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山田玲司のヤングサンデー 第162号 2017/11/20

ドキュメント「あなたの傘はいりません」

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大混乱の日々は続いていた。


CICADAの連載が佳境に入っているのだ。

しかも、今回のこの漫画は「子供が死に直面する話」だ。

そう簡単に「彼らの気持ち」になれるわけではない。


浅い気持ちで描いてしまうと、昨今流行りの「感動ポルノ」になりかねない。

ここで描き手の自分が「同じ気持ち」になれるまで、精神的に潜り込まなくては、昨品が「嘘」になってしまうのだ。

それだけは避けなければいけない。



家にいると寝落ちしたり、掃除に逃げたり、SNSだの何だので、集中できないので、ここはファミレスだの喫茶店だののハシゴに行く。

スマホは置いて、カバンにはネームノートと「手塚漫画」だけ。


それでもネームができないまま数時間、集中の限界を越えたので、コーヒーでもたれた胃を抱えて仕事場に戻ろうと車に乗り込んだ。



唐突に土砂降りの雨が降ってきた。

そんな雨の中、車を走らせていると、田舎道をずぶ濡れになって歩いている、気の毒なおばさんが見えた。


この先しばらくはコンビニみたいな逃げ場のない田んぼだらけの道なのだ。


だからと言って「乗りますか?」と言うのも変だし・・と、思っていたら、思い出した。

僕の車には「安いビニール傘」が何本もあるのだ。


僕は面倒くさがりなので、いつも傘を持たないで家を出るので雨になったらその度にコンビニとかで安い傘を買ってしまう。

そのくせ目的地の着いた時に晴れていたら、傘を車に置きっぱなしにしてしまう癖があるので車の中は傘だらけなのだ。



僕は「ずぶ濡れおばさん」の横に車を寄せて傘を出して「使います?」と声をかけた。

すると、その人は「いいです!」と、即断ったのだ。


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確かに僕の見た目は「危ない人」に見えなくもない。怖がらせてしまったのかもしれない。


お金でも取られると思ったのだろうか・・・


僕は「人の役に立ちたかった哀れなモンスター」みたいな気持ちでその場を去った。

まあこれはこれで仕方ない。切り替えて翌日の「ブレードランナーの解説の準備」をしなくてはいけないのだ。



公式放送で「あのブレラン」の解説だ。

鋭いマニアの期待にも答えなければいけないけれど、沢山の映画解説者がすでに「ブレラン」の徹底的な解説や分析をしているのだ。


中には「たいして面白くなかったから全面的にネタバレで話します」とか、やっている人もいる。

確かにそこまでやれば面白い放送になるのがわかる。


今回は僕もそうしよう・・・その旨をツイートしておけば大丈夫だろう。


僕は「ネタバレする事」をツイートして、完全ネタバレでなら説明できる「この映画の中核部分」の解説の準備をして、そのオチとして「この映画は山下達郎だ」という、オリジナルな「ユーモア」を保険にして「ブレラン解説」に挑む事にした。




しかし、いざ本番になってネタバレの部分に入ろうとしたら、相棒のおっくんが物凄い強さで「ダメですよその先のネタバレは!」と、止めにかかった。