キャスリン・ビグロー監督『ゼロ・ダーク・サーティ』
脚本・製作/マーク・ボール 監督/キャスリン・ビグロー
出演/ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン、ジェニファー・イーリー、マーク・ストロング
2011年5月2日に実行された、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン捕縛・暗殺作戦。テロリストの追跡を専門とするCIAの女性分析官マヤを中心に、作戦に携わった人々の苦悩や使命感、執念を描き出していく。9・11テロ後、CIAは巨額の予算をつぎ込みビンラディンを追うが、何の手がかりも得られずにいた。そんな中、CIAのパキスタン支局に若く優秀な女性分析官のマヤが派遣される。マヤはやがて、ビンラディンに繋がると思われるアブ・アフメドという男の存在をつかむが……。
☆☆☆☆☆ あまりにもアメリカ的な「社会派エンタメ」
☆☆
【森直人:7点】
監督のキャスリン・ビグローは、前作『ハート・ロッカー』でジャーナリスト出身の脚本家マーク・ボールと組んだことにより突然「社会派」になった。ビグロー自身の持ち味は、危険と隣り合わせの「男の世界」を官能的に描くエンタメだが、ボールはそんな彼女が持つ「業」を、今回はヒロインに直接投影してアメリカ国家自体が抱える「業」と重ね合わせている。結果的に彼らは全盛期のオリヴァー・ストーンの巧いアップデートと言えるかも。
☆☆☆☆☆ 157分間の緊張感
☆☆☆
【松谷創一郎:8点】
CIAの女性がビンラディンを探し続けるというシンプルな物語だが、緊張感を持続させる演出で157分間決して飽きさせない。その題材や手法は『ハート・ロッカー』の延長線上に位置するものなので既知感はあるが、それでも強く没入させられる。そこで911以降のアメリカの“正義”を掘り下げようとする姿勢は、(ラストシーン以外に)さほど見て取れないが、徹底してドキュメンタリックな演出をすることによって観賞者にその判断を委ねている。
☆☆☆☆☆ 責任者にもプライベートはあったはず
☆
【那須千里:6点】
ヒロインのマヤは作戦の責任者ではあるが、いざ突入の時は司令室で待機しており、実際に危険のともなう現場には行かない。そういう立場の人間を通して劇中の事件に「参加」するのは難しい。だからこそのラストなのだけれど。また、18歳でCIAにスカウトされ、20代のほぼすべてをビンラディンの追跡に捧げた彼女にも、若い女としてのプライベートはあったはずだ。その等身大の女性の目線からこの事件を見てみたいとも思った。
▼2/15公開!『ゼロ・ダーク・サーティ』公式サイト
http://zdt.gaga.ne.jp/
▼執筆者プロフィール
森直人
1971年生まれ。映画評論家、ライター。
著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)など。
http://morinao.blog.so-net.ne.jp
松谷創一郎
1974年生まれ。ライター、リサーチャー。
著書に『ギャルと不思議ちゃん論 女の子たちの三十年戦争』(原書房)など。
http://d.hatena.ne.jp/TRiCKFiSH
https://twitter.com/TRiCKPuSH
那須千里
映画文筆業。
「クイック・ジャパン」(太田出版)、「キネマ旬報」等の雑誌にて執筆。