、ジェラルドとキースにジョニー・ギルを加えた3人の超強力ユニット『LSG』も基本“スロー・ジャム”が主体。ここでふと思う。もしここにキース・スウェットがいなかったとしたら。他の2人の音楽的アプローチからして、出来上がるであろう曲のスロー・ジャム度は以外と低かったのではないか、と。キース・スウェットと”スロー・ジャム”。切っても切れない間柄ということか。蛇足だが、ここ最近の新たなる超強力ユニット『TGT(Tyrese, Ginuwine, Tank)』で言えば、キース・スウェット的”スロー・ジャム”のメンターはタンクという事になるであろう。
<西崎信太郎 評>
キース・スウェットの"Make It Last Forever"。この曲を初めて聴いた時の事は、今でも鮮明に覚えています。16歳(1997年)の時に、友人宅のターンテーブルから流れてきたこの曲。僕の中で、初めて「とろける」って感じた洋楽が正にこの曲で、洋楽R&Bのバラードで初めて衝撃を受けた曲。その後、後追いでキースの功績を振り返りながら、同時進行で現行のキースの動向を気にかけ、あのナヨ声と極メロの虜になった1人でございますが、キースのバックグラウンドを振り返る際に、キース像を2パターン思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。1つは、"Make It Last Forever"になぞるバラディアーとしての甘いキース。もう1つは、"I Want Her"から連想する爽快なビートを華麗に操るイケイケなキース(両曲共に87年作のデビュー・アルバム『Make It Last Forever』に収録)。デビュー・アルバムにこれだけ極端な振幅の2曲が収録されたものだから「一体どちらが真実の姿なのか?」と、当時の僕は戸惑ってしまう程で。全ての音が斬新だった当時の僕としては、あの味付け濃い目のニュー・ジャック・サウンドの風味がまだ理解出来ず、既述の通り子供にも優しい甘い風味のバラードがキースの入口だったわけでございますが、R&B通の皆様はどちら派が多いのでしょうかね。
年齢を重ねる毎に円熟味を増して、近年は特にバラードを歌うシンガーとしてのイメージが強くなってきているキースですが(R・ケリーのように逆に年々元気になっている例外もありますが)、そんなバラディアーとしてのイメージを決定付ける1枚『Harlem Romance: The Love Collection』の登場。以前、『The Best Of Keith Sweat: Make You Sweat』というベスト盤をリリースしていましたが、今回はタイトルからお察しの通り、バラードに的を絞った1枚。"Make It Last Forever"も、キース自身がバックアップしたフィメール・グループ、カット・クロースをフューチュアした"Get Up On It"も、ロナルド・アイズレーを迎えた"Come With Me"も収録されている!と、これ1枚でキースのバラード史は網羅出来た、と思いつつ、"Twisted"もジョーとのコラボの"Test Drive"も、ジェラルド・リヴァート&ジョニー・ギルを迎えた"Knew It All Along"も未収録とは!?キース自身も「自分はバラード・シンガー」と言いきっていた時期もあった為、どうせなら2枚組仕様で漏れなくバラードを盛り込んで頂きたかった、というのは少しわがままな要望になってしまいそう。キース自身がテーマ性を持ってリリースしたバラード・ベスト、キースのメロウネスの真髄が味わえる1枚になっている事は間違いないです。以前、ビルボード・ライブで行われたキースの来日を逃しただけに、再来日公演希望です。
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