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SDガンダムが生まれた日
――「かっこいい」と「かわいい」
の間にある80年代の批評精神
(イラストレーター・横井孝二インタビュー)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.4.14 vol.303

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2015年で30周年を迎える「SDガンダム」。二頭身にぎゅっと縮められた独特のディフォルメで、本家ガンダムとは全く異なる発展を遂げた大人気シリーズは、なぜ生まれたのか?
その不思議なフォルムが生まれた背景と意義について、SDガンダム生みの親「横井画伯」として知られるイラストレーター、横井孝二氏にインタビューを行いました。

 
▼プロフィール
横井孝二(よこい・こうじ)
1968年生。学生時代に「模型情報」誌への投稿が注目され、10代からイラストレーターとして活躍。「SDガンダム」を生み出したキャラクターデザイナーとして知られる。
twitter:@nisegundam
 
◎構成:池田明季哉
 
 
■ イラストレーター横井孝二の原点
 
宇野 「SDガンダム」は今年で30周年を迎えますよね。僕は今年で37歳なのですが、僕らの世代にとってSDガンダムは基礎教養のようなもので、小学生くらいまではSDガンダムに人生を費やしたと言っても過言ではありません(笑)。そこで今日は、そのSDガンダムの生みの親である横井さんにお話を伺いたいと思ってやってきました。よろしくお願いします。

横井 ありがとうございます。節目のいいタイミングでお話をいただけてよかったなと思っています。よろしくお願いします。

宇野 もちろんSDガンダムのお話も伺いたいのですが、今日はどちらかと言うとキャラクターデザイナー、あるいはイラストレーター横井孝二にフォーカスしたいと思っています。
 横井さんが雑誌の投稿から10代でデビューしたということはファンの間では有名な話ですが、絵描きとしてのルーツはどのあたりにあるのでしょう?

横井 本当に昔からSDのような縮んだ絵ばかり描いていたんです。美術系の学校に行ったわけでもなく、我流です。
 幼い頃(70年代)はもうテレビやマンガが溢れていましたからね。その頃には手塚治虫や石ノ森章太郎も出てきていましたし、ディズニーも全盛でしたし。だから子供の目の前に出てくるのは、ディフォルメされて丸みを帯びたものが多かったんです。家にあった「のらくろ」なんかも、一画面に犬の軍隊と豚の軍隊が集合している絵が気に入ってよく読んでいました。その影響なのかな、縮んだ飛行機とか、縮んだロボットとか、そういうちまちました絵をいっぱい描きたくて、B5くらいのノートに10個とか20個とか描いてました。
 もう少し時代は後になりますが、一番好きだったのは鳥山明さんです。鳥山さんは宇宙船を描くとき、ロケットを持ってくるのではなくて、ヤカンとか炊飯器とかそういうものを宇宙船にしてしまうんですよ。そういった身近な変わったスタイルとSFをくっつけてしまうところや、丸いカーブやぎゅっと縮んだシルエットがとにかく好きで、ずっと鳥山さんの絵を写していましたね。
 
 
■ 雑誌からスタートしたキャリア
 
宇野 横井さんは学生のときに雑誌「模型情報」に投稿したことがデビューのきっかけだったとお聞きしているのですが、その頃からもうイラストレーターになろうと思っていたんですか?

横井 中学生くらいのとき、もう絵にハマりすぎていて学業が疎かで受験の準備も一切していなかったので、教育熱心な母親が、描いた絵を全部破るんですよ。「こんなもん描いてる暇があったら勉強しろ!」って。そうなると子供だから余計腹が立って続けたくなるじゃないですか。言われても言われてもずっと絵ばかり描いていて、もう絵が描きたいのか親に反抗したいのかわからなくなってました(笑)。
 そうやって隠れて絵を描いてたんですが、ある日雑誌を見ていたときに「模型情報」はイラストが少ないな、という事に気付いたんですよね。プラモデルについての意見が多かったわけです。だから「ここなら描いたら載るかも?」と思ったのが投稿したきっかけですね。

宇野 これは平成生まれの若者に声を大にして言いたいのだけれど、雑誌の投稿欄がイラストレーターの登竜門だった時代があったんですよ! pixivの投稿を見て出版社から連絡が来たり、コミティアに編集者がうろついていて、向こうから名刺を渡してきて仕事をくれる時代じゃなかった、と。

横井 当時のアニメ雑誌は、「俺を見ろ!」という感じの自己主張の強い投稿が多かったですね。投稿欄に今のアニメ界のビッグネームが本名で出ていたりしていました。
 それで雑誌に投稿していたら編集長さんが気に入ってくれて「四コマ漫画を描いてみないか?」と言われたんです。それでバンダイさんの広報誌に、当時のガンダムのプラモデルを批判するような四コマを描いちゃって(笑)。

宇野 ちなみに何のキットですか?(笑)

横井 1/100のガンダムのお腹って、変形の都合なのかコアファイターが丸見えなんですよね。それをガンダムが「これどうなの?」って指差している漫画。そういう嫌味めいた漫画を何ヶ月か描いていました。学生ですから、言っていいことと悪いこともわかっていないんで、嫌味の言い放題ですよ(笑)。今思えば編集長さんの度量が広かったんでしょうね。
 
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▲実際の「模型情報」に掲載された四コマの一部。
 
宇野 これは当時の雑誌文化を物語るいい話ですね。

横井 そういうことをやっているうちに「玩具の企画を手伝ってくれないか」という話が来て、ガシャポンの「SDガンダム」の企画が本格的にスタートして、お手伝いすることになったんです。それが18歳ぐらいのことですね。
 
