Omasuki Fightの北米MMA抄訳コラム「MMA Unleashed」――今回のテーマは年忘れMMA奇譚集!「モスクワのドクター・フランケンシュタイン」「ダゲスタンでの試合で、元UFCファイターが逃亡によるTKO負け」「代打出場のファンがチャンピオンベルト奪取」の3話をお届けです!




第1話 モスクワのドクター・フランケンシュタイン

MMA戦歴45戦のベテラン、ヒース・ヒーリングは、病院での経験についてのエピソードには事欠かない。

例えば、ヒーリングは日本の病院には絶大な信頼を置いており、ケガをしてもすっかり治ってしまうので、PRIDEでの負傷は負傷のうちに入らないと見なしていたほどだ。しかし、2000年のモスクワでの経験は、そんな“テキサスの暴れ馬”をもってしても、ちょっとしたものだった。

ヒーリングはもはや対戦相手の名前も覚えていないというが、とにかくモスクワで試合をして、TKOで敗れ、顔面に大きな裂傷を負ってしまった。早く縫合しないといけないと考えたヒーリングは、同僚の選手が帰国してから病院に行った方がいいとアドバイスするのも聞かず、モスクワの病院に行くことにした。

病院に行くまでが、まずおかしかった。

「救急車に驚いた。サイレンを鳴らして爆走するんだ。どう考えても救急ではなかった」

病院の救急受け入れのゲートでは、自動小銃を持った男がヒーリングを迎え入れた。

「建物の中に入って驚いた。担架に乗った死体があちこちに置かれているんだ。床は血だらけ。こりゃいったい何なんだ、と思ったよ」

待合室で隣にいた男の顔面は、斧(おの)でカチ割られたように見えた。もうちょっとマシな見た目の別の患者はヒーリングに、あなた、自分がアメリカ人であることを明かしてはいけませんよ、と忠告してくれた。

「医者たちが今、あなたの話をしていて、どうやらスウェーデン人だと思っているみたいです」

やがて看護師がやってきて、病院で最も腕の良い医師が治療しますと伝えられた。

「そしてその医師がやってきた。くわえタバコで、『はいはい、縫合ね』という感じだった。私がお願いしますと言うと、彼は『いくつにする?1つ?2つ?』と言うんだ。まあ、冗談なんだろうなと思った。私の傷は大きくて、たぶん20針くらいは必要だったはずだ。私は、『まあ、2針は必要なんじゃないでしょうか、って、冗談ですよね』と答えていた」

「一緒に廊下を歩いていたら、手術室の前で医師が急に立ち止まり、振り返ってこう聞いてきた。『AIDSは?HIVは?肝炎は?』。で、私は『何も持っていませんよ』と答えた。すると医師は、別の手術室へとヒーリングを案内した」

「手術室には血が付いたテーブルがあった。その上に横になりなさいと医師が言った。私は吹き出してしまった。冗談だと思ったんだ」

しかし、冗談など1つもなかった。


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