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Dropkick研究シリーズ「安生洋二NKホール襲撃事件」――。今回は『kamipro』(以下カミプロ)の名物記者だった松澤チョロ氏が登場。あの事件前後のマスコミひいてはカミプロはどんな空気が流れていたのか? 松澤さんが担当だった菊田早苗の「ロクな死に方しない」事件の真相も明かしてくれました。(聞き手/ジャン斉藤)





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――松澤さんに聞きたいことがあったんですけど、全然電話がつながらなくて困っていたら、聞きたいテーマにピッタリな場所で偶然にも会ったなって。その場所とは森達也監督の『FAKE』を上映していた映画館なんですけど(笑)。

松澤 俺が見た回は超満員だったから立ち見だったんだけど。「佐村河内守さん、頑張れ!」って思いながら見ちゃったよねえ。

――なるほど(笑)。『FAKE』はいつなんどきグレーなまま幕が下りる森達也ワールドではありましたけど、角度が変われば見え方が違ってくるということですよね。ボクはここ数年、「安生洋二の前田日明NKホール襲撃事件」と小「川直也vs橋本真也の1・4事変」についてアチコチ聞いて回ってるんですけど、これも人によって証言が全然違ってくるんです。で、今日松澤さんに聞きたいのは安生洋二の件。NKホールで行われたUFC-Jのバックステージで安生さんが前田日明を背後から殴った傷害事件のことですね。

松澤 安生さんかあ。その話を聞きたいと言われて当時のカミプロを読みなおしたりしたんだけど、とくに裏側は知らないし、おぼえてないんだけどね(笑)。

――いきなり取材終了(笑)。

松澤 殴られた前田さんのすぐ側にいたんだけどホントに偶然。当時パンクラスとベッタリだったShow大谷さんや、パンクラスと仲の悪かった山口(日昇)さんに聞いたほうが早いんじゃない。

――あの人たちは佐村河内さん以上に信用ならないですよ!(笑)。しかし、松澤さんが「知らない」って凄い情報ですよ。

松澤 え、なんで? 

――だってカミプロはパンクラス黒幕説をぶち上げていたじゃないですか。その編集部員が裏側を知らないのか、と。

松澤 俺もこういう取材を受けるからには「いまだから言えること」「裏側ではこんなことがあった!」とかしゃべりたいよ(笑)。

――ハハハハハハハハ。その当時のボクはカミプロに入ってなかったので、あのときの空気感がわからないんですよね。

松澤 この件では誰を取材してるの? 謙吾さんはやった?

――やりました。

松澤 謙吾さんは何が起きるかを把握してたんでしょ。

――かなり具体的な話をしてますけど、高橋義生から「なんか起きるかもしれないから前田日明を見張ってろ」というレベルですね。前田日明と高橋義生は誌面を通じて舌戦を繰り広げていて、PRIDE・1の東京ドームではニアミス事件があった。そのあと前田日明が「高橋が逃げていった」と挑発。そんな2人がウロウロするNKホールのバックステージはピリピリしますよ。

松澤 あれ、PRIDE・1直後に安生さんの件が起きたんだっけ?

――それから1年後のことです。ちなみに前田日明が当時パンクラス代表の尾崎さん相手に傷害事件を起こしたのは半年後です。

松澤 あー、ジェレミー・ホーン引き抜き云々のやつ(笑)。

――90年代のプロレスラー格闘家を取材してわかるのは、パンクラスの人たちはこの件も含めて当時のマスコミの取り上げられ方に凄く不満を持ってるんです。そのマスコミの代表格はカミプロなんですけど。

松澤 事件後のカミプロに載った座談会には俺も出てるんだけど、みんな安生さんとパンクラスのことをボロクソに言ってたよね。俺は「安生カッコイイ」とか迂闊なこと言ってるんだけど(苦笑)。

――「パンクラス黒幕説」を一番最初に打ち出したのは『東スポ』でした。月刊誌のカミプロも遅れて「パンクラス黒幕説」の火をつけますが、これは何か確証があっての編集部の姿勢だったんですか?

