宿泊先のホテルから試合会場へ移動するために、付近を走るタクシーを見つけ出し、猛ダッシュして確保する。ホテルのロビーからゆっくりと姿を現した藤原喜明を誘導しながら、自らもタクシーに乗り込む。ベテランと新人レスラーの巡業中のありふれた風景に、何か違和感があるとすれば、グリーンボーイにしては筋骨隆々すぎる肉体、髪の色は付き人には不相応な金髪。巡業中の集団の中で誰よりも強そうな風貌である。
「センセー・フジワラは強い。そしてハードボイルドだ」
そうニヤリと笑った彼は、ミルコ・クロコップを絶望の淵に突き落として、エメリヤーエンコ・ヒョードルを脳天からマットに叩きつけた元UFCヘビー級チャンピオンだった。かつてオクタゴンの頂点に立った男が、日本のサブミッションマスターから格闘技と人生の教えを請う。プロレスと格闘技がまだらに絡み合っていた時代だった。
2016年2月12日、UFCやPRIDEで活躍したケビン・ランデルマンが心不全で亡くなった。44歳の早すぎる死だった。
1996年にMMAデビューをはたしたランデルマンは、1999年にUFCヘビー級王座につく。日本デビュー戦はPRIDEのリングで相手は元・新日本プロレスの小原道由、2戦目は元UWFインターナショナルの山本喧一、3戦目のムリーロ・ニンジャを下して3連勝。
しかし、PRIDEミドル級王者ヴァンダレイ・シウバへの挑戦者決定戦と位置づけられたランペイジ・ジャクソン戦では敗れてしまい、続いて桜庭和志から腕十字で一本を奪われると、ミドル級タイトル戦線から脱落していく。
コメント
コメントを書くランデルマンへの愛とあの時代への郷愁が感じられる名文でした
あのときのマイクがばっと思い出されました。
そして、そのとき以上に泣けて、そして力をもらいました。
自分が見た懐かしい光景をフラッシュバックさせながら読んだ、たまらない、たまらない文章でした。
ランデルマン、安らかなれ。
ランデルマンありがとうあなたの筋肉には楽しませてもらった