たかが、アクション
彼は観客に臼を持たせて頭上に掲げさせ、自分もまた押し上げてもらって客の上に立ち、素手で餅をついていた。
…これは2016年の正月に、沖縄那覇の国際通りのとある小さなライヴハウスで見た光景である。
初めてのN’夙川BOYS。
それは活動休止三ヶ月前の、遅すぎた出会いだった。
それから2年と少し経った今年2月、ヤンサンで「リンダ&マーヤに捧げる歌スペシャル」という放送をやった。
N’夙川BOYSが活動を休止して、また手探りでロックンロールをやり始めたリンダ&マーヤに、視聴者から応募してもらった歌、全35曲をすべて聴いてもらうという前代未聞の企画だった。
ふたりは打ち合わせの時から「オレらに35曲も送ってくれたなんて信じられんわ」と、真摯かつ謙虚にその夜に臨んでいた。
リンダは嬉しそうにメロディを口ずさみ、マーヤさんもこれまでにない体験からか少し構えつつ上機嫌にあーだこーだと感想を話していたが、時間が経つにつれ真剣に受け止めるふたりの口数も少なくなり、ラストは予定していなかった自分たちの歌を披露してくれた。
「たかがAction」という歌だった。
最初の敵が(わからないよ)
自分だとしたら(たまらないね)
できないことを(悩まないで)
あきらめたくないな
たかがAction
まだ今年を振り返るには少し早いが、この一年はずっと行動し続けた年だった。
去年までと違うのは、より積極的に、より規模が大きいイベントや仕事に、ありがたくもいっぱしの責任を持ってトライできたという点だ。
新潟、名古屋、大阪、和歌山などのヤンサン地方遠征。
宿願だった「近代日本画」について私的総括とその共有。(いわゆる「横山大観回」)
明治150年と平成30年をテーマにヤンサン美術部を手作りで開催したこと。
東村アキコ「雪花の虎」の取材やストーリーの手伝い。
手塚るみ子さんと一緒に企んだ「夜の手塚治虫」。
その他、まだ表には出せないが死ぬほど嬉しかった出会いや、いま進行中のものもいっぱいあるが、本来は面倒くさがりでぐうたらな自分(本来は海で本読んでるだけでなんも不満はない自分)をこんなにも駆り立ててくれたのは、紛れもなくリンダ&マーヤだった。
最後の敵が(わからないよ)
自分だとしても(かまわないや)
できちゃうことを(迷わないで)
やりまくってたんだ
たかがAction
「たかがアクション」と彼らは言う。
しかし実際、動き出すのはめんどくさい。
年齢を重ねるにつれ、その経験から結果を想定して動きづらくなるのは、失敗を恐れているのではなくそれに費やす労力が大変だと知っているから。
失敗を恐れるのは若い時だけだ。
人生は失敗しても次に繋がるし、成功してもまた次の壁があるというようなことを経験上、知ってしまった年頃になると、結局いちばんのブレーキは「めんどくさい」ということに尽きる。
成功も失敗も、めんどくさいのだ。
冷静に考えてみればこの現代日本、ぼーっと与えられる娯楽や情報を享受するだけで時間は経つし、退屈もある程度埋められる。
相棒や科捜研の女は新シリーズ(絶賛放映中!)はもちろん毎日のように再放送があるし、アニメは毎クール違うものが放送され、それですら見切れやしないし、映画も次から次へと封切りになっては人知れず終わっていく。
漫画は週刊で更新され、美術館や博物館も季節ごとに名画や名品が展示され、様々なアーティストが世界中でライヴや個展をひらき、コンビニやスーパーには季節や行事によって頼んでもないのに新商品が並び、ニュースは次から次へと他人の不幸を教えてくれて…もうなんというか、自分たちはそれを選択するだけでいい。
我々は自分自身の平和な凡庸さを慰めるのには最高なシステムの中に生きているのだ。
それなのに、何を無理して自分から自分を変えるようなことをしたがるのか。
