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りゅうおうのおしごと!レビュー
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りゅうおうのおしごと!レビュー

2015-09-13 00:00
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     発表されたときから一日千秋の思いで待っていたGA文庫『りゅうおうのおしごと!』(著:白鳥士郎、イラスト:しらび)が、とうとう発売されました。
     当チャンネルでは、ラノベのメジャーレーベルとしては初の本格将棋小説だった『王手桂香取り!』のレビューを行いましたが、今回も書かずにはいられません。関西若手棋士グループの「西遊棋」が監修を務め、特設ページにはあの加藤一二三九段の推薦コメントが寄せられています。今後コミック&ドラマCD化といったメディアミックスもされる予定で、力の入れ具合がうかがえます。
     では、あらすじを見てみましょう。
    玄関を開けると、JSがいた――
    「やくそくどおり、弟子にしてもらいにきました! 」
    16歳にして将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一の自宅に
    押しかけてきたのは、小学三年生の雛鶴あい。きゅうさい。
    「え? ……弟子? え?」
    「……おぼえてません?」
    憶えてなかったが始まってしまったJSとの同居生活。ストレートなあいの情熱に、
    八一も失いかけていた熱いモノを取り戻していく――
     名人と並ぶ棋界最高位の竜王ですが、デビューしたばかりの新人でもチャンスがあり(竜王ドリームと呼ばれます)、16歳で獲得というのは決して非現実的ではありません。ちなみに現実の最年少タイトルホルダーは、屋敷伸之九段の棋聖(18歳6か月)です。10代の少年でありながらすでにトッププロの主人公――ラノベのフォーマットに上手に落とし込んだ、巧みな設定だと思います。
     次に唸らされたのは書き出し。
    「ししょうの玉……すっごく固い……」
     将棋小説の新境地を切り拓いた、素晴らしい書き出し! 将棋用語は使い方ひとつであらぬ想像を掻き立てる効果がありますが、一番最初に持ってくる作者のセンスが光ります。
     あとは作者の代表作『のうりん!』でもおなじみ、パロディの数々。
    「あー、やっちゃったよー」
    「おおーっ! やった!」
    「ウヒョー!」
     これにクスリとできる人はもれなく将棋ファン。こうしたファン向けの小ネタをちょくちょく交えているのが嬉しいです。「若々しさを解き放つ」主人公の師匠にはおおいに笑ってしまいました。もちろん将棋ネタに頼らずとも、テンポとテンション、キャラ立ちが抜群の日常シーンはページをめくる手が止まりません。
     しかし『のうりん!』がそうであるように、作者の神髄は緻密な取材に基づいた描写。本作は関西の将棋界が舞台で、私は東京在住なので関西の将棋会館に行ったことはありませんが、道場や対局室の情景、棋士たちのやりとりなど、とてもリアリティがあります。このへんはさすが、プロ棋士の監修つきですね。

     さて、私が一番気になっていたのは、局面図はあるのか? ということ。将棋ファン以外にも読んでもらうためには、局面図に頼らない構成こそが正解かもしれないのですが、あったらより将棋小説らしくなるのでは、と思っていました。
     それが、ありました。といっても対局中の局面図ではなく、詰将棋の図なのですが、これがあるおかげで、そのシーンの説明がすごくわかりやすい。これは大正解だと思います。

     竜王になってからスランプに陥った八一が、ヒロインあいとの出会いを経て、彼女とともに成長していくストーリーは、ひたすら先が気になる。『王手桂香取り!』が将棋ラノベというジャンルを確立した作品なら、『りゅうおうのおしごと!』はそれをさらに発展させる作品です。しかし驚きだったのが、この作品の企画が考えられたのが4年半も前ということ。そんな頃から将棋ラノベというものを視野に入れていたとは驚きでした。この間に、将棋界は電王戦やニコ生の中継で、ずいぶんとファンを増やしました。もっとも最適なタイミングでリリースできたんだろうなと思います。

     第二巻の発売も来年の一月とすでに決定しているようで、『のうりん!』と同様に長期シリーズになることを願ってやみません。
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