山口に新しいeスポーツのための装置「スポーツタイムマシン」を作った犬飼博士さんと安藤僚子さんのタッグが、制作当時を振り返る連載『スポーツタイムマシン』。今回の執筆は安藤さん。2013年6月23日、犬飼さんよりも先に山口入りした安藤さんは、7月6日の初日に向けて設営を開始します。「カワイイ」ものを作りたいという安藤さんの思いに、地元の人の力がどんどん集まってきます。
こんにちは。安藤です。前回は犬飼さんが、主に東京で開発されたスポーツタイムマシンのデザインやプログラムの事を書きましたが、今回は私が山口での制作の話を書きます。スポーツタイムマシン4回目の連載は、4年前の2013年6月23日、3回目の山口入りのことから書きはじめます。この日から、スポーツタイムマシンのオープンまで、いよいよ山口での滞在制作のスタートです。
滞在制作スタート! ライバル(?)たちの動向を横目に
YCAMへ着くやいなや、すぐに2年前の山口国体のメイン会場だった維新百年記念公園陸上競技場へ移動。山口市の職員で陸上スポーツ少年団のコーチをしている金子さんが県にかけあってくださり、国体で使った陸上用床材を貸していただけることになりました。維新百年公園は山口県の施設で、YCAMからも車で10分くらいのところにあります。最初に山口を訪れた時、地元の人がスポーツする場所を見学したいと思い、犬飼さんと見学に来た場所でした。レノファ山口FCの試合も小学生の陸上競技大会をリサーチしに来たのもこの公園です。 前回2回目の山口滞在では、足りないお金を工面するために山口中を駆け回ってました。募金箱を首から下げて歩き、とにかくいろんな人を紹介してもらい会って話し、お金だけでなく人材や機材の提供もお願いを続けていました。
6月17日ブログ「スポーツタイムマシンを一緒につくろう!」
その成果が、山口県から国体で使った床材をお借りできるということにつながり、幸先の良いスタートとなりました。OPENまであと2週間、久しぶりに戻った山口市の街中を歩くと、YCAM10周年記念祭が始まる前のソワソワとした気配が感じられました。スポーツタイムマシンの会場がある山口市中心商店街には、外灯にフラッグが吊り下げられ、いたるところにポスターが貼られています。おなじLIFE BY MEDIAの出展仲間のブースも着々と建設されていました。
LIFE BY MEDIAでは、私たちを含め3組の作家が選ばれました。 そのうちの一人が、西尾美也さん。ナイロビにアーティスト留学の経験を持ち「服」をテーマに活動しているアーティストです。 様々な芸術祭でよく名前を目にするくらい活躍しており、滞在型制作に慣れた先輩アーティストという印象でした。山口では、市民の人から要らなくなった服を集めて、服の貸し借りができるパブリックなワードローブを作る「パブローブ」という作品の制作でした。 会場は商店街の中心的存在、井筒屋百貨店の目の前の広場でした。西尾さんはまだ山口入りしておらず、作品を展示する為の木造の屋台やポスターなどの制作は、YCAMスタッフが手配をして、彼が来なくとも既に出来上がっていました。3組とも同じ予算での制作です。与えられた、限られた予算の中で、無駄な行動や出費をしないで効率よく制作を進めている様子が伝わってきました。
西尾美也「パブローブ」ウェブサイト
一番乗りで山口入りしていたのは、深澤孝史さん。深澤さんも、様々な芸術際での滞在制作を手掛けているアーティストです。 お金ではなく自分の得意なことを銀行に預けて、預けた人同士が、得意なことを貸し借りできる「とくいの銀行」という作品です。西尾さんの会場のすぐ斜め前の、小さくてきれいな空き店舗が会場でした。店内を覗くと、店舗を銀行の支店に見立てるべく、深澤さんと地元の人で内装の準備を着々と進めていました。
深澤孝史「とくいの銀行」ウェブサイト
滞在制作に慣れている2人と比べ、アーティストとして新参者の私たちスポーツタイムマシンは、無駄に動き足掻いているだけで、まだ何も出来上がっておらず、ずいぶん置いていかれている気持ちでした。
東京を出る前、念のためブログでこんな呼びかけをしておきました。
6月18日ブログ「【募集】山口で会場づくりを手伝ってくれる人!」
スポーツタイムマシンの会場に着き、東京から送った荷物を下しYCAMの町中展示担当の伊藤友哉さんが帰ると、何もない広い会場にポツンと一人投げ出された気持ちになりました。何からすれば良いのか…。とりあえず段ボール箱を机にPCを立ち上げ、ひとりでブログを書きました。 誰か手伝ってくれる人が入ってくるかもしれないという期待から、わざと入口近くに座っていましたが、通りすがりのおばあさんが「何か出来るのか?」とのぞき込んでくるだけでした。明日から本格的に現場施工の開始です。
本当に誰か来てくれるのだろうか? 前回山口に滞在した時にお会いして手伝いのお願いをした人たちは、本当に来てくれるのだろうか? 不安と孤独感でこの日を終えました。
少しずつ現れ始める山口コミュニティの底力
6月24日(月)、現場初日。
午前中に訪ねてくれたのは、舞台照明を専門に施工しているottiの伊藤馨さんと秦電機工業の秦睦雄さんの2名。どうしてもプロでないとお願いできない、壁づくりと電気配線の作業は事前に伊藤さんに依頼していました。 プロが2名も居るとさすがに心強く、サクサクと明日からの工事の段取りの打ち合わせが進みました。しかし、私たち以外に、元々100円ショップだったこの空き店舗に映像とかけっこが出来るスポーツのタイムマシンができるなんて誰も分からないだろう、という不安は拭えません。少しでも町の人に気づいてもらいたい、関わりを持ちたい。手書きの「スポーツタイムマシン建設現場工程表」を表に貼り出し、模型と、手伝ってくれる人募集のチラシを置いて、中の工事の様子の見える化を試みました。
▲スポーツタイムマシン建設現場工程表