ラーマガ限定「NAKED」#005
饗 くろ㐂『かけそば〜春の息吹〜』
実食インプレッション
麺とスープだけで美味いと唸る一杯。究極の「かけラーメン」に人気ラーメン店が毎月月替わりで挑戦する、ラーマガ限定「NAKED」。通算第5作目を提供するのは『饗 くろ㐂』。和食の料理人としても長年腕をふるってきた店主の黒木直人さんは、早春の情景を丼の中に表現しました。
今回スープに使用した素材は「天王寺蕪」。和食出身の黒木さんらしく、旬の蕪を牛の挽肉で取ったコンソメで炊いて「すりながし」の手法でとろっとしたスープに仕上げました。麺は牛蒡を練り混んだ麺と小松菜を練り混んだ超幅広麺の二種類。薬味の代わりに黒胡椒とピンクペッパーを散らしました。
蕪のスープが「雪」牛蒡麺が「土」小松菜麺が「新芽」黒胡椒が「種」ピンクペッパーが「実」と、雪が融けて春が始まる一瞬を丼に描き切りました。
北島秀一
一番最初に三人で「NAKED」のコンセプトを打ち合わせた時、実は個人的にはこの企画、早々にネタ切れするんではないかと密かに心配していた。スープの味付け、素材、清湯か白湯か。あとは麺の太さや形状を一通り回った時点で。いや、実際には単なる順列組み合わせ的に進められる訳もないので、ある程度の所でアイディアは終わる危惧を持っていた。
が、やはりプロの作り手は凄いと、毎回本当に驚かされる。バランスの妙味だったり、逆にそのバランスをぶっ壊したように見せかけて実は更に高次元な味に仕立てたり、素材を突き詰めてみたり……。その意味では、今回の一杯は、如何にも日本的な「四季」をテーマにしたストーリー性でまた新しい「NAKED」の魅力を開いてくれた。
これまでのNAKEDは、基本的には「麺とスープのシンプルな組み合わせをどこまで突き詰めるか」の方向性だった。が、この「春の息吹」は、麺・スープ・薬味」のレギュレーションの中で、どれだけの多彩な味わいや彩りを持たせるかがテーマだと思う。その為に、カブと牛コンソメと云う、一般的なラーメンではまず使われない組み合わせで一気に興味を惹かせ、そこに更に雪景色を見立てる事で複数の存在感を与える。また、二種類の麺を使う事で一気に「春の息吹」を表現してしまった。また原則として一種類のみの「薬味」にすら、味変の意味と彩りの存在感。全ての要素にいくつもの意味を持たせる事で、ある意味枯山水の庭を作り上げるかのように風景を描いてしまった。そしてもちろん味は斬新かつお見事。この発想や組み立て方は、まさに和食職人の真骨頂だと思う。
NAKEDを開始して思うのは、なまじっかラーメンの作り手の接触が多い我々だからこそ、逆にラーメンの限界をいつの間にか勝手に作り上げていたんじゃないかなとの反省だ。むろん、通常の営業には様々な制約があってそうそう極端な「遊び」は出来ないが、いざ機会があれば様々なアイディアを吹き出しそうなくらい持っている。そのような作り手が実はごろごろしていると云うのがだんだんと判ってきた。
山路力也
麺とスープだけでラーメンを表現する。簡単そうで難しいこのお題を、毎月人気ラーメン店主さんが華麗にクリアして下さる様を目の当たりにして、やはりラーメンの可能性は無限であるということを再認識してきたが、今月のくろ㐂の一杯もまた衝撃的なものだった。これまでの「NAKED」4作とはまったく異なるコンセプト。もちろんこれまでの作品を見たり食べた上で生まれた一杯であるのだが、そうだとしてもどんどんやれることが狭くなっていく中で、この一杯はお見事としか言いようがない。
上記ラーメンの説明にも書いたように、今回の一杯は春の情景を丼で表現したもの。これが実に美しく味わいも深い。蕪のすりながしは日本料理では定番と言っていいほどの料理だが、本来は和出汁と合わせるところを牛のコンソメにしたところがやはり一番のポイントであったかと思う。さらに牛油も浮かべることによって、日本料理寄りに仕上がりそうなものを一気にラーメンの側へと引き寄せた。おそらくこれは豚や鶏では駄目で、やはり牛特有の強い旨味が蕪と見事に調和するのだ。蕪はおろすことによって出汁を十分に含み、より蕪の旨味や甘みが開いていく。この塩梅はラーメンしかやって来なかった人にとってはちょっと難しい部分ではないかと思うし、これを軸に据えたところがくろ㐂らしさの表現となっている。
二種類の麺を使ったというのは正直ずるいし、麺というよりもワンタンじゃねーの?とも思うし、牛蒡麺と小松菜麺をそれぞれ土と新芽に準えるならば、ぶっちゃけ麺の形状は逆なんじゃない?とも思ったりするけれど(笑)、それ以前にこのコンセプトとすりながしの完成度の高さ、そして麺の旨さ、バランスの取り方に感動してしまって、そのあたりはどうでも良くなってしまった(苦笑)。毎回NAKEDは食べないと絶対に後悔する、と煽りまくっている気がするが、今回の一杯も絶対に食べておいた方が良い。NAKEDの新たなスタイルの礎になる一杯だ。
山本剛志
NAKEDは「麺とスープ、薬味だけ」という縛りがある限定ラーメンなので、それぞれの店のスタンスが感じられるのだが、今回の「くろ㐂」が出してきた「かけそば~春の息吹~」は、ご主人の和食修業経験を活かした味作りに驚かされた。
コンソメスープにすりおろしが入る事で表現された「雪」。「まずは麺を啜ってほしい」というお店からの依頼は、スープを敢えてかき混ぜずに出しているので、啜った麺でスープをかき混ぜる為。じんわりとした旨みを湛えたスープを「土」をイメージした固めの太麺が拾っていく。麺の間にある黒とピンクの胡椒が味わいを膨らます。麺を啜り終えたら、下から現れる緑の超幅広麺。というか、小松菜を練り込んだ緑色のシートは麺と呼ぶにはやや強引かもしれない。確かに、「麺は一種類」と限定している訳ではないので、「やられた」といった感じ。
玉子を乗せて「月見そば」と言ったりするように、和食には「見たての文化」がある。一杯の中から、徐々に春が近づいてくる様子を一杯の丼から立体的に見せる構成は「見立て」に加え「味立て」も感じられ、生命が芽吹く季節を感じさせるようになっている。くろ㐂の世界観を全力で麺とスープだけにぶつけてきた一杯、まだ寒さが続く季節だが、是非食べ逃さずに春を捕まえてほしい。
【NAKED #005】
饗 くろ㐂(東京都千代田区神田和泉町2-15)
「かけそば〜春の息吹〜」(900円)
一日10杯限定(月火木土18:00〜のみの販売)
販売期間:2月1日(土)〜27日(木)<25火,27木の2日限り>
(ラーマガ有料会員ではなくても注文が可能です)