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大作シリーズの間隙で到達したゲームデザイン進化の極相〜『ガンパレ』『ICO』『塊魂』(中川大地の現代ゲーム全史) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.323 ☆
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大作シリーズの間隙で到達したゲームデザイン進化の極相〜『ガンパレ』『ICO』『塊魂』(中川大地の現代ゲーム全史) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.323 ☆

2015-05-15 07:00

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    大作シリーズの間隙で到達した
    ゲームデザイン進化の極相
    〜『ガンパレ』『ICO』『塊魂』
    (中川大地の現代ゲーム全史)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.15 vol.323

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    本日は、月2回連載となった『中川大地の現代ゲーム全史』最新回をお届けします。今回のテーマは、PS2発売前後の端境期に登場した『ガンパレ』『ICO』『塊魂』といった異形の佳作たち。そのゲーム史的なインパクトを改めて振り返ります。

     
    「中川大地の現代ゲーム全史」
    第9章 和ゲー成長期の終わり/二極化してゆくゲーム産業
    2000年代前半:〈仮想現実の時代〉終期(5)
     
    前回までの連載はこちらのリンクから。
     
     
    ■『ガンパレ』現象で爆発した「汎ゲーム」的な事件性
     
     プレステ2の登場前後でゲーム開発が大規模化し、すでに確立された定番シリーズ以外のヒットが出づらくなる中、まったく新たなゲームジャンルが勃興して多くの追随を生むような頻度は、顕著に衰えを見せ始めていた。1990年代後半の玉石混淆の試行錯誤の時代に、ポリゴン表現やマルチメディア媒体を活かしてなしうる新たなゲームデザインのレパートリーはあらかた出尽くし、もはや画期的な開拓を行える余地が限られてきてしまったためだ。
     しかしながら、業界全体の大きな潮流となることはなくとも、中小規模のディベロッパーやクリエイターたちが手がけるタイプの作品の中には、イノベーションのハードルが大きく高まったことを受けて、きわめてアイディア的に研ぎ澄まされたタイトルもまた少数ながら誕生していた。おそらくこの時期は、据え置き型ゲーム機でプレイできるスタンドアローン型のゲームという枠組みでは、「ゲームでしかなしえない体験とは何か」という問いを徹底して追求する斬新な傑作が登場した、最後の歴史的タイミングであった。それはちょうど、文学や美術、音楽といった先行芸術ジャンルが、20世紀後半以降は自らが芸術として成立しうる条件を自己言及的に追求していく段階に突入したのと、同様の史的変遷だったと言えるのかもしれない。
     
     『FFⅨ』や『ドラクエⅦ』が発売された初代プレステの末期、ひっそりと発売された『高機動幻想ガンパレード・マーチ』(SCE 2000年)は、そうした前衛的な作品群の中でも、とりわけ特異なムーブメントを引き起こしたタイトルであった。熊本に本社を置くディベロッパーであるアルファ・システムの制作による本作は、第二次世界大戦後に突如として人類を襲った「幻獣」との戦争が続く世界で、人類の最終防衛線となった熊本にある実在の高校をモデルにした戦車学校を舞台に、人型戦車「士魂号」の小隊に配属された学兵たちの日々の訓練や交流といった学園生活と、襲来する敵との局地戦とを有機的に結びつけて構成された学園・戦争SLGである。
     
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    ▲『高機動幻想ガンパレード・マーチ』(SCE 2000年)
     
     このゲームの大部分は、実在のモデルを元に描かれた学園と周辺スポットの小さな空間内で、小隊を構成する22人のクラスメイトや教師たちNPC(ノンプレイヤーキャラクター)たちと日常的にコミュニケーションをとりながら訓練や整備などの行動を共にすることで、互いの戦闘能力値や技能、発言力といったパラメーターを高め合いつつ、恋や友情を育んだりできる育成・恋愛シミュレーション的な「学園モード」で過ごされる。AIの制御で自律的に行動するNPCたちはそれぞれプレイヤーと同等のコマンド選択肢をもち、あたかも誰か自分以外の他人が操作しているかのように振る舞う。いわば「擬似オンラインRPG」とでも言うべき仕様だ。
     そうした「自由」な日常を寸断する非日常として来襲する「戦闘モード」には、ターン制の戦術級シミュレーションRPG(SRPG)的なシステムが採用されている。が、従来のSRPGとは異なり、操れるのは自分のキャラのユニットのみ。戦場にあってもAIの制御する戦友たちは、あくまで意思を持った他者として行動する。つまり、戦友たちとともにままならない状況の下に置かれるという限定的な視点を提示した。これは、ミクロなキャラの立場や心情に即した日本ゲームらしい思いの馳せ方を、マクロな視点から冷徹に戦況をモデル化する欧米のウォーゲーム的な原理に埋めこみ、レベルの異なる認識を接続する、新たな戦争表現の方法でもあった。
     ゲームはこうした「日常」と「戦場」の繰り返しで進められるわけだが、両モードが緊密に連関し、自分の行動がほかのキャラクターとの関係や戦いを通じてマクロな状況を変え、そして自分にも跳ね返ってくるという生々しい手触りは、擬似オンラインRPG的な見立てをさらに超え、あたかもプレイヤーがプレステで稼働する『ガンパレ』という端末を通じて、別世界の〝もうひとつの現実〟にアクセスしているかのような錯覚さえもたらしたのだ。
     
