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山田玲司のヤングサンデー 第393号 2022/6/6

2人の娘

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先月開催した「漫画家のグループ展」でちょっと驚くような事が起きた。


その展示会は画材メーカーの老舗「ターナー」の企画で、作品として絵も描いている漫画家を4人集めてのもので、建物の3フロアを使った中々贅沢な企画だった。


僕は4階の大きなフロア全部を使わせてもらったので、前回の個展よりも大きなスペースでの展示になった。


驚いたのはその時1階のフロアを担当していた漫画家が、あの「不吉霊二さん」だったのだ。


図らずも今回の企画展は「れいじ」で始まり「れいじ」で終わるという「れいじサンド」になったのだ。


不吉霊二さんはかなりアート寄りの漫画を描く人で、基本的に「八〇年代カルチャー」を思わせるポップな画面の中に「本気の愛」を描いている作家だと僕は感じている。


97年生まれの彼女(不吉氏は女性漫画家)にとって80年代の若者文化は「生まれるずっと前の世界」でありもはや時代劇だ。


戦前戦後を描くNHKの朝ドラみたいに「あの頃」を想像しながら再現しているようにも見える。


なのでジャンル的には江戸文化や平安文化を題材に描いている漫画家に近いのだけど、面白いのは彼女自身が「あの時代」の文化が大好きで80年代後期を感じさせるファッションを身にまとっている事だ。

そしてこれが恐ろしく似合っている。

初めて直接会った時にはボディコンにショートの和風ロンドンブーツの出で立ちで現れた。


当時を知る僕にとっては「あの頃の女の子」に再開したような不思議な気分だった。


そんな彼女の作品は当然リアルタイムで80代漫画家だった僕の初期作品(Bバージンなど)に似ている。


特に似ているのが「技術」や「物語の整合性」より「伝えたいこと」を優先する制作姿勢だ。


「人と人が愛し合うこと」を描いていたい、と思っているのも同じだ。


乱暴な言い方をすると僕も彼女も「下手でも愛が伝ればいい」と思っているのだ。


なのでその作品はどこか「宗教的な愛」を放っている。

どこまでも「本質的に僕と同じ」なのだ。



しかも展示の開催直前に「山田玲司ワールド全開」の僕のフロアを見た彼女は「不吉霊二全開ワールドにしよう!」みたいに思ったらしく担当者の許可を得て壁に直接グラフィティを描いて、部屋全体を「不吉霊二ワールド」にした。



やる事がまるで若い頃の僕だ。

僕は30年以上前に似たようなことをしていたのだ。


「あらら・・この人は僕の直系じゃないか・・」


生き別れの娘と再開した様な気分だった。



【ドレスコーズ】