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記事 7件
  • 芥川賞・直木賞の候補作を無料で試し読み!

    2019-01-08 12:00  
    新進作家の最も優秀な純文学短編作品に贈られる、「芥川龍之介賞」。 そして、最も優秀な大衆文芸作品に贈られる、「直木三十五賞」。日本で最も有名な文学賞である両賞の、
    ニコニコでの発表&受賞者記者会見生放送も17回を数えます。
    なんと今回も、候補作の出版元の協力によって、芥川賞・直木賞候補作品試し読み部分のブロマガでの無料配信が実現しました。【第160回 芥川賞 候補作】上田岳弘「ニムロッド」 (群像十二月号)鴻池留衣「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(新潮九月号)砂川文次「戦場のレビヤタン」(文學界十二月号 )高山羽根子「居た場所」(文藝冬季号)古市憲寿「平成くん、さようなら」(文學界九月号)町屋良平「1R1分34秒」(新潮十一月号) 【第160回 直木賞 候補作】 今村翔吾「童の神」(角川春樹事務所) 垣根涼介「信長の原理」(KADOKAWA)真藤順丈「宝島」(幻冬舎)深緑野分「ベルリン

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  • 【第160回 芥川賞 候補作】町屋良平「1R1分34秒」

    2019-01-08 12:00  
     おなじみの寂寥。窓をあける。住んでいる安アパートの二〇一号室の真ん前に立派な木が生えていて、窓を押す勢いで緑をたたえている枝葉によって、さしこむひかりがだいぶ制限されている。そのせいで日中も朝方のようなルクスしか確保できないこの部屋に、しかし奇妙な愛着をもっていた。おなじぐらいの光量でも、夕暮れではなく、朝方の感じなのは間違いない。いつか、この見事な木の名前を大家さんにきこうとばくぜんと考えて、人見知りゆえに果たせずにもう三年もたっていた。
     デビュー戦を初回KOで華々しく飾ってから、二敗一分けと敗けが込んできている。きょうこそ勝たなければ。自分ルールとして、敗けたら引退、などを主とした試合後のことを極力考えないようにしていた。いまをいまとして生きる。それしかできない自分の、弱さを弱さとしてうけ容れてもう長い。
     試合前に連日みる夢のなかで、ぼくはかならず対戦相手と親友になってしまう。研

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  • 【第160回 芥川賞 候補作】古市憲寿「平成くん、さようなら」

    2019-01-08 12:00  
     彼から安楽死を考えていると打ち明けられたのは、私がアマゾンで女性用バイブレーターのカスタマーレビューを読んでいる時だった。デンマークブランドが開発した高級バイブレーターのページには、投稿者「吉高」さんによる「すべての初心者へ」と題された長文が掲載されていた。その文章を全て信じるのならば、「吉高」さんは処女であり、今まで自分で「指を1本しかいれたことがなかった」が、このバイブレーターで練習した結果、穏やかで快適な自慰行為ができるようになったという。「吉高」さんは、このバイブレーターのおかげで、彼氏を欲しいという気持ちが完全に消え、人生に自信が持てるようになったとも記している。私は処女でもなかったし、穏やかなバイブレーターが欲しいわけでもなかったが、それほど「吉高」さんに自信を与えた製品ならばカートに入れてもいいのではないかと思い始めていた。
     性行為を嫌う彼のせいで、私には定期的に女性用の

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  • 【第160回 芥川賞 候補作】高山羽根子「居た場所」

    2019-01-08 12:00  
     彼女と最初に会ったのは、たしか仕込みの作業をしているときだったと思う。会った、と言ったってそのとき彼女は作業場の中にいたわけではなくて、私たちが作業しているところを廊下のほうからガラス越しに眺めていただけだった。ガラス張りだったとはいえ作業場の中は蒸気がいっぱいたちこめていたから、中の様子なんてほとんど見えない。しかも私と両親、それと妹、白衣に衛生帽とマスクをつけてみんな同じ恰好をしていたので、たぶん作業場の中にいる人間のうちどれがだれで、どんな作業をしているのかを理解しながら見るなんてことはできていなかったんじゃないだろうか。
     私たち家族は長いこと、こうやっていっしょになって作業をすることに慣れていたから、それぞれがどういうふうに動いているのか、作業場のどこになにがあるのか見えなくてもあまり不都合がなくて、うまいこと連携をとりながらひとつひとつの工程をこなすことができた。マスクと衛生

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  • 【第160回 芥川賞 候補作】砂川文次「戦場のレビヤタン」

    2019-01-08 12:00  
     風が吹いている。おれは、その風を肌でしっかりと感じながら、レンジローバーの後部座席で揺られている。黒々とした車体に鼻先の長いボンネット、長方形のヘッドライトに挟まれるようにしてあるマスクのかかった吸気口は、どこか動物の顔に見えないこともない。屋根にはヤキマ製のルーフキャリアが備え付けられており、リュックやRVボックスといったものが乱雑にしばりつけられてあった。
     道は申し訳程度に舗装が施されているものの、ひどく傷んでいて、その凹凸をしっかりとタイヤが拾うものだから揺れがひどい。後部座席は特殊な造りになっていて、背もたれが運転席と助手席のそれと背中合わせでくっついている。車体自体は、一見すると世界中のどこにでもあるようなSUVであるが、これは特注車だった。戦うための車である。当然、重量も民用車のそれとはけた違いである。快適性を上げるものは一切合切そぎ落とされている。シートもサスペンションも

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  • 【第160回 芥川賞 候補作】鴻池留衣「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」

    2019-01-08 12:00  
     最初に取材を受けた日のことを憶えている。三つ目の質問はダンチュラ・デオという名前の由来についてだった。答えたのは喜三郎だった。こう言った。知らない。何故ならダンチュラ・デオというグループは自分たち以外にもう一つあって、グループ名も曲もタイトルも何から何までそのもう一つのダンチュラ・デオ、つまり本物のダンチュラ・デオのコピーでしかなく、彼らがどのような意図でダンチュラ・デオという名前を彼ら自身に与えたのか自分たちの知るところではないから答えられない。喜三郎は俯きがちで、時々顔を上げても、机からつくしみたいに生えたマイクの先端しか見ていなかった。後日記事の掲載誌が事務所に届けられて、メンバーはそれに目を通した。ステージ写真の中で、喜三郎がデザインしたダンチュラ・デオのロゴマークが描かれたTシャツが彼の胸を隠している。喜三郎によればそれもまた彼自身のデザインではなく、本物のダンチュラ・デオが使

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  • 【第160回 芥川賞 候補作】上田岳弘「ニムロッド」

    2019-01-08 12:00  

     サーバーの音がする。CPUを冷やすファンの音が幾重にも合わさって、虫の音(ね)のように高く低く響く。サーバーたちが突き刺さった、僕の背丈よりもはるかに高いラックの間をノートPC片手に進んでいく。
     WEBサイトを表示するために、パソコンからのアクセスを受け付けるコンピューターを「サーバー」と呼ぶのだと知ったのは、この業界に入ってからのことだった。と言ってもゆうに十年は経過していて、顧みるまでもなく一昔前の話だ。
     サーバー、提供する者。サーバーは、パソコンからのアクセスに従って、例えばショッピングサイトの機能を提供する。あるいは、旅行の予約サイト、ポルノ動画や大量の書き込みがなされる掲示板、最近だとFacebookやTwitterなんかも、どこかのサーバーがユーザーに機能を提供している。僕の会社は東京と名古屋にそんなサーバーたちをまとめて運用するデータセンターを持っているのだけど、それ

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