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第31号 2013.3.26発行


「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、AKB48ブームから現代社会を掘り下げる(本当は新参ヲタの応援記!?)「今週のAKB48」、よしりんの愛用品を紹介していく「今週の一品」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)


■生放送告知


3/29(金)21:00~
「今を読み解く昔の話」よしりんに、きいてみよっ!#19



【今週のお知らせ】
※イラク戦争開戦当時、日本政府が取った対応は正しかったのか?当時、官房副長官であった安倍晋三は、どのような発言をしていたか?保守派言論人は何と言っていたか?そして10年経った今、イラクそして日米関係はどうなったのか?イラク戦争開戦から10年。今週の「ゴー宣」は、誰もが忘れてしまったイラク戦争を総括する!
※よしりんが辟易している、「ロリコン」というウザイ偏見に徹底反論!よしりん唯一の「妄想ガールフレンド」、そしてなんと!最近付き合っていた女性の存在まで明らかに!?また「真のヘンタイさん」を爆笑分析!「少年は○○」という名言まで飛び出した「今週のAKB48」をお見逃しなく!
※過去の名作を紹介する「よしりん漫画宝庫」!今週は「コロコロコミック」にて『おぼっちゃまくん』と同時連載されていた『いなか王兆作』を紹介する第3弾!それまでのよしりんギャグとは全く毛色の異なる、シュールで可笑しなギャグの世界へ…!!


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第34回「イラク戦争の総括をしない卑怯者たち」
2. 今週のAKB48・第27回「ロリコン偏見との闘い」
3. 茶魔ちゃま秘宝館・#005「文房具」
4. よしりん漫画宝庫・第31回「『いなか王兆作』③シュールなギャグの新境地!」
5. Q&Aコーナー
6. 今週のよしりん・第31回「よしりん企画、春の晩餐」
7. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
8. 読者から寄せられた感想・ご要望など
9. 編集後記




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第34回「イラク戦争の総括をしない卑怯者たち」

 イラク戦争開戦から、10年を迎えた。

 2003年3月20日(日本時間)、米英軍はフセイン政権下のバグダッドを爆撃。国連安保理決議も採択されず、国際法上の根拠を欠いた戦争であり、それを正当化するために米国は、イラクが大量破壊兵器を隠し持っており、その脅威を除去するためという大義を掲げた。

 当時の首相・小泉純一郎は開戦当日に談話を発表、「大量破壊兵器の拡散を防止することがわが国を含む国際社会全体の平和と安全にとって極めて重要である」大量破壊兵器問題の大義を挙げ、いち早くイラク戦争を支持した。

 そしてその時、外交評論家の岡崎久彦はこの首相談話を「近来にない快挙」「日本の将来のため感謝の念に堪えない」「敗戦後半世紀、二十一世紀を迎えて、初めて日本の将来に安定した希望を与える国家方針が、総理大臣の口から明確に打ち出された」と大絶賛した(産経新聞2003.3.25)。

 当時の内閣官房副長官が、安倍晋三である。安倍もイラク戦争を支持した内閣の一員として責任を負う立場にあった人物なのだ。
 2004年1月、安倍は岡崎久彦と『この国を守る決意』(扶桑社)という対談本を出しているが、その中でも安倍はこう明言している。

今回、米国のイラク攻撃を支持する理由として、私は二つ挙げました。一つは大量破壊兵器廃棄の結果を出さなければいけないということ。もう一つは日米の同盟関係の重要性を認識すべきだということです。事実、われわれは、東アジアに北朝鮮という脅威を抱えているわけです

 ついでに紹介しておくと、対談相手の岡崎はこんなことを言っている。
「まずサダム・フセインの呪縛を完全に解かなければなりませんが、これはアメリカ軍の力がなければ不可能です。
 現に、大量破壊兵器の隠し場所がわからない。日本ぐらいの大きさの国であっても、どこかの地下に隠されたものを見つけるには、何らかの情報提供がなければ無理です。何百人という人が知っているはずですが、裏切りの報復が怖いのか、密告がありません。この呪縛が解けるまで米軍は駐留しないと、戦争の目的自体が達成できません」