 
■ なぜ「ガンダム」を縮めたのか
 
宇野 横井さんはなぜガンダムという題材を選んだんですか? 投稿されるときには既にガンダムの絵を選んで描いていたわけですよね。

横井 小学生のとき、まわりの男子は戦車とか飛行機とかミリタリー模型が好きだったんです。それで当時、同級生の女の子がガンダムにハマっていたんですが、「ちぇっ、なんだよいい年こいてガンダムガンダムだのアニメだの」って思ったりしていました。いや小学生なんですけどね(笑)。

宇野 「ガンダムは最初女性ファンが多かった」というのはよく言われていますよね。

横井 その女の子の誕生日にプレゼントを買おうということになって、ガンダムの載っているアニメ雑誌を見てみたんです。そうしたら、そこにモビルスーツがたくさん出ていた。ガンダム自体はあまりにアニメヒーローロボットっぽくてそれほど好きではなかったんですが、ザク、グフ、ドム、ズゴック、そうしたモビルスーツの丸みを帯びたフォルムと、量産型などの設定も含めたメカニカルなところが気に入って、そこから一気にハマったんです。そうやっているうちに、世の中はガンダム一色になっていって、結局クラスの男子もみんなガンダムにハマっていったという感じでした。

宇野 ちなみに「ウルトラマン倶楽部」とか「仮面ライダー倶楽部」も手がけていたと思うのですが、特撮もお好きでしたか?

横井 仮面ライダーは新一号世代ですね。以後は特撮ヒーロー漬けの日々です。「倶楽部」の企画が始まるやいなや、嬉しくて怪人の絵をひたすら描いていました。


宇野 僕は、当時バンダイやバンプレストが出していた「ヒーロー総決戦」や「ザ・グレイトバトル」のようなゲームにハマっていました。ガンダムとウルトラマンと仮面ライダーは頭身も大きさもテイストも全く違うけれど、SDにすることで違和感がなくなるという感覚はとてもユニークだったように思います。

横井 同じタッチで一画面の同じところにバラバラな個性のやつがたくさん並べられると、すごく嬉しかったのを覚えています。

宇野 もしかしたら、そうした感覚が「スーパーロボット大戦」シリーズに繋がっていったのかもしれないですね。
 
 
■「RX-78-2」のディフォルメに隠された意外な苦労
 
宇野 横井さんは80年代から90年代にこうしたディフォルメキャラクターをたくさん描かれているわけですが、その中で書きやすかったものや書きにくかったものってありますか?

横井 実は「RX-78-2」のガンダムが苦労しました。あのガンダムって、目の下に赤い隈取りみたいな部分があるじゃないですか。あの部分の処理が難しくて、いっそなくしてしまおう、と思うまでかなり時間がかかりましたね。

宇野 自分のデザインの中で、これは傑作だというものは?

横井 やっぱり「にせガンダム」ですかね。もともとはガンダムとザクを合わせてみたくて描いたキャラクターだったんです。連載していた漫画にも出したんですけど、連邦陣営にもジオン陣営にも入れない不遇のキャラクターでした。SDガンダムには、戦国時代風の「武者ガンダム」、中世RPG世界の「騎士ガンダム」、ミリタリー色の強い「SDコマンド戦記
G-ARMS」などいろいろありますが、「にせガンダム」はそのどの世界にも似合わない、かわいそうなキャラクターなんです。どこにも属さないからこそ、自分のキャラクターとして愛着があります。

宇野 でも「G-ARMS」の「マスクコマンダー」に、「にせガンダムmk2」へのコンパチがあったじゃないですか。

横井 ああいうかっこいい役目はにせガンダムには向いていないんですよ(笑)。

宇野 そうか、あれはにせガンダムmk2だからこそできることなんですね(笑)。
 
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▲「SDX マスクコマンダー」。ガンダム風の黒いマスクの下には、にせガンダムmk2の顔が隠されている。
 
横井 あとは「騎士ガンダム」は気に入っています。甲冑の丸いフォルムがうまくマッチしたなと思っています。
 にせガンダムも騎士ガンダムも、どちらも苦労して描いたというわけではないんです。でもどちらも力を入れずに、ユルいところがいいのかもしれないと思うんですね。経験上、気合を入れて描いたものは、根強く好きになってくれる人はいるんですが、広くは受けない。意外とユルいものの方が受け入れられるのかもしれません。
 
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▲「騎士ガンダム」。丸みを帯びた独特のフォルム。
 
 
■「かっこいい」と「かわいい」の間で
 
宇野 横井さんのディフォルメって、本当に「かっこいい」と「かわいい」の中間ですよね。でも僕は当時、SDガンダムを自然と「かっこいいもの」として買っていた。普通はキャラクターをディフォルメすると、本当にかわいくしてしまうと思うんです。こいつ絶対に戦わないだろう、絶対に自己主張しないだろうというものになってしまう。でも横井さんのデザインは、かわいくてギャグ漫画もできるのに、同時に戦える存在でもある。
 少し変な話をしますけど、僕の友人に萌え系のアニメに出てくるキャラクターが好きなアーティストがいるんですが、彼は「人間じゃないけどセックスできるのが最大の魅力なんだ」と言うんですね。僕は萌え系アニメはあまり好きではないのですが、同じように「リアルな身体じゃないんだけどちゃんと戦うことができる」「かっこよさを主張することができる」ということが、80年代にレイアップと横井さんが体現していた、SDキャラクターの魅力の本質だったと思うんです。このテイストは世界中探しても日本にしかないんじゃないかと思うんですよね。


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