今週のスペシャルインタビューはDEEPの佐伯繁代表!メジャー団体なき日本の総合格闘技市場をけん引するひとりである佐伯さんに今年の総括、来年の展望をしていただいた!


いまのお客さんは「プロの試合を観る」というより「子供の運動会を観る」感覚なのは事実なんですね

――佐伯さんは川尻選手や菊野選手が出場する年明けのUFCシンガポール大会には行かれるんですか?

佐伯 どうだろうなあ……。大会云々関係なくて、あんまり行きたくないんだよなあ、シンガポール。

――それは観光じゃなくて仕事になっちゃうからですかね?

佐伯 いやいや、仕事なら仕方な~~く行きますよっ! 観光なら絶対に行かない(キッパリ)。

――絶対に!そこまで断言するのはどうして(笑)。

佐伯 だって、シンガポールなんてメシ食ったら何もやることないもん!

――ワハハハハハハ! んなことないでしょ!

佐伯 いやいや、ホントなんだって。シンガポールって意外とやることないんですよ。マーライオンなんて一回見たら終わりでしょ。

――マーライオンは見る前からショボイとかさんざん言われてますよ! ちなみに自分は観光ついでで行くんですけどね。

佐伯 あ、そうなの? 同じUFCなら来年のマカオ大会のほうがゆっくりできますよ! ●●●や▲▲▲も出る予定だし。

――あ、ついに! それは凄く楽しみですけど、シンガポールのいいところも教えてくださいよ!

事務所にいた北岡悟 いや、いいところですよ、シンガポール(笑)。雰囲気も良くて。

――ようやく援軍が来ました。

佐伯 うん、雰囲気はいいですよ。でも気持ちのいい風じゃなくて蒸し暑いんですよぉ。

――なんなんですか、いったい(笑)。

佐伯 そうだなあ……強いてあげれば、食べ物がうまい!

――詳しく聞きましょう!

佐伯 あのね、シンガポールって日本食がうまいんだよ。

――に、に、日本食ぅ!? いや、日本食はうまいんですけど……。

佐伯 とんかつ屋もあるし、ラーメン屋もあるし、そうそう、北海道物産展もあったからねぇ。

――なぜシンガポールで北海道を讃えなきゃいけないんだ(笑)。そんな前置きはともかく、今年も佐伯さんは日本格闘技界で大車輪の活躍でしたね!

佐伯 いやいや、大車輪かどうかはわからないけど。生きてるだけで精一杯ですよ。それにだんだん歳を取ってくるとさあ。この先のことも考えちゃうんだよなあ……

――あら、シンガポールdisから一転して重い話。

佐伯 同じ業界の連中とも話はするんだけど、「俺たち、終わりがないよね」って。これでね、バンバン儲かってさ、お金が溜まったり余裕ができていくならやりがいはあるんけど、まったくそういう状況じゃないし。

――言い方は悪いですが、その日暮らし的というか。

佐伯 ぶっちゃけ現状維持ならやる意味はないし、いまはまだいいけどさ、60歳くらいになっても大会ポスターを張ったり、会場のイスを並べたりはできないっつーの!(笑)。

――やってる絵が想像できるんですけど……(笑)。

佐伯 だから「このままでいいんだろうか……?」と強く疑問に思った一年ではあるよね。やっぱり人生は半分終わったんで全体的な人生の枠組みから考え直さないといけないかなあって。

――人生の枠組み! 

佐伯 結局ね、いいときもあれば悪いときもあるのはわかるんだけど、この業界って「いいとき」が続かないんですよ。つまり一回一回の興行が勝負なところもあって、今回が良くても次回どうなるかはわからない。でしょ?

――たしかに点が線になりづらくなってきましたね。

佐伯 昔は今回が良ければ次も売れたんですけど、そこは時代が違うんですよ。で、こないだTDCホール大会が終わったときにお客さんが近寄ってきて「DREAMもないし、格闘技、大丈夫ですか?」って聞いてきたんだけど、「いまは方向性が違うんです」って言ったんだよ。いまってPRIDEがブームのときよりはるかに格闘技を見てるお客さんは多いじゃない。大会なんて数え切れないほどあるし。

――興行数は凄いことになってますね。

佐伯 そして、どこもお客はちゃんと入ってるんですよ。でも、それは格闘技ファンが来てるんじゃなくて選手の友達がチケットを買って来てるわけ。格闘技にはあんまり興味がないんだけど友達を応援に来てる。

――こはボクシング文脈ではありますよね。

佐伯 会場はそんなに大きくないけど、へんな話「こんなカードで……」という大会だって満員になってるんですよ。だって30試合組んだら確実にお客は入りますって。

――出場選手60人が20枚ずつ売っても1200枚。IGFの大晦日興行より売れてますよ!

