不動産プランナーの岸本千佳さんによる連載『都市を再編集する』。今回は、岸本さんが自身の事務所のために行ったリノベーションです。人づてに舞い込んできた、微妙な立地の業務用倉庫の案件。決してポジティブではない諸条件をプラスに転換すべく、岸本さんの「再編集」が始まります。
何の変哲もない倉庫に潜む新しい価値
前回までは、建物の所有者から依頼が来て、プロジェクトがスタートしましたが、今回は、はじめて自らリスクを取ってスタートしたプロジェクトです。金額も規模も小さいですが、小さく始めることが大事だと心がけています、何事も。
2015年夏、間借りをしていた事務所を出て、そろそろ自分の城をつくろうと考えていました。ここは不動産屋という身分を存分に生かしてお得な物件を借りて、プランナーらしく、せっかくなら自分を実験台に、他人の物件ではできない何か面白いことをしてみたい。
場所や家賃といった条件はかなり広範囲に、ぼんやりと考えていました。広ければ誰かに貸したり、シェアできる人を見つければいいと思っていたからです。
そんな矢先、知り合いの工務店さんから「物件を見に来てほしい」と電話がありました。これまでも何度か物件の相談を受けている工務店さんで、私の運営している物件メディアに掲載する、もしくは活用のアイディアがあれば企画から入る。内見時は、そのどちらも可能性があります。なんでも、工務店自身が使っている「倉庫」とのこと。物件は例えば事業用(店舗など)の場合、住居よりも通常高い賃料だったり、用途によって金額が決まってきます。その中でも倉庫は最底辺。
だけど、使う側にしてみれば、不動産屋と大家で決めた用途が必ずしもハマるわけではない。私は、駐輪場バーや木賃アパートのシェアアトリエのこれまでの経験から、「用途に惑わされず、ピュアな眼で空間だけを見る」ことの重要性を知っていました。