松澤 どうなんだろう? いや、お恥ずかしいけど俺は本当に何も知らない(笑)。15年経っておぼえてるのは、前田さんが尾崎社長に「インキンタムシみたいな顔をしやがって!」と言っていたことくらいで(笑)。

――おぼえてることは「インキンタムシみたいな顔」ってどんなボンクラなんですか(笑)。「パンクラ黒幕説」を裏付けるものとして、安生さんが前田日明を殴った直後、当時パンクラス所属だった山田学が「囲め、囲め!」と叫んだという説がありますよね。それは「囲んでもっとやってしまえ!」という意味合いで報道され、ますますパンクラス黒幕説が色濃くなった。あのとき現場では「下がって、下がって!」という声や「救急車、救急車!」という声も飛んでいて、「救急車!」と叫んだのは当時パンクラスの船木誠勝なんですけど。

松澤 山田親分が「囲め!」と言ったことは定説になってるよね。「カゴメ、カゴメ!」だったらおもしろいけど(笑)。

――いや、山田親分に話を聞きに行ったら同じこと言ってましたよ!(笑)。

松澤 えええ!?(笑)。

――「松澤チョロと山田学のギャグ、同レベル説」(笑)。山口さんも近くでそれを目撃していて、山田学に対して「タチの悪いチーマーかと思った」と振り返ってるですけど。自分が山田さんを取材したときに聞いたら、笑いながら否定されたんです。まあ言っていたとしても認めないと思いますけども、周囲の山田学評を聞いていくと、桜井マッハ速人的な野生タイプの人間でそういうことを言う人間ではないなあ、と。

松澤 俺も「なんで山田学がそんなことを言うんだろう……?」という疑問はあったけど。

――普通に考えると、倒れた相手に「囲め!」と言うのは「こんな姿を見せるな!」ということだとは思うんですよね。これはあとで触れますが、当時のパンクラスとカミプロの関係性からすれば、山口さんはそう受け止められなかった感情があったのかなって。

松澤 山田親分は当時反論してないよね。でも、それは「どうでいい……」という格闘家特有の面倒くささからなんだろうけど。そこには山田親分を貶めようとする情報操作があったのかなあ。

――ボクも当時は読者でしたけど、山田学のことを許せない感情が沸き上がった。でも、山田さんに会って話を聞いてみると「あ、これは言ってない」と思うようになったし、隠す意味があったんじゃないかなとも受け止めるようになった。真実はわかりませんけど。

松澤 あのときはカミプロもそうだし、それは東スポ、ゴング、ほかのマスコミもパンクラス黒幕説を誘導していたでしょ。

――SRS・DXは尾崎社長に黒幕説について取材してるんですよ。ただ、当時SRS・DXの編集長だった谷川さんは何かが起きることを事前に知っていたと明かしてるんですよね。ボクの取材によれば、SRS・DXの編集部員に前田日明のことを見張ってるように指示していますし。

松澤 凄い情報(笑)。

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安生事件直後の各雑誌の表紙。その2週間後にPRIDEで桜庭和志がホイラー・グレイシーから勝利。


――松澤さんもあの日、バックステージにはいたんですよね。

松澤 バックステージをウロウロしていたし、たまたま前田日明さんが倒れてる写真も撮った。

――山口さんも現場にいた。あらためて聞きますけど、「何かが起こるかもしれない」という噂は聞いてなかったですか?

松澤 あやふやだけど、聞いてないはず。

――だとすれば、それを把握していなかったのはリングスとカミプロだけですよね。

松澤 ええええ!?(笑)。

――当時前田日明の付き人だった滑川康仁は帰っていて、前田さんは女性マネージャーと2人きりなんですよ。不穏な話を聞いていたら滑川さんのことは帰さないはずですし……。

松澤 前田さんには誰もついていなかったんだよね。

――「何かが起こる」といっても「これだけ仲の悪い人間が集まれば何が起きそう」という類の噂なのかもしれませんけど。谷川さんが知っていたということは、山口さんが知っていてもおかしくないんですけどね。

松澤  そこはつながりあるからね。俺個人で言えば、当時はSRS・DX編集部ともつながりがなかったから、そういう情報は聞いてなかったね。

――松澤さんが知らなかったということは、カミプロに入ったばかりの堀江(ガンツ)さんも知らないですよね。

松澤 その件に関して話したことないけど、知らなかったんじゃないかな。

――堀江さんはこの事件の総括記事で「事件を予言していた格闘家、関係者が複数いたことは事実としてしっかりと記しておきたい」と書いているけど。事前に知らなかったということは、事件後の他誌の記事なり情報収集のもとに書いたっことでしょうね。