佐伯 いまはそういう時代じゃないですか。どこもけっこうな数の試合を組んでるじゃないですか。もちろん格闘技ファンも来てますけど、ZSTもパンクラスもウチも試合数がハンパじゃない。でもね、そこで友達関係なく高いギャラの選手をマッチメイクするのは、その団体の格であり意地でもあるんですよね。


PRIDEがあった当時と比べたら露出度は1000対1くらいじゃないですか

――
佐伯さんはマッチメイカーとしてそこにやりがいのなさを感じていたりするんですか? DEEPはその格や意地を張ってるカードが多いですよね。

佐伯 やりがいがないことはないよ。結局興行なんて「儲かるか、儲からないか」だから。言えるのはマッチメイクではお客は入らないってこと。そこはまだプロレスファンのほうがカードに対する意識はありますよね。いまの時代はファイトマネーにお金をかけず、試合数を組めば確実に儲かるという結論がある。でも、さっきも言ったようにギリギリのラインを守るのが団体の格だと思ってるんですよ。

――そうやってイベントのカラーが生まれてくるわけですよね。

佐伯 そうすることで選手に「あの団体に出たい!」と思わせることができるわけでしょ。だけど、いまのお客さんは「プロの試合を観る」というより「子供の運動会を観る」感覚なのは事実なんですね。

――そこの流れはしばらくは変わらないでしょうね。

佐伯 それは民放(地上波テレビ)が格闘技を扱わないかぎり難しいと思うわ。昔なんてフジテレビでPRIDE、K-1が流れて、TBSK-1MAXHERO`Sがあって、日本テレビでもK-1JAPANがあってさ。そいで深夜には格闘技の情報番組が毎週あって、たまに大会の煽り番組があって選手がバンバン露出してたわけでしょ。

――そんなに露出していれば一般にもチケットが売れますよね。

佐伯 いま誰がテレビに出てるんですか? たまに観るのは秋山(成勲)さんくらいでしょ?

――その秋山選手も「男気じゃんけん」卒業しちゃいましたねぇ。

佐伯 真面目な話、当時と比べたら露出度は1000対1くらいじゃないですか。それじゃあ流行りにはならないですよね。あとはアメリカにみたいにPPV市場は大きくないし、選手は雲の上の存在じゃなくて会おうと思ったら道場に行けばいい。俺なんか北岡とほぼ毎日会ってるわ!

――北岡選手が練習に来てるだけですよ!

佐伯 だからまあ、どっちかというとスターとして観る感じはないよね。

――そういえば、サムライTVの格闘技枠もなくなってきてますけど……

佐伯 ウチは今後もやるけど、ほかはどうなるんだろうね。これはどこまで書いていいかわからんけど、昔はサムライが制作をヨソに発注して団体に放送権料を渡す、と。それとはべつに団体が制作したものをまるまるサムライに買ってもらうというやり方もあるんですよ。で、前者のかたちで契約してるのは今はウチだけなのかな。

――そうなると後者の場合、サムライTVと売買が成立しないと放送しないというわけですね。あと団体が番組を制作しないと始まらない。

佐伯 でも、ウチとの契約だと権利が全部団体にあるわけじゃないわけ。

――制作してもらってるぶん権利関係が複雑になる、と。

佐伯 まあ映像関係はどんどん厳しくなってきますよ。世界各地で格闘技をやってるから昔ほど価値はないんだわ。そんなに格闘技の映像をほしがらない。そんな中パンクラスさんはカナダのテレビ局と契約したじゃん。ウチはそこと4年前から契約してて、アメリカのニュース番組にも試合映像を送ってるんだけど、まあどうでもいい話ですよね。それで大金をもらってるわけじゃないし、日本のファンが増えるわけじゃないし、海外送金だからいつ入るかわからんし。

――たとえば入金が遅れても文句を言うのが大変ですね(笑)。

佐伯 どうしようもないよ(苦笑)。だから映像にはそんなに価値はない時代ですよね。

――それに今年はDREAMがなくなって……

佐伯 (さえぎって)「なくなった」というか休止ですよね。<次回へ続く