「相談というのは、どうやってすれば良いのでしょうか?」
相談者:サシヒャライネンさん(栃木県・29歳男性・フリーター)
Q.
國分先生はじめまして。
いつも楽しんで(楽しんで良い物なのか難しいものも多々有りましたが)読ませて頂いていた人生相談が終了してしまうということで、自分もなにか相談しようと思い筆をとりました。
そして「さて、何を相談しようか」と考えた所で気付いたのですが、どうも自分には大小問わず人に持ちかけるような相談事が無いようなのです。
それで思い当たったのですが、自分はどうやら人に何かを相談するという事がこれまでの人生で殆ど無かったのでした。
両親が幼い頃に離婚して女性家系である母方に引き取られ身近に相談できる同性の年長者がいなかった事や、完全に文化系な自分に対して家族の殆どが体育会系である事、根がいい加減でふざけた性格であるらしく重い空気が苦手な事など、いくつかの理由が重なっていると思います。そして極めつけがうちの家系はどういう訳か絶対に間違いを認めない血筋であるらしく、 何か自分が意見を言うと「アンタは間違ってる」と碌な説明も無いまま切り捨てられてしまうという事が多々あり、酷い時は明らかに相手が間違っていても自分の意見が容れられる事はなく、いつの間にか家族に対し何かを言うことが億劫になってしまった事です。勿論、自分の意見が絶対に正しいなどとは思いません、家族の言い分も何割かは理解出来る事が多いのですが、自分にも何割かは理があるだろう、とそう感じるのですが、彼女たちは100対0で自分たちが正しいと言わんばかりの勢いです。そんな訳で、学生の頃から大体の悩み事は自分でひたすら考える以外の対策を取ったことがありません(家族にさえ理解を得られないのに、ましてや他人では…という諦念が学生の頃は特に強くありました。今も少し残っています)。
それで大体の場合はなんとなくの結論が出ましたし、そこにきて元々考えるのが好きだった性格もあり、そうした事は苦にならなかったのですが、それでも時折、誰かの言葉が欲しくなります。
しかし他人どころか家族にも相談を持ちかけた事がないので、その時々の悩みに関して適切な距離感での相談が出来る相手やその作法が解らないのです。
また、そうして適切な距離感や作法をあれこれ考えてる内に、外堀が埋まるような形で悩みに対する答えが出てしまうこともあり(この程度の相手にこう相談を持ちかけたい、と考えたいうことは自分はこう思っているのだろう、という様に)、ますます他人に相談する事が無くなってしまいます。
なんでも一人でやってしまう、考えしまうというのが良くないことは重々解っていて、ガス抜き程度の愚痴はよく友人にこぼしますし、時には冗談の形で本音を出したりもしてみますが、やはり余りにシリアスな空気での相談事というのができません。
結局はトライ&エラーで適切なやり様を見つけるしか無いのでしょうが、これまで約30年間これでなんとかやれてしまった自負が邪魔をして失敗して今上手くいっている関係が壊れてしまうリスクを負う踏ん切りがつきません。今の友人や職場はとても好きで、壊したくないのです。
果たしてこのままで良いのでしょうか?
それともやはり、関係が崩れるリスクを負ってもトライ&エラーに踏み切るべきでしょうか?
相談というより殆ど愚痴のような内容になってしまい恐縮ですが、お答えいただければ幸いです。
A.
ご相談をお寄せいただきありがとうございます。
サシヒャライネンさんに僕は非常に強い共感を抱きました。なぜなら僕も「人に何かを相談するという事がこれまでの人生で殆ど無かった」からです。誰かに相談するという環境もなかった。他人に理解を得られるはずがないだろうと諦めていた。よく分かります。
しかも自分で考えればだいたい問題は解決してしまう。「外堀が埋まるような形で悩みに対する答えが出てしまう」とはなかなか面白い表現ですね。なるほどと思いました。
ただ、いまサシヒャライネンさんはそれなりに他人の言葉が欲しいという気持ちを感じている。また、なんでも一人でやってしまったり考えてしまったりするのは良くないことだとも思っている。この辺りがとても大切ですね。
さて、僕はちょっと前にこんなことを知りました──つらいことがあった時、あるいは何か苦しい思いを抱えている時、それを人に離すと楽になるというのです。サシヒャライネンさんは知ってましたか? 最近はよく学生にも「知ってる? つらい事って人に話すと楽になるんだよ」って聞いてます(笑)。
なんか笑っちゃうような話です。だって、多くの人はそんなことは世間知として知っている。それをアラフォーの男がやっと知り、しかもその効能を実感する、と。でも、意外とこのことを知らないひとは多いのではないでしょうか? そして、サシヒャライネンさんや私のように、誰かに相談するということを実践してきていないがために、つらいことを誰かに話したいけれどもその「作法」が分からない……そんな人も多いのではないでしょうか?
僕は家庭内でそれをすこしずつ実践していきました。そうして分かったのは、とにかく口に出すのが大切だということです。