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山田玲司のヤングサンデー 第311号 2020/10/12

「チェンソーマン」が切り捨てた「老年ジャンプ」

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【すごいセリフ】


今週のヤングサンデーは鬼滅の刃に引き続いて、今1番熱い漫画と言われている「チェンソーマン」の特集でした。


2019年に始まったばかりのこの作品は、色々な意味で「クラッシック」であり「革命的」でもあった。


「悪魔のいけにえ」などを代表とする「B級カルト映画」の伝統に乗っ取り、社会の片隅で絶対的な孤独を抱えた主人公が「派手な武器」を抱えて大暴れする、みたいなコンセプトは実にクラッシックだし、何しろ主人公が「悪魔合体」したのは「チェンソー犬」だ。


チェンソーはそのジャンルの「ソウルガジェット」だ。


ロックバンドにおける「エレキギター」みたいなものだろう。


ド派手なバイオレンスに、青年誌寄りの攻めたエロ表現。


そこかしこに「今の世の中に対する怒り」が垣間見えるのもいい。



作者の藤本タツキ先生は92年生まれ。

バブル崩壊の真っ只中に「終わっていく国日本」に生まれた世代だ。


「何もかもあきらめる」「痛みは感じないようにする」といった方法で生きてきた世代だ。


そんな世代の「死にながら生きる」という生存戦略も作中に満ちている。


そんな何もかもが「今の世代」を感じさせる「チェンソーマン」だが、そこには「すごいセリフ」が書かれている。


主人公デンジは「先生」と呼ばれる大人の男に

「仲間が死んだらどう思う?」と聞かれる。


デンジは「別に」と答える。


このセリフの流れは、それまでのパターンでは「主人公の嘘」として書かれてきたタイプのものだ。


主人公は「別に」と言いつつ、本心では仲間の死にショックを受けていて「深い悲しみ」と「敵への復讐」という流れになるのがパターンだった。


ところが、チェンソーマンのデンジはそうではない。

彼にとって「仲間の死」は、本当に「別に・・」なのだ。




【少年ジャンプの思想】


ご存知の通り少年ジャンプを支えてきた思想は「友情、努力、勝利」だった。


この思想は長く日本人に叩き込まれ、それを信じて疑わない人達も多く生まれた。


何度も話題になる「ドラゴンボール」の「これはクリリンの分だーー!」みたいな「聖典」を完全に否定したのが「チェンソーマン」なのだ。


チェンソーマンはその背後に「上の世代」に対する強い怒りと、深い悲しみを抱えている。


「もう何も感じないくらい心が壊されてきた世代」なのだ。


かつての時代とは違って、今の日本では「努力」では「勝利」できなくなった。


この「勝利主義」も幼稚で浅い。