 当時わしは、イラク戦争は侵略戦争であるとして、断固反対を主張した。大量破壊兵器についても、開戦前から元国連大量破壊兵器査察団団長のスコット・リッターが否定していたことなどから、存在する可能性は極めて低いと考えていた。
 ところが当時、自称保守論壇・マスコミは諸手を挙げてイラク戦争を支持し、わしは猛烈なバッシングに晒された。特に「諸君!」「正論」の論壇誌は、この頃急速に目立ち始めた「ネット右翼」なるものにすり寄り、ネットに散らばるわしへの悪口雑言を寄せ集める記事まで載せた。


 だが、結局、大量破壊兵器はなかったのである!


 2004年10月、米政府調査団は報告書をまとめ、イラクに大量破壊兵器がなかったことを公式に認めた。岡崎のいう「密告」など、あるわけなかったのだ。
 開戦の大義に掲げた大量破壊兵器は存在しなかった。この戦争には大義がない、侵略戦争だったのである。

 ところがイラク戦争を支持した者で、その事実を認めた者はひとりもいなかった。ある者はぬけぬけと「これはイラクの民主化のための戦争だ」と戦争目的をすり替え、甚だしい者に至っては「戦争に、正義も大義もない」とまで居直ったのである。


 岡崎久彦はイラク戦争開戦半年前、2002年9月14日の産経新聞でこう語っている。これは相当イカれた発言なので、ゆっくり読んでほしい。

イラク攻撃に成功すると、世界情勢は全部変わる。何をもって成功かというと、イラクに民主主義的親米政権ができることだ。そこまでいくと、今度はパレスチナ問題も解決するかもしれない。民主主義勢力とイスラム宗教界の勢力が拮抗しているイランも、大きく影響され、イランの変化は中東全体が変わる契機になる。
 中東だけではない。北朝鮮は震え上がり、中国もおとなしくなる。台湾問題も、中国側が引っ込む形で解決する可能性がある。つまり、イラク攻撃が終わったところで9・11の真の結果が出てくる。成功の可能性は90%あると思う

 親米ポチの岡崎は、もはや誇大妄想の域に達しているのだが、これを「革新ホシュ」の論壇は信じていたのだ。


 そして、10%の失敗の可能性は、「反戦平和」の世論に押されて米国がイラク攻撃を躊躇した場合だとした上で、こう続けている。

世界全体が変わるかもしれないときに、国連決議がどうとか、テロ対策基本法が適用できるかどうかなど、お茶の間的議論をいっても始まらない。枝葉末節であり、日本国民の安全と繁栄を考えれば論ずるに値しない。デモクラシーやグローバリズムとかユニラテラリズム(一国主義)がうんぬんという問題ですらない。世界史的な『アメリカ帝国』ができようとしているのだ

 ここまでアメリカを崇拝する日本人がいるとは、滑稽と言うか、馬鹿と言って差し支えない。アメリカの召使いのような奴だが、今もこの馬鹿が産経新聞などに書いているし、安倍晋三とは懇意の人物なのだ。

 さらに、岡崎はこうも言っている。
ローマ帝国がブリタニアやゲルマニアなど辺境にローマ市民を兵隊として送り出していた時代こそ、人類が最も幸せだったといわれる『パックス・ロマーナ』(ローマによる平和)の時代だった。そして、『パックス・アメリカーナ』が実現したら、米国は世界の中で問題を起こす国があると、米市民の命を犠牲にしてもそれを押さえ込むだろう

 まったく、嘘をつけ!というたわごとだが、革新ホシュどもは信じていたのだ。

 そして、「日本は具体的に何をすればいいか」との問いにこう答えている。

日本にとって、米国のイラク攻撃支持