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レタスの村のグローカルビジネス|西尾友宏
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レタスの村のグローカルビジネス|西尾友宏

2021-04-21 07:00
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    中小企業の海外進出が専門の明治大学・奥山雅之教授とNPO法人ZESDAによるシリーズ連載「グローカルビジネスのすすめ」。地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践から学ぶ研究会の成果を共有してゆきます。
    今回は、長野県川上村の副村長を務めた農林水産省の西尾友宏さんが、シビアなデータ分析に基づいた施策で村の課題に対処していった事例を紹介します。レタスの生産高日本一を誇りながらも、付加価値の低下と人口減少にあえいでいた村の苦境に対し、特に女性と外国人の労働環境にケアすることで新たな可能性を切り拓いていったプロデュースの手法とは?
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    グローカルビジネスのすすめ
    #06  レタスの村のグローカルビジネス

     近年、新たな市場を求めて地方の企業が国外市場へ事業展開する動きが活発になっています。日本経済の成熟化もあり、各地域がグローバルな視点で「外から」稼いでいくことは地方創生を果たしていくうえでも重要です。しかし、地方の中小企業が国外市場を正確に捉えて持続可能な事業展開を行うことは、人材の制約、ITスキル、カントリーリスク等、一般的にはまだまだハードルが高いのが現実です。
     本連載では、「地域資源を活用した製品・サービスによってグローバル市場へ展開するビジネス」を「グローカルビジネス」と呼び、地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践の事例を通じて学ぶ研究会の成果を共有します。
    (詳しくは第1回「序論:地方創生の鍵を握るグローカルビジネス」をご参照ください。)

     今回は、農林水産省の西尾友宏氏にご担当いただきます。西尾氏はレタスの生産で名高い川上村の副村長を務めるなかで、村のビジネスモデルや習慣が抱えていた問題を見抜き、グローカルビジネスをプロデュースしました。また女性活躍の筋道を立てることで、彼女らのニーズやポテンシャルを汲み取りながら従来型の産業に頼らないビジネスを構築するという方法は、他の地域にも十分応用が見込めるものでしょう。行政からグローカルビジネスの支援を行う成功例に注目します。
    (明治大学 奥山雅之)

    「レタス日本一の村」の現実

     本稿では「レタスの村のグローカルビジネス」と題して、地方創生、多様性、女性活躍をテーマとしたグローカリゼーションの事例をご紹介させていただきます。
     まずは簡単に自己紹介をさせていただきます。私は農林水産省に勤めており、平成27年から30年度にかけて長野県の川上村に赴任し、副村長を務めました。当時は安倍内閣の政策として地方創生に重点がおかれており、川上村のプロジェクトも地方創生政策の一つの事例をつくるという目的をもって立ち上げられました。実際に現場に入り、当事者の目線で地方創生施策を主導してきたというのが私の主な経歴です。
     川上村は長野県の東の端に位置する小さな村です。長野県で唯一埼玉県の秩父の裏側に接しており、東京から直線距離だと100㎞も離れていない場所にあります。標高が非常に高く、年間の平均気温も8.5度と非常に低いため、夏場も涼しくてレタスや白菜などの高原野菜の生産が非常に盛んな地域です。人口はわずか4000人ほどで、農家の数は500軒ほどにも関わらず、野菜栽培で年間208億円もの年商をあげています。農家一軒あたりの平均年商が4000万円を超えているということなので、農業の分野では非常に成功している部類に入る村だと言われていました。
     そもそも地方創生とは、全国の地方で人口の減少を止めるために多くの政策を考えて実行していきましょう、という施策の体系です。地方に稼げる仕事がないことから、若い人が大都市、特に東京に集中してしまいます。このローカル人材の流出を防ぐことが、地方創生の一つの大きな意義であると言えるでしょう。
     その意味では、川上村は一見して特殊な状況にありました。川上村には、先にご紹介した通り、高原野菜の栽培という年商4000万円超を稼ぐことができる大きな仕事がありました。にもかかわらず、川上村の人口は着々と減少していました。地方創生という観点から見ると、川上村も例に漏れず人口が減少しており、何らかのアクションが必要な状態だったのです。

     私が赴任をして最初に行ったことは、川上村の人口減少の根底にある原因を探ることでした。人口減少のトレンドを表すいくつかのデータを見てみましょう。まず世帯増減の推移に注目すると、2009年〜2013年における平均転入数が88.4人であるのに対し、転出数は140人。すべての年で転出超過になっていることが分かりました。また、合計特殊出生率の推移をみると、バブルまでは2を超えていましたが、徐々に減ってしまい、現在は長野県の平均と比べても低くなっています(図表1)。

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    図表1  合計特殊出生率の推移
    出所: 人口動態保健所・市区町村別統計

     その理由は人口ピラミッドが物語っています。人口ピラミッドの女性の部分、とりわけ一般的に出産適齢期とされる20代から40代の人口が少なくなっていたのです。つまり、若い世代の女性が少ない。これは地方に典型的なことなのですが、村から出た女性が都会に移り住み、村の女性が少ない故に子供が生まれない、という分かりやすい状況です。

     しかし問題は人口の推移だけではありませんでした。図表2は川上村の主力産業であるレタスの収穫・出荷量の推移と、人口の推移とを横に並べたグラフです。レタスは保存が効かないという特徴があるため、その需要量は単純に胃袋の数に比例することになります。そのため、人口が多い時代には生産量も上がり、人口が横ばいになると生産量も落ち着いてきます。今後、日本は大きな人口減少時代を迎えます。そのときに、レタスの栽培面積がどうなるかというのは、火を見るより明らかです。

