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チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、パリのラ・ヴィレットで開催中の展覧会「teamLab : Au-delà des limites」について、現地で話しました。多文化主義を体現しているパリの街。そこから見えてきたのは、デジタル・アートならではの「接続の美」のあり方でした。「本格的に作品同士が越境する」展覧会で実現されるその形とは?(構成:稲葉ほたて)
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▲今回は、パリの展示会場にて猪子さんに語っていただきました!(収録は、展覧会のオープン前である2018年5月13日に行われました)

パリ、到着日に起きたテロ

猪子 今回は、パリのラ・ヴィレットで9月9日まで開催中の大規模展覧会、「teamLab : Au-delà des limites」について話していきたいと思います。まず宇野さん、パリまで来てくれてありがとう。宇野さんに実際に展示を体験してもらったから、その感想を聞いてみたいな。

宇野 そうね……ただその前に、昨日(5月12日)のテロ事件の話をちょっとだけしてもいい? 昨日の夜、ナイフを持った男が5人の民間人を襲う事件があって、事件が起きた時に僕はその現場から500〜600メートルのところでご飯を食べていたんだよね。全然気づかなくて、インターネットのニュースで初めてそのことを知ったんだけどさ。

やっぱり今日は、まずその話に触れずにはいられない。それで、僕が思い出すのは、Brexitから半年ちょっと経った2017年のロンドンで、チームラボが個展「teamLab: Transcending Boundaries」をやったときのこと。あの時あの場所で、「境界のない世界」というテーマで個展をやることに、猪子さんは強い意味を感じていたわけだよね。

猪子 そうだね。当時、この連載でも話したよね。

【参考】猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉 第16回「アートによって、世界の境界をとりはらいたい!」

宇野 今のパリって、言ってしまえばテロの標的として定着してしまっていて、実際に昨日も事件が起きた。それに対して、どんな文化的なアプローチが可能かというのは、今このパリという場所でチームラボが問われていると思うんだよ。つまり、これだけ酷いことがあっても、果たしてパリにいる人々に「境界のない世界のほうがいい」と思ってもらうことができるのか――これはかなり重要なことだと思う。

実際、カリフォルニアン・イデオロギーや多文化主義って、現状はまだ「境界のない世界」の構築に失敗しているわけだよ。カリフォルニアン・イデオロギーというのは、言ってしまえば、コンピュータと経済のパワーを使えば境界を超えられるという思想だよね。一方の多文化主義は、「境界がたくさんあっても、みんな気にしなければいいじゃん」というもので、他人は他人、自分は自分の思想。まさにこのパリという街は、後者だと思うんだけどさ。

猪子 ただ、まだ成功と言うには力が及んでいないかもしれないけど、パリの人たちはそれを選んでいるんじゃないかな。

宇野 そこはすごいよね。実際、僕が昨日のテロの一件でびっくりしたのは、みんな翌日も普通にランニングして、ご飯を食べて、街を歩いて過ごしていたことなんだよ。そこに、テロのようなものも日常に溶け込ませてしまう力を感じた。ある意味、慣れてしまっているということかもしれないけどね。

猪子 街全体がとてもハッピーな雰囲気なんだよね。さっき宇野さんと一緒に行こうとして、人が多くて入れなかったカフェがあったけど、あれもたぶん誰かが演奏会をやっていることで人が集まっているんだよね。そんなふうに、今日もちゃんと日常を楽しみ続けていて、テロに全く屈服していない。

宇野 この街の持つ幸福感は、ある意味では既にテロに勝っている気がするんだよね。多文化主義は破綻した理想だと思っていたけど、舐めちゃいけないなと思い直したよ。現に色々な問題が起こっているので、まだまだ力不足でアップデートは必要なのかもしれないけどね。

猪子 あと、フランス人って本当に「どこの国で生まれた人間か」とかについてほとんど気にしないんだよね。肌の色が何であれ、教養があってフランス的に振る舞うならば、それはフランス人なんだよ。最低限のルールさえ守って人間らしくあれば、多様であっていい。今日も、展示会場の近くで、おじいさんと若い女性がフォークダンスを踊っていたり、若者がその横でヒップホップの練習をしたりで……カオスだったよね(笑)。

今回のパリの展示をした場所も、元は移民街で治安が良くなかったらしいんだよね。そこに対して、ラ・ヴィレットという緑地であり、科学や音楽の専門施設や子どもの遊べる場所やアートに溢れた公園をつくって、街の雰囲気が変わっていっているんだよ。

公園内には運河が通っていて、建築であり彫刻でもあるオブジェが点在して、アートに溢れているんだよね。隣には、昔この連載でも取り上げた、ジャン・ヌーヴェルの「パリ・フィルハーモニー」という音楽ホールもある。あのヤバい建物を見るたびに落ち込むんだよね……どうやったら、あんなかたちに行き着くことができるのか、そして、どうやったら、あれを国が建ててくれるのか全くわからない(笑)。

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フィルハーモニー・ド・パリ

宇野 昨日見たけど、あれはやばかった。変態的な建物だよね(笑)。

それにしても、今日はこの街をぶらぶらしながら、これから日本の都市はどうなっていけばいいのか、考えさせられたよ。だって、東京ってパリに比べて歴史の長さは負けるかもしれないけど、街や人の規模と財力では勝っているはずだからね。方向性として、例えばアメリカみたいに人口100万人いかない都市を全国につくって車で維持する分散型にするか、ヨーロッパみたいに大都市集中型にしていくのかの二択があると思うけど、今回のパリでは大都市で人が集積していることのメリットの方を感じられたね。

猪子 そんな街で大きい展覧会をやると、フランス中どころかEU中からメディアが来てくれるんだ。さっきはドイツのテレビ局が来たし、明日なんて100社以上の取材が来る。「ル・モンド」が「内覧会の前に撮りたい」とわざわざ取材に来てくれた大きな記事も出る予定だし、APF通信も大きく出してくれている。しかも今、そんなパリの街中に、チームラボのポスターが貼られまくっているんだよ。本当に優しいし、ありがたいよね。

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宇野 単純に素晴らしいよね。例えばソウルと東京の文化状況とかが、距離的には全然離れていないのに全然共有されていないこととかを思うと、ちょっとこの街に嫉妬してしまうね。

デジタルアートは接続の快楽を生む

宇野 さて、ちょっと前置きが長くなってしまったけれど、ここから展示そのものについて解説してもらっていいかな。まず、入り口が二つあるよね。

猪子 「エキシビジョン」と「アトリエ」の二つに分かれているんだよね。世界の美術館って、教育的な意味合いで子どもがワークショップをするスペースがあることが多いんだけど、このアトリエというのはまさにそれ。入るとすぐに、『グラフィティネイチャー - 山と谷』の絵なんかを描く、お絵かきルームがあるんだよね。花や蝶、カエルやトカゲを描くんだ!


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