神州纐纈城 (河出文庫)

 『神州纐纈城』! その名を口にするだけでもぼくの胸は熱く高鳴るのだ。それは、国枝史郎による一本の小説の名前である。しかし、これは、尋常の小説ではない。悪夢のごとき名作だ。修羅のような傑作だ。

 おそらくは日本の伝奇文学の歴史上、最高傑作のひとつと称されるべき作品であろう。じっさいその名望はきわめて高く、三島由紀夫が絶賛したことでもしられている。

 たしかに、いまとなってはいかにも古めかしい時代小説である。主人公は武田信玄の寵臣土屋庄三郎。かれはあるとき、夜桜見物の折にある老人から真紅の布を売りつけられる。これこそはまさに纐纈布! 人血をもって染めあげたといわれるあやしの布であった。

 庄三郎はこの纐纈布を生み出す邪悪の城を求めて富士山麓に入り込むが、そこでかれを待ち受けていたものは、さらなる怪異! そうしてひとの血を啜る残酷の儀式に他ならなかった! 庄三郎は希代の悪漢、纐纈城主や、ふ