松澤 なんだか……言ってきてだんだん不安になってきたけど、山口さんから「前田日明をマークしろ」って言われてた気もしないでもない。

――いまさら何を言い出すんですか(笑)。

松澤 うーん。「何かがある」とは耳にしたかもしれないけど、その方向性はわからなかったかなあ。

――まあ、何か起こりそうではありますよね。で、実際に起こった。

松澤 きな臭い噂があったから、『週刊ゴング』なんかは前田さんが殴られた瞬間の決定的な写真が撮れて表紙にしたんだろうし。
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『週刊ゴング』が捉えた決定的瞬間。まるで事件が起こるのを知っていたかのようだ……


――バックステージにいる前田日明にカメラを向けているのは不思議ですからね。つまりカメラマンレベルでも前田日明をマークしていた。カミプロ以外のマスコミは非常時に備えていたという。

松澤 こなだいカミプロでも使ってたカメラマンに言われたんだけど。ほかのマスコミは「ここでフィニッシュがある」「ここで必殺技が出る」「今日はここで何かが起こる」って事前にカメラマンに教えるんだって。でも、カミプロからはなんの指示もないし、その方はプロレスカメラマングループからすれば部外者だから、リングで何がどうなるかって何も聞こえてこない。

――カミプロ編集部自体も何が起こるか知らないから仕方ない(笑)。

松澤 『ハッスル』やPRIDEは山口さんが関わっていたからいろいろと知っていたけど。でも、当時のカミプロ編集部はよく知らないし、大仁田劇場すらもあやふやなスタンスで見守ってるから。大仁田さんに「お前はグレートムタとグレートニタの試合を見たいか!?」とか叫ばれるでしょ。こっちはファン上がりだから、どうリアクションしたらいいかわかんないんだよね(苦笑)。

――ハハハハハハハハハハ!

松澤 東スポとかほかのマスコミは先のことを知ってるからリアクションも取れるんだろうけど。でも、こっちからすると、そのナアナアな感じがイヤだったりするわけじゃない。あの頃のカミプロは会場取材にほとんど行ってなかったから、ほかのマスコミとのあいだに溝があったよね。

――あー、それは自分が入った頃もそうだった。

松澤 携帯サイトで試合速報や記者会見をニュースにするようになってからは、いろんな団体を取材するようになったけど。あの頃のカミプロってどこでも嫌われていたから。

――要はマスコミとして認められてなかったんですね。

松澤 認められていなくても、自分から積極的に団体やマスコミと交流を持てばよかったんだけど。俺もそうだし、ほかの編集部員とかも仲良くなって情報を仕入れることもなかったよね。ま、人間性の問題でもあるんだろうけど(笑)。

――猪木さんが成田空港で会見を定期的にやってたときに、終了後に記者陣がミーティングが開くんですよ。猪木さんって当時から言ってることがアチコチに転がって要領を得ないから、各社記事内容の足並みを揃えよう、と。自分もその輪に入ろうとしたら◯◯◯の△△に「おまえは来るな」と言われて。

松澤 カミプロとしてピンポイント? 

――そうです。風采が上がらないオッサンに「おまえ」呼ばわりされたから、「ああん?」ってケンカを売ってますます関係が悪くなるんですけど(笑)。そういう事情もあってボクは猪木成田会見の記事で永久電機のことしか書かなくなったんですよ。

松澤 ジャン斉藤と言えば永久電機みたいなのもあったな(笑)。たしかにカミプロというだけちょっとした後ろめたさがあるんだよねぇ。でも、居心地も悪かったのは、その環境もあるんだろうけど、自分の態度も悪かったんだと思うよ。

――たぶんね、8対2でカミプロが悪いですよね。

松澤 カミプロが8?(笑)。

――だってボクくらいまでのカミプロ編集者って、ほかのマスコミの皆さんに挨拶しないじゃないですか。大会や会見の取材で松澤さんや堀江さんについていっても誰にも挨拶しないし、紹介もされないからこういう世界なんだと思っていたんですけど。単に無礼な奴だという(笑)。

松澤 ゼロワンとかを取材に行くと中村(祥之)さんはカミプロを面白がって迎え入れてくれるし、破壊王(橋本真也)はマスコミとして認識してくれるから居心地はよかったんだよねぇ(笑)。でも、それ以外の選手とはほとんど交流がなかった。