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    図表2 相関するレタスの全国収穫・出荷量(左)と国内人口(右)の推移
    出所: 農林水産省「農林水産統計年報」 / 国立社会保障・人口問題研究所「H18 日本の将来推計人口」

     しかし、レタスを生活の糧にする以上、結論としては量をさばくことでしか稼ぎは見込めません。そのため、個々の農家は収益を増やすために、レタスの生産量を増やすことになります。過去30年間、日本人一人当たりのレタスの消費量は横ばいで、年間1.9㎏であるとのデータがあります。しかし、日本で生産されたレタスの総量を日本の人口で割ると、およそ3.6㎏栽培しています。このことから、日本人は実際に消費する量にせまるレタスを廃棄していることが分かります。
     レタスの需要量が減っていく一方で、レタスをつくらないとお金が稼げないというような産業構造を維持するというのは、非常に危ういと言わざるをえません。これが当時、川上村のおかれていた状況でした。

     加えて注目すべきは、川上村の「付加価値額順位」(人口一人あたりのGDP)です。これは一人あたりどれだけの付加価値を産み出しているかという指標です。この指標に関して、川上村の額は117万円となっています(図表3)。4000万円超売り上げているにも関わらず、付加価値額の順位を全国の市町村に並べると、全国約1700ある市町村の中で1467位になっています。つまり、GDPベースに換算すると、実はまったく稼げていないということになります。

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    図表3 川上村の一人当たり付加価値額と全国市町村順位
    出所: 環境省「地域産業連関表」、「地域経済計算」(株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)受託作成)

     売上高は多いけれども、収益の部分が実は非常に低いのです。117万円というと、社会保険における扶養の基準である130万円にも満たない額です。川上村の農業が成功していると言われていても、実際に一人当たりで稼いでいるのはアルバイトよりも少なかった、というのが川上村の経済の本質でした。高コスト構造であり、付加価値生産額が非常に少ないということです。また、地域経済の自立度が低いことも問題でした。これは多くの田舎に当てはまりますが、せっかく200億円稼いだとしても地域に商店などが少ないため、そのほとんどを自分の村の外で使ってしまっています。外で使ってしまっているが故に、地域の中での再生産がなかなか起きないというような低経済循環でした。
     この経済の構造を整理してみましょう。まず川上村の産業構造の特徴として、巨大な生産シェアが挙げられます。真夏の期間、川上村のレタスは全国のレタスのシェアの8割に迫る場合もあります。みなさんが何気なく食べているレタスも、実は川上村のレタスだということが多いでしょう。
     しかしこの巨大生産地は、労働あたりの生産性が低く、さらに生産の量に依存するという大きな課題を抱えていました。長期的に見ても需要量が減っていき、レタスの価格が低下していく分を、個々の農家ではその翌年の生産量の拡大で賄おうとします。需要量が減って、モノが余っていくのに、農家が生活を安定させるためにますます生産量を増やしていってしまうといういびつな構造があるということです。
     また、労働集約型の農業であるが故に、外国人の労働者をたくさん確保しなければいけないという点もこの問題を助長していました。生産のピークを迎える時期には、外国人労働者の労働力は貴重な戦力になります。しかし農業という業種には、一年を通して一定の仕事量があるわけではなく、栽培に適さない「農閑期」と呼ばれる期間があります。一度外国人労働者を抱えてしまうと、その期間におけるコストを抑えるために、本来は農閑期であったはずの時期にもさらに生産を増やそうとしてしまいます。
     私はこの現地の問題に対して、いわゆる減反政策などに代表されるような、計画的に生産をコントロールしていくというタイプの施策には未来がないと感じました。問題は、まさにモノカルチャーのレタスの栽培でしかお金を稼げていないことにあります。そこで、この村に他の産業を新しく創っていくことで、相対的にレタスに対する依存度を落としていこうということを策として掲げました。

    なぜ女性の幸福度は低いのか?

     経済の問題に加えて、人口減少の対策にも取り組まなければなりません。川上村では20代から40代の半分以上に配偶者がいないという状況で、配偶者がいなければ当然子供も生まれません。人口減少に拍車がかかるのも納得です。
     農業の主役となる男性の配偶者は、村の外から来ることが多いのが現状です。この点がある以上、外から移り住んでくる女性が住み良いと思える地域でなければ、非婚率は下がらないのではないかと考えました。女性に川上村の生活を楽しんでもらい、川上村で生活をしたいと思ってもらえるような環境をつくらなければいけないということで、先ほどの経済の多角化とならんで、女性の活躍推進をもう一つの施策としてすすめました。
     実際の子供の数と理想の子供の数を統計に照らし合わせて比較すると、川上村の暮らしに満足している人の方が、実際に満足していない人よりも、理想の子供の数が増えていることが分かりました。
     地方創生のためによく行われている施策として、子供が生まれた時に自治体からお祝い金を支払うということが挙げられます。もちろん、それは一市民、一国民としてありがたいことですが、それがストレートに少子化対策につながるかというと、疑問が残ります。そのような一時的な措置ではなく、むしろその地域の生活に満足していることの方が、希望する子供の数、実際の子供の数ともの増加につながるということも、実際のアンケートデータとして出ていました。

     図表4は、結婚幸福度調査にもとづく川上村の位置付けです。これを見ると、男性と女性の間で川上村の生活に対する意識が分かりやすく異なっており、女性の幸福度が非常に低くなっています。女性の幸福度が低い状態が続けば、都会に出た村の女性は帰ってきませんし、外からの女性も来てくれないというのは当然の結果です。

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    図表4 総合・男女別の結婚幸福度順位(括弧内はQOM指数)
    出所: パートナーエージェント「全国QOMランキング」
    川上村の数値は2016年時点での概算値(筆者提供)


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