NPO法人ZESDAによる、様々な分野のカタリスト(媒介者)たちが活躍する事例を元に、日本経済に新時代型のイノベーションを起こすための「プロデューサーシップ®」を提唱するシリーズ連載。第4回目は、大阪市の施設「クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック」でクリエイター・デザイナーの支援活動に取り組む堂野智史さんです。前編に引きつづき、大阪におけるクリエイティブ産業支援の状況やコーディネート手法についての詳細な情報や、制度設計の考え方が語られます。そこでマッチング支援者が心がけるべき、「沿道の応援者」としての姿勢とは?
プロデューサーシップのススメ
#04 イノベーティブな関係性を創る〜大阪・メビックの活動を通して(後編)
メビックのミッションと活動内容
メビックは、大阪市経済戦略局が設置し、公益財団法人大阪産業局が運営受託している施設で、大阪で活動するクリエイティブ産業の振興を目的としています。そのミッションは、大阪のクリエイターが活動しやすい事業環境を整備し、クリエイターの自立・成長を促すことです。大阪を拠点に、営業は国内外どこででもやってもらえばいいのですが、最終的には、家族や従業員がいる大阪で競争力を発揮して活動してもらいたい、そんな状況を創ることができればと考えています。
そのためには、2つのキーワードが大事かなと。一つは、大阪に「仕事」があること。もう一つは大阪に本音で話ができる「仲間」がいること。そんな状況を創ることができれば、大阪のクリエイティブ産業の「未来」が拓けるのではと考え、行動しています。
なぜ大阪市がクリエイティブ産業振興に取り組んでいるかというと、クリエイティブ産業自体、様々な分野の産業や社会経済に影響を与える、重要なサポーティングインダストリーであることが挙げられます。大阪には全国第2位の同産業集積があるにもかかわらず、マーケットの東京シフトが進む中で東京への移転傾向がみられます。しかし、大阪全体の産業や社会経済を発展させるためにも、大阪に拠点を維持し活動を継続することで、他産業や社会経済に対し波及効果を及ぼすことが不可欠だと考えているからです。
ただ、大阪のクリエイティブ産業は、デジタル化の浸透により人と人とのリアルなコミュニケーションが希薄になっていること、クリエイティブ産業自体、業界が細分化されているのに対し、クリエイティブ市場は複数の業種でないと対応ができないほど複合化が進み、供給と需要の間にミスマッチが生じていることなどが問題点として考えられます。
メビックでは、こうした問題点や課題に対応し、大阪のクリエイターが自分のやりたい仕事を大阪でやり続けられるような状況を創ろうと日々活動しています。
そこで、メビックの具体的活動についてご紹介しましょう。メビックでは、クリエイティブコミュニティの中に、日々新しいクリエイターや企業等を誘い込んでいます。
大阪で活動する新しいクリエイターを見つけては、現役のクリエイターで構成するコーディネーター同伴のもと面会し、その人の情報を共有するとともに、メビックで開催するイベント等を紹介し、クリエイティブコミュニティに誘っています。
一方、クリエイターに仕事を依頼したり、クリエイティブに関する案件について相談したい企業等についても、コーディネーター同伴のもと面会し、クリエイターとの出会い方やコミュニケーションの取り方等について話をし、最終的にはクリエイティブコミュニティに誘い込みます。
クリエイティブコミュニティの中では、クリエイター同士、クリエイターと企業等が互いにコミュニケーションを取り、互いに意気投合する人を見つけて、つながり、最終的には何らかの形でコラボに結びつくケースも多々ありますが、そこは当事者に任せる部分で、メビックとしては仲介等は行いません。あくまでも当事者同士の責任のもとで自由に行って頂くようお話ししています。
なお、こうした出会いの機会は、年間200日、150回程度にも及び、様々な切り口で形を変えて頻繁に行うことで、そこに集まる人と人との関係性を熟成させるよう努力しています。
その結果、2019年6月1日現在1564のクリエイターの事業所が、メビックWEBサイト「クリエイティブクラスター」に掲載されています。これらの事業所の代表者または主要クリエイターに対しては、メビックスタッフが必ず面会しており、顔の見える関係を創った上で情報発信をサポートする形を取っています。
また、クリエイティブコミュニティに参加するクリエイターや企業等に対し、イベント等を通じて互いのコミュニケーション機会を増やし、関係づくりを熟成させた結果、商取引・新事業創出、高付加価値などの面で様々な結果が生まれています。メビック設立以来、報告を受けているだけで、契約関係にある、あるいはプロジェクトとして形になったコラボレーション案件は3,362件にも上っています。
メビックのこうした活動を支える工夫の一つに、“現役”のクリエイターにコーディネーターを委嘱する「クリエイティブコーディネーター(通称:コーディネーター)」という制度があります。メビックでは、現役のクリエイターにコーディネーターを依頼するという、他に例を見ない方法を12年前から採用しています。
なぜ“現役の”クリエイターを活用するのかというと、いくつか理由があります。