     グラフィックやサウンドなどの演出は、いかにも低予算のマイナーゲームといった体裁ながら、本作が実現した体験の圧倒的なコンティンジェンシー(偶然性)の高さと奥深さは、筋書きの定まった大作ゲームに倦んでいたコアなゲームファン層からの熱狂的な支持を獲得する。宣伝費がほぼゼロに近く、ほとんどの大手ゲームマスコミに存在を認知されない中、むしろその逆境がファン心理に火をつけ、口コミやネットでのボランタリーな〝布教〟を焚き付ける結果になったからだ。ちょうどインターネット上では、パソコン通信の会員制フォーラムなどで培われた文化がスライドするかたちで、より多くの人々が目にするテキストサイトやBBS(電子掲示板)にて口コミが広がる土壌が広がっていたため、既成のメディアによらないムーブメントに拍車をかけたのである。
     つまりはゲームの内容と同様、大手メーカーやマスコミの定める意外性のないヒットの傾向に抗い、自分たち自身が発掘して育てたというプリミティブな高揚感を、期せずしてファンたちに提供することができた点が、本作のスマッシュヒットの特徴であった。
     
     そして本作が際立っていたのは、こうしたゲームの内外で起こったプレイヤー主導型のムーブメントをさらにまなざし返すかたちで、開発者サイドが自社の公式サイトを利用して、常識的な広報宣伝サービスの範疇を超えた〝もうひとつのゲーム〟を仕掛けた点にある。
     『ガンパレ』のゲーム中には、NPCたちの台詞やインターフェースの演出を通じて、ゲーム上で各キャラクターや世界観上の設定にまつわる「世界の謎」が、断片的にのみ示されるという仕込みがなされていた。これに対応して、公式サイト上にはファンの交流用などのBBSに加えて「世界の謎」専用の掲示板が設置され、本作のゲームデザイナーである芝村裕吏がユーザーからの質問にこまめに応答してゆく。「幻獣はなぜ人類を襲うのか?」「謎めいた台詞でプレイヤーに対して直接語りかけてくるあのキャラクターは何者か?」「この世界はループしているようだが、その真相は?」
     日夜寄せられるそんな問いに対して、芝村は単純に回答するのではなく、巧みなヒント出しやはぐらかしによって、プレイヤーに自ら真相を考えさせる方向へと徐々に誘導。これに応答した一部プレイヤーたちとの間で、最終的には期日までに『ガンパレ』に仕掛けられた「七つの論理トラップ」なるお題への正解を言い当てさせる、ウェブ上でのライブ推論ゲームが展開されたのである。
     この顛末で特筆すべきは、一見すると『ガンパレ』というゲームの外でユーザーコミュニケーション主導で起きた自然発生的なムーブメントに見えるこの「謎」ゲーム自体が、実はアーキテクトたる芝村が周到に仕掛けた「GPM23」なる儀式魔術であったというフィクショナルな見立てが施され、本作の世界観体系に組み入れられてしまったことである。すなわち「GPM23」とは、「現実世界と並行する〝実在の〟ガンパレード世界の仲間たちを救うために世界を渡ってきた男が、向こうの世界での出来事をモデルにしたゲーム『ガンパレ』を制作・発売。それを呼び水にプレイヤーたちの集合知をネット上で結集することで、その同一存在としてガンパレード世界に〝23人目のクラスメイト〟を発生させ、世界間干渉を行おうとした儀式魔術であった」というのが、「七つの論理トラップ」を突破した果てに小説形式で公式サイト上に公開されて明らかにされた、最終的な〝真相〟であった。まさにゲームで描かれる虚構とネット上でリアルタイムに進行した現実の出来事との垣根を取り払い、プレイヤーたち自身が「何をさせられていたのか」を自ら探求するという、他のメディアではなしえない究極のメタフィクションが実現していたわけである。
     
     前章でみたように『moon』や『serial experiments lain』など、前世紀末にはゲーム機のインタラクティブなメディア特性を活かして虚実を曖昧化し、プレイヤーの存在自身を劇中に引きずりこむ自己言及的なメタフィクション構造をもったジャンル批評的なタイトルは、すでに複数登場していた。本作のケースが特異だったのは、その体験をパッケージゲーム内だけで完結させず、それをめぐるインターネット上での現実のユーザーコミュニケーションに拡張したことによって、よりメタフィクション表現としての徹底性が高まったことにある。
     つまり、『moon』ならば「主人公の男の子がゲーム内ゲームの世界に落ちていく」という『はてしない物語』式の古典的な異世界ファンタジー様式のシナリオという、『lain』ならばプレイ中のゲーム機を劇中世界のネット端末に見立てるという、制作者側の用意した嘘をプレイヤーが受け入れる心理的な手心が加わることで、メタフィクションが成立していた。しかしながら「GPM23」における〝真相〟設定では、そうしたフィクショナルな見立てすら排し、「プレイヤーは(あたかも劇中世界に『lain』式にアクセスしているかのような諸々の演出的フェイクがあったのとは裏腹に)あくまでも『ガンパレ』というただのプレステ用のゲームソフトをプレイしていたに過ぎない」という、身も蓋もないリアリズムが貫徹されている。BBS上での「世界の謎」をめぐる議論自体も、同様にただのウェブ上でのコミュニケーション行為に過ぎない。
     しかしそうでありながらも、原理的には存在するともしないとも言い切れない感知不可能な〝もうひとつの現実〟の世界で生きる、劇中キャラのモデルになった〝本物〟の仲間たちについては、彼らを実在の人間のように愛した『ガンパレ』ファンたちによる熱狂的ムーブメントのおかげで助けられたかもしれない。そんなプレイヤー個々の心理には依存しない手心抜きの「論理的可能性」を、きわめて展開自由度の高いスタンドアローンゲームと集合的なネットコミュニケーションの併せ技によって、芝村は(入り組んだ世界法則の議論についてこれた人々に対しては)納得的に示してみせたのである。
     

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