「チェンソーマン」が切り捨てた「老年ジャンプ」
【すごいセリフ】
今週のヤングサンデーは鬼滅の刃に引き続いて、今1番熱い漫画と言われている「チェンソーマン」の特集でした。
2019年に始まったばかりのこの作品は、色々な意味で「クラッシック」であり「革命的」でもあった。
「悪魔のいけにえ」などを代表とする「B級カルト映画」の伝統に乗っ取り、社会の片隅で絶対的な孤独を抱えた主人公が「派手な武器」を抱えて大暴れする、みたいなコンセプトは実にクラッシックだし、何しろ主人公が「悪魔合体」したのは「チェンソー犬」だ。
チェンソーはそのジャンルの「ソウルガジェット」だ。
ロックバンドにおける「エレキギター」みたいなものだろう。
ド派手なバイオレンスに、青年誌寄りの攻めたエロ表現。
そこかしこに「今の世の中に対する怒り」が垣間見えるのもいい。
作者の藤本タツキ先生は92年生まれ。
バブル崩壊の真っ只中に「終わっていく国日本」に生まれた世代だ。
「何もかもあきらめる」「痛みは感じないようにする」といった方法で生きてきた世代だ。
そんな世代の「死にながら生きる」という生存戦略も作中に満ちている。
そんな何もかもが「今の世代」を感じさせる「チェンソーマン」だが、そこには「すごいセリフ」が書かれている。
主人公デンジは「先生」と呼ばれる大人の男に
「仲間が死んだらどう思う?」と聞かれる。
デンジは「別に」と答える。
このセリフの流れは、それまでのパターンでは「主人公の嘘」として書かれてきたタイプのものだ。
主人公は「別に」と言いつつ、本心では仲間の死にショックを受けていて「深い悲しみ」と「敵への復讐」という流れになるのがパターンだった。
ところが、チェンソーマンのデンジはそうではない。
彼にとって「仲間の死」は、本当に「別に・・」なのだ。
【少年ジャンプの思想】
ご存知の通り少年ジャンプを支えてきた思想は「友情、努力、勝利」だった。
この思想は長く日本人に叩き込まれ、それを信じて疑わない人達も多く生まれた。
何度も話題になる「ドラゴンボール」の「これはクリリンの分だーー!」みたいな「聖典」を完全に否定したのが「チェンソーマン」なのだ。
チェンソーマンはその背後に「上の世代」に対する強い怒りと、深い悲しみを抱えている。
「もう何も感じないくらい心が壊されてきた世代」なのだ。
かつての時代とは違って、今の日本では「努力」では「勝利」できなくなった。
この「勝利主義」も幼稚で浅い。
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『悪魔のいけにえ』(1974年)低予算映画ではありますがB級では括れない勢いのあるホラー映画なので良ければ観てください。それまでのドラキュラとか古典オカルトに相反するように生まれたホラー界のニューシネマです。
テキサス出身監督が描く、都市部から見た南部の田舎の異質さと、田舎は田舎で独自のルールでつじつまが合ってる感が両方描かれていて面白いです。ギャグ多めで直接的残酷描写も少ないので観やすいかと思います。
ニューヨーク近代美術館にも収蔵されたのでモダンアートとしても観れるかもしれません。
(一戸建)