現在UFCに参戦中の松田干城は、アメリカのボストンを拠点に活動しているバンダム級の日本人ファイター。アメリカでMMAを学び、試合経験を積み、UFCとの契約を果たした。日本人格闘家としては異色の経歴を持っている――。
――高校のときは野球をやられていたんですよね?
――アメリカ留学の話はいつ頃から考えていたんですか?
松田 高校3年生の春ですね。野球部引退直前。自分らの代の野球部は甲子園に出たんですが、一般の学生は進路のことで忙しいんですけど、自分の場合はそこまでは野球ばっかりの生活だったこともあって、何も考えられなかったんですよね。そんなときに、たまたま友達が海外留学のパンフレットを持っていて「あ、こういう道もあるんだ」と。
――そういった方面で何か仕事をしたいという考えもあったんですか。
松田 その先のことは何も考えてなかったですね。とりあえず漠然とながら日本のスポーツ界に貢献したい、世界のトップアスリートと仕事をしたいと。オリンピックに出場する選手、メジャーリーグに挑戦する日本人選手に刺激を受けていた10代後半でしたので、科学に基づいたトレーニング効果だったりを勉強して、スポーツの役に立ったらいいなという考えだったんですけど。
――それがどうして格闘技の道に進むことになったんですか?
松田 野球部を引退して留学準備をするあいだに格闘技をやるきっかけがあったんです。自分と同じように海外留学する奴が隣のクラスにもいると聞いて、じゃあ話をしてみようと行ってみたら、そいつがイスや机を教室の隅に片付けて格闘技っぽいことをやってたんですよね。面白そうだったので「まぜてくれ」って言って。
――それはなんの格闘技だったんですか?
松田 新空手です。空手着を着てグローブを付けて。サンドバックも蹴ったことないし、誰かに教わったわけじゃなくて、友達がミットを持ってのワンツーしか練習できなかったんですけど。3ヵ月後に新空手の大会に出たんです。そのときに野球でかなわなかった夢が一瞬にして実現したんですよ。それは何かというと、ボクは野球部のレギュラーメンバーではなかったんですよね。
――甲子園に出るくらい高校ですから選手層は厚いんですよね。
松田 全寮制で1年から3年までで60〜70人くらいの部員はいました。県大会まではメンバーには入ってたんですけど、甲子園になると外されちゃいましたね。「レギュラーが怪我したら出られるのに……」とか、よろしくないことを考えちゃうような感じで(笑)。
――普通に野球はうまいんですね。
松田 いやいや、全然うまくないですよ(苦笑)。いま思えば野球は合わなかったです。で、格闘技だと申込用紙に名前を書けば試合に出られるじゃないですか。それで出たら準優勝しちゃったんですよ。
――高校球児ってとにかく毎日練習するから、出場メンバーの中では一番体力あったんじゃないですかね(笑)。
松田 体力だけはありましたよね。いま思えば「なんであそこまで練習してたんだろう?」って思うくらいやってましたから。
――野球部員やサッカー部員って運動神経がいい奴がやるし、そのうえ鍛えまくっているから高校のヤンキーより喧嘩が強いですよね(笑)。
松田 アハハハハハ。冬はシーズンじゃないから、食ってトレーニングの繰り返しでしたね。秋の新人戦で早く負けちゃうと、目的のないトレーニングを春まで延々と続けますし。一冬超えると、みんなジーンズが履けなくなっちゃいますから(笑)。
――身体のサイズが変わっちゃいますか(笑)。
松田 それで、アメリカに行ったら格闘技はもうできないもんだと思ってたんですよ。英語もろくにしゃべれないし、授業についていくのがやっとじゃないかって。そうしたら、実際はみんな自由に好きなことをやってるんですよね。必死に勉強して日本に帰るというのはアメリカに行く前の価値観で。それに英語は伝わればよくて、文法や言い回しを気にしてると「あ、コイツは面倒な奴」って相手にしてくれなくなるんですよ。むしろ言葉が正確じゃなくても、フレンドリーに接したほうがチャンスに恵まれるし、アメリカ生活をエンジョイできる。英語はただのツールでしかないということに気付いて。
――それで格闘技ジムにも通ったんですね。ジムはMMAですか?
松田 ムエタイのジムです。でも、のちにMMAのジムとして有名になるんですけど、当時はバリバリのムエタイでしたね。ジムのコーチはタイでムエタイを修行して、そこのマスターにアメリカで支部を作ることを許されたんです。本格的なタイボクシングを東海岸でやり始めた、アメリカではパイオニア的存在なんですよね。
――由緒正しきムエタイのジムなんですね。
松田 練習すると、みんな褒めてくれるんですよね。野球のときは谷底に蹴り落とされて、そこからどう這い上がってくるかなんですけど(笑)。アメリカの場合は「おまえ凄いよ!」って褒めて育ててくれるんです。
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