――団体の犬どころか、単なる子犬(笑)。

松澤 歓迎してくれたら誰だってそうなりますよ。ガンツもいまやUFCの解説仕事とかやってるけど、そうなったら当然UFCの悪口的なことは言いづらくなったりするじゃない。

――そういえば、堀江さんってもともと反PRIDEでしたよね。

松澤 そう? 基本はPRIDE最高でしょ。

――いや、嫌いでしたよ。反グロバーリズム主義者っぽい感じで。

松澤 あー、リングスが活動していた頃はそうだったね。それこそガンツもあとから前田さんによく思われなくなってドつかれたりするけど。リングスがKOKルールになってから、ガンツは金原(弘光)選手とかをよく取材するようになってKOK以前のリングスの裏話を書いたりするじゃない。それでヤマヨシや成瀬(昌由)さんからも煙たがれたりしたんだよね。

――それは知らなかった。

松澤 成瀬さんは「ガンツだったら取材は受けない」となってたんだよ。触れられたくない部分に触れられた的な感じだったんだろうけど。

――まあでも、書きたいことを書くとどうしても角が立つもんですよ。

松澤  「ジャン斉藤は許さない」とか言ってる人もいるもんなあ(笑)。

――心当たりが多すぎて困りますね(笑)。話を戻すと、カミプロはこの事件についてパンクラス方面の取材はしていないんですよね。

松澤 当時からカミプロはリングス寄りだったけど、どのタイミングがわからないけど、パンクラスと険悪な関係になっちゃったんだよなあ。

――取材拒否されていたんですか?

松澤 わからない。

――当事者なのにわからない!(笑)。

松澤 まあ、たしかに当事者なんだけど。ナチュラルに取材できない関係になっていたというか、初期カミプロでは船木誠勝や鈴木みのるは応援してたじゃない?

――ですよね。松澤さんって創刊号の頃にいました?

松澤 いないいない。自分は桜庭和志表紙の8号から。

――松澤さんが入社した頃からパンクラスは取材できなかったんですか?

松澤 繰り返しになるけど、そのへんはおぼえてないんだよなあ。さっきも言ったけど、パンクラスにかぎらずほとんど会場に行かなかったから取材拒否されてるかどうかもわからない(笑)。

――なるほど(笑)。初期カミプロってパンクラス公式読本『矛・盾』を出してましたよね。

松澤 たしか、そのとき何か揉めたというふうに聞いた気がする。「こういう理由で取材拒否されました」って誌面に書いたことはなかったんだけど。たとえば新日本の場合は取材できなくて当たり前だったから気にしてなかった。山口さんから「あの団体は取材できないから行くな」とか言われたことはなかったし。

――自分が調べたかぎり、パンクラスは選手インタビューはダメだけど、会場取材はOKだったようなんですよ。

松澤 そうだっけ? ああ、なんとなくそんな感じだった気がする。

――DEEPを松澤さんとボクが取材に行ったときに、松澤さんと尾崎社長が立ち話をしてたんですよ。松澤さんは選手インタビュー取材をお願いするけど、尾崎さんが「まだ裁判途中だから……」とやんわりと拒否して。カミプロとパンクラスって裁判をやってるんだってビックリしたんですけど、よくよく話を聞いたら当時のカミプロが前田さんと尾崎さんの裁判資料になってるとかで。

松澤 あー、ジェレミー・ホーンのインタビューかな。引き抜き問題とかで。

――そのへんの闇をしゃべると長くなるので話を先に進めると、松澤さんはパンクラスを取材したり、何か企画をやってみたいと思っていたわけですよね。

松澤 俺はパンクラス嫌いじゃなかったから。ただ、俺なんかは他人の影響を受けやすい人間だからさ。当時「リングスのほうがかっこいい」「パンクラス好きはダサい」みたいな空気はあったよね(笑)。

