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記事 4件
  • 芥川賞・直木賞の候補作を無料で試し読み!

    2017-07-10 11:00  
    新進作家の最も優秀な純文学短編作品に贈られる、「芥川龍之介賞」。 そして、最も優秀な大衆文芸作品に贈られる、「直木三十五賞」。日本で最も有名な文学賞である両賞の、
    ニコニコでの発表&受賞者記者会見生放送も14回を数えます。
    なんと今回も、候補作の出版元の協力によって、芥川賞・直木賞候補作品冒頭部分のブロマガでの無料配信が実現しました。(『あとは野となれ大和撫子』 宮内 悠介を除く。)【第157回 芥川賞 候補作】今村夏子『星の子』(小説トリッパー春号)温又柔『真ん中の子どもたち』(すばる四月号)沼田真佑『影裏』(文學界5月号)古川真人『四時過ぎの船』(新潮六月号) 【第157回 直木賞 候補作】 木下昌輝『敵の名は、宮本武蔵』(KADOKAWA) 佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』(文藝春秋)佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店)宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(KADOKAWA)柚木麻子『B

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  • 【第157回 芥川賞 候補作】『四時過ぎの船』古川真人

    2017-07-10 11:00  
    1
     ノートを机の上に見つけた吉川佐恵子は、何もかもを思い出した。
     彼女は、どうしていつもならば電話を置く台の引き出しにしまわれているはずのノートが机にひろげて置かれているのか、自分が、なぜ何度もいまが何時なのか確認するように時計に目をやっていたのか、ということのすべての理由を思い出したのだった。
     七十を過ぎた歳で、島の古い家でひとり暮らしつづけるうちに、彼女は何かと思い出すことが多くなっていた。思い出したことはわずかな時間だけ彼女の頭にとどまり、すぐに消えていく。
    「今日ミノル、四時過ぎの船で着く」
     さらに彼女は、ほかならぬ自分がそう書いたページを見て、孫の稔が、きょうやって来るのだった、それをわたしは、すっかり忘れてしまっていて、あすの昼過ぎにでも、家族全員で来るのだと思いこんでいた、いや、ちがう。たしかに、きょうの朝のうちに美穂から電話がかかってきて、夕方にこちらに着く船に乗っ

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  • 【第157回 芥川賞 候補作】『真ん中の子どもたち』温又柔

    2017-07-10 11:00  
    他者への深い尊敬の念は自尊心から始まる(トリン・T・ミンハ)
     出発前夜
     
     四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。ひとつは、おうちの中だけで喋ることば。もうひとつが、おうちの外でも通じることば。ところが、外でつかうほうのことばが、母はあんまりじょうずではない。
     ──だからママが困っていたらきみが助けてあげるんだぞ。
     幼稚園で仲良しだったユウちゃんのお母さんが「琴子ちゃんのお母さんは日本語がじょうずね」と褒めたとき「おばちゃんのほうがずっとじょうずよ」と応えて私は大人たちを可笑しがらせた。「まあ、それはどうもありがとう!」ユウちゃんのお母さんが頭を撫でてくれる。私はユウちゃんのお母さんが日本人だとは思いもしなかった。あの頃の私は、だれにとっても父親は日本人で母親は台湾人なのだと思っていた。両親のどちらかが日本人ではないことのほうが、この国では少々めずらしいのだとは知らな

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  • 【第157回 芥川賞 候補作】『星の子』今村夏子

    2017-07-10 11:00  

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     小さいころ、わたしは体が弱かったそうだ。標準をうんと下回る体重でこの世に生まれ、三カ月近くを保育器のなかで過ごしたそうだ。
     父と母の話によると、退院してからがまた大変だったらしい。母乳は飲まないし、飲んでも吐くし、しょっちゅう熱をだすし、白いうんちをだすし、緑の絵の具のような鼻水をだすしで、両親はわたしを抱いて家と病院のあいだを駆け回る毎日だったという。生後半年目のとき、最初は顔にポツポツとあらわれた湿疹が、わずか一週間で全身に広がっていったそうだ。中耳炎にかかったときの激しい泣き声も、胃腸炎でたてつづけに吐いたときも、身を引き裂かれるほどつらかったけど、湿疹の症状がそばで見ていて一番つらかったわよ、と母がいっていた。専門医にすすめられた薬を塗ってみても、ありとあらゆる民間療法を試してみてもよくならなかった。ミトンをはめられた小さな手がふびんでならなかったよ、と父がいっていた。

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