それはあくまで「驚きたいから」だった。
驚きとは、光だ。
驚くときだけ、人は自分自身を忘れられる。
憎しみや愛しさは、感情だ。
だが驚きは、感情の前の反応だ。
驚きは時間を忘れさせ、死への痛みも、恐怖も、生きることの快楽や期待も、退屈な平和も、思い出も未来も、すべてかき消してしまう雷鳴であり、すべて塗りつぶしてしまう極色だ。
俺はその「驚き」への渇望を実存の本来として生きてきた。
「驚き」を求める心をこそ「好奇心」や「ときめき」なんだと解し、その音色やリズムを「ワクワク」と「ドキドキ」と呼んで、ある時はそれを演劇やメタルや文学に、ある時は恋に、そして旅に求めたりしてきた。
YUKIがそれを「死ぬまでワクワクしたいわ」と歌い、「見知らぬ街で迷子になりたいだけ」と叫んだように。
しかしそれはあくまでも、自分が驚きたいだけだった。
でも、マーヤさんに出会って、いつの間にか変わっていた。
想い返せばあの正月の沖縄の夜だったのだろうか。
マーヤさんは、客の上で「ロックンロール!ロックンロール!」と叫びながら餅に正拳突きをかましていた。
それを見た俺とシマちゃんと清ちゃんは…いや、客も、臼とマーヤさんを持ち上げてる人も、スタッフも対バンも、ステージのリンダやシンノスケくんも、ほぼ皆同じ顔をしていた。
打ち上げ花火を初めて見た少年のような顔で、無邪気に驚いていたのだ。
「愛」だなんて叫ばなくていい。
「ありがとう」なんて言わなくていい。
「ロックンロール」はすべての意味の代名詞だ。
そんなロックンロールの菩薩であるマーヤさんを見て、またマーヤさんに驚く人を見て、もっとこういう時場を共有したい、自分たちの手でつくりたいと、おそらく俺は想った。
そして先ずはリンダ&マーヤを、驚かせたいじゃないかと。
そういうわけでそれ以降、2年目以降のヤンサンは個人的には驚きや好奇心を共有する場として展開させようとしてきたように思う。
公開収録や遠征や美術部やフェスを企画し開催し、さまざまな試行錯誤を経てついに今年2月、リンダ&マーヤを驚かせ返すためのヤンサンを敢行した。
上記にも書いたが、本番ではふたりともみんなから贈られた曲にすごく驚き、とても嬉しそうだったし、企みとしてはほぼ成功したかに見えた。
だが実はこれは、ライヴという同じフィールドではないので、ある意味驚くのも当たり前のことだった。
それをうすうす分かっていた俺は放送終わり、馴染みの中華屋で夜食して帰り道、ふたりにちらっと言った。
「マーヤさん、リンダ、たぶん今年の秋にヤンサンでフェスやるんで、よかったらリンダ&マーヤ、出てもらえませんかネ?」
するとマーヤさんは
「いや、むしろ、俺らでええの?」
その言葉が驚くほど嬉しかったのは言うまでもない。
と言ってもその時点ではまだまだ半年以上先の話であり、ふたりのスケジュールもどうなるかなんてわからなかった。
だから単なる、口約束みたいなものである。
普通なら社交辞令として済まし、忘れてしまう人がほとんどかもしれない。
それでもこのやりとりの数ヶ月後、俺はなんとかリンダ&マーヤに出てほしくて、なんならいっそ最初から巻き込んでしまおうと今回のヤンサンフェスのハコ(会場)を探す時からマーヤさんに相談した。
「前ちらっと言うたヤンサンフェスの件なんすけど…」
「おお、あれね!」
「キャパ150とかで、マーヤさんどこかオススメのところありませんかね?」と聞くと
「ちょっと待ってや」と言ってブッキングをやっている知り合いの人を紹介してくれた。
その人もまたいい人で、丁寧でご機嫌なやりとりの末に、新代田の「FEVER」というハコに決まった。
そして改めてお礼がてら連絡し、ヤンサンフェスの出演も正式にオファーした。