――「パンクラスは宗教だ!」みたいな。

松澤 ねえ。パンクラスはカッコ悪いものという風潮があったよね。

――自分がカミプロに入社してしばらく経ってからパンクラスの取材も解禁されるんですけど。ミノワマン(当時・美濃輪育久)をインタビューするかどうかで揉めたんですよ。

松澤 「美濃和はまだ顔じゃない?」って。

――松澤さんが取材したいと言ったら、堀江さんが「キン肉マンごときをリスペクトしている奴がプロレスラーを名乗るんじゃない!」という激論になって(笑)。

松澤 あー! 言われて思い出した(笑)。「えっ、美濃和もダメなの?」という忸怩たる思いはあったなあ……。

――自分も堀江さんの意見に同意したんですけど(笑)。修斗好きだったんですけど、「修斗はカッコ悪い」というカミプロの空気に見事に染まっていきましたね。どう考えても間違ってた!(笑)。

松澤 マッハとか人間的に魅力があったし、取材できる環境はあったけど、カミプロにあった「修斗はカッコ悪い」という空気を突破するのは労力がいるよね。俺ってインディ好きだと思われてるでしょ。当時は必死こいて取材していたと見えたかもしれないけど、そこまでインディ好きでもなかったし(笑)。

――ハハハハハハハハハハ!  

松澤 それはカミプロがPRIDEとともに存在感が大きくなっていくと、その王道的なスタンスが気に入らないし、面白くないから。反発するじゃないけど、PRIDEの裏で、どインディの取材をやったりしてたよね、隙間産業的に。でも、致命的なのは俺には伝えられる力がなかった。DDTとかも絶対に人気出ると思って初期の頃から取り上げたりしてたけど、伝えられる言葉や見せ方を持ってなかった。それはジョシカクも同じなんだけど。

――PRIDEから一歩引きたくなる気持ちはなんとなくわかりますね。その頃のボクはPRIDE原理主義者でしたけど(笑)。

松澤 PRIDEはたしかに面白かったけど、カミプロはPRIDEからお金をもらって記事を作ってる……とか言われたくないから、距離を作ったところはあるかもしれない。それは『ハッスル』も同じだったよね。いまとなってみれば『ハッスル』はけっこう面白かったなあと思うんだけど、編集長の山口さんがやってるものをプッシュするのはカッコ悪いという空気はあった。だから俺は『マッスル』を取り上げる! という意地の張り方をしてた。実際『マッスル』は面白かったし。

――良く言えば先見の明がある、悪く言えばひねくれ者だ(笑)。自分は90年代新日本が大好きだったんですけど、「平成・新日本はつまらない」「闘いがない!」という風潮に染まっていきましたし。「平成・新日本つまらない運動」はけっこうな大規模だったじゃないですか。

松澤 テンコジ好きはかっこ悪いとか(笑)。

――あ、テンコジでいえば、菊田早苗の「ロクな死に方しない」インタビューは松澤さん仕事ですよね。あれもかなりなフェイクな出来事というか。

松澤 あれも情報操作ですよ(苦笑)。カミプロというか俺が捏造したと思われてるけど。

――菊田早苗の「ロクな死に方しない」事件を簡単に説明すると、当時はプロレスと格闘技がグレーに混ざり合っていた時代で。菊田さんからすれば、競技をやらずに最強を名乗ってるプロレスラーは詐欺師であり、ファンを裏切ってるということで糾弾したんですよね。凄く面白い記事だったんですけど、その中でも印象的だったフレーズが「天山小島はロクな死に方しない」だった。ところが、発売後、別媒体の記事で菊田さんは「そんなことは言ってない」と言い出して。

松澤 そうなんだよなあ。

――いまだに誰かを取材すると「原稿チェックを必ずさせてください。カミプロさん系は勝手に出すじゃないですか」とか言われることがあるんですよ(笑)。

松澤 ああ、そのイメージあるよね。なんなら原稿チェックをしないのは週プロ、ゴング、東スポのほうが当たり前で、カミプロは俺が入った頃からちゃんとやってたんだけど。……締め切りの関係でぶっちぎったことは多々あるけども(笑)。

――あるんじゃないですか!(笑)。

松澤 もういなとなっては菊田さんも大御所だし、時間も経ってるからこの件に関して真実を明かすけど。菊田さんにインタビューして原稿ができたあと、当時、編集部の右斜め前にあったモスバーガーで、菊田さん本人と3時間くらい原稿チェックしたんだよね。

――3時間!(笑)。ざっと6000〜7000字の記事でそんなに時間を要するって……(ちなみにこのインタビューは16000字)。でも原稿チェックはちゃんとやったということですね。それならなぜ「そんなことは言ってない」と……。


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