北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
■ラーメン活動月報(6月)
□告知スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
『吉野家HDによる「せたが屋」買収の本質は何か?』山本剛志
6月27日、吉野家ホールディングスが「せたが屋」の買収を発表した。知名度のある飲食店同士の買収劇という事で衝撃は強く、ネットニュース界隈では大きな話題になっている。一方で、「せたが屋で吉野家の牛丼を売るの?」といった誤ったコメントもあった。まずは情報を整理したい。
大事なのは、「吉野家」ではなく「吉野家ホールディングス」の子会社になったという点。傘下の企業には「吉野家」の他、「はなまるうどん」の「はなまる」、「フォルクス」などの「アークミール」、「すし三崎丸」などの「京樽」、「一口茶屋」などの「グリーンズプラネット」があり、「せたが屋」はその一員に加わる事になる。
せたが屋社長の前島氏はFacebookで今回の件についてコメントしている(原文はこちら)。その中で「創業から15年間、緩やかながら右肩上がりの成長を続けてきたが、グローバル展開・ガバナンス強化・労務改善による従業員満足度上昇をテーマに、生き残れる強い会社にする為に選択した」と語っていた。一般的に、飲食店の中でもラーメン店は個人経営で始まるケースが多く、長時間勤務や残業代不払いなど、劣悪な労務環境が法基準を満たさないといった問題も時折起きている。海外進出や店舗展開の他に、せたが屋グループ全体を労務問題を起こさない組織にするというのも、子会社化を選んだ理由にあるのではないだろうか。健康管理や福利厚生などでメリットを享受できるという考えもあったかもしれない。一方で前島氏は、これまで築いてきたブランドイメージが崩れるような大量出店は考えていないとして、拒否権がある33.5%の株式を保有すると表明した。
吉野家ホールディングス側は、「せたが屋」で吉野家の牛丼を出すような、メニューに手を付けるような事は考えず、様々なジャンルの飲食店を傘下に置くことが、新しい価値創造を目指す同社の長期戦略とも合致しているとの事。これまで子会社化してきた会社とは異なるスタイルの飲食店である為、例えば食材のコスト管理や商品開発、新ブランドの立ち上げなどで、互いの考え方の衝突が起きないか、という危惧もある。
吉野家は2007年に「びっくりラーメン」で知られた「ラーメン一番」を子会社化しているが、これは経営に行き詰った「ラーメン一番」の民事再生法適用後に事業譲渡を受けたもので、2009年にはこの事業から撤退した。「好調なラーメン店を子会社化する」という点では、2014年に「つけめんTETSU」などを展開している株式会社YUNARIが、株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングスの100%子会社化になった流れに近い。一方で「せたが屋」は株式上で拒否権を残しているので、今後の展開には違いが出るかもしれない。
今後、大規模な飲食業者がラーメン店を子会社化する流れも増加するかもしれない。ラーメン市場は海外では大きな成長が見込め、国内でも大きな落ち込みはないと見込める。一方でラーメン作りに専念したい店主にとって、労務管理や事務作業に囚われたくないという思いもある。そういった分野に長けた企業がサポートしながら、ラーメン店としての魅力を磨いていく事が、ベストな相乗効果だと思える。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は4年ぶりに復活を果たした「らぁめんつけめん 粋や」の「鶏白湯らぁめん」を山路と山本が食べて、語ります。
「鶏白湯らぁめん」750円