「マーヤさん、ヤンサンフェス、11月3日なんすけど、出てくれませんか?」
「あざす!もちろん出るで!」
「まじすか!ほんまにええんすか!?」
「ええよええよ、なんかめっちゃおもしろそうやん!」
「あ、ありがとうございます!(涙)」
「ほんでおっくん、ヤンサンフェスってなんなん?」
「……えっ!?」
最高の男じゃあないかね、諸君。
というわけで11月3日、そんな最高のリンダ&マーヤをヘッドライナーに迎えて、「新代田FEVER」にてヤンサンフェス2018を開催します。
リンダ&マーヤの素晴らしさは元より、我らがヤンサン主題歌選手権の精鋭たちの魅力と実力を、伝えたい。
山田玲司がずっとモットーにしている「ごきげん」と、俺が模索してきた「驚き」を共有したい。
そのためにこの1年、いや、あの沖縄からほぼ3年、ヤンサンはずっと「たかがアクション」を続けてきました。
驚くべきことに「驚き」には経済的な格差や、顔面偏差値や、人種や、性別や、どんな過去かなんてことも一切関係ない。
すべてに平等なのが「驚き」なのです。
だから驚きは分け合える。
驚きは自分自身を忘れさせると同時に、他者との境もなくす。
驚きを共有するときだけ人は、自分ではなくなれるのだ。
このヤンサンフェス2018は、そんな驚きを創発する場をできるだけ多くの人と分け合いたいと動いてきたヤンサンの、ひとつの集大成になります。
そのために満を持して、観に来てくれる人に驚きと感動を与えられる面子を、さらにはリンダ&マーヤを驚かせるどころか喰ってしまうようなメンバーを選びました。
それぞれが「たかがアクション」を起こして、玲司さんファミリーの心を震わせた彼ら
“銀河代表ロックンローラー” GALAXIEDEAD
“永世名誉エンディング王” トガシ
“札幌のごきげんな怪人と堕天使” DJ一戸建&高井baby
“大宮の恋するダニエルパウター” 野口純史
“キュートな爆走サブカル糞女” Yume Ochi
“12音階の破壊王子” John Doe
“森羅万象を喜びに調理するラップスター” クッキングダディ
“全局面的ヤンサン音楽マスター” じょん
“京都の若きクインシージョーンズ” シンナイコウジ
“メロウでソリッドな魔法使い集団” ミハラモモコとアスタラビスタベイベーズ
“俺たちのMr.ヤンサン主題歌” カルロス袴田
そして我らが“中二魔王”であり“いつも何かを始めてる男”
山田玲司が率いるREIJI with THE GOLDPANTHERS☆
そこにリンダ&マーヤも合わせた総勢13組に、おなじみ久世や清ちゃん松本時代を加えたヤンサン☆オールスターズが、11月3日「新代田FEVER」に集結します。
みんなの「たかがアクション」を集めて準備してきた超ごきげんなヤンサン歌謡祭。
それを完成させるのはあなたの「たかがアクション」。
期待だけして、いらっしゃい。
そして願わくばみんなのリアクションで、俺たちを驚かせておくれ。
きっと何回生まれ変わっても忘れられないような夜を、創りましょう、いっしょに。
10月27日
驚くことの歓びをおしえてくれた「蒼天の日」に
奥野晴信
ヤンサンフェス2018 チケット
https://peatix.com/event/443861
P.S.
マーヤさんはあの日
「ライヴで餅をついたロックンローラーは俺だけや!」
そんなことを叫びながらステージに戻ると
「あかん、手の餅が取れんからギター弾かれへん!」
と、自分がいちばん驚いて、笑ってた。
公式サイト:漫画家 山田玲司 公式サイト
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番組観覧応募ページ:Coubic 山田玲司のヤングサンデー
平野建太
発 行:合同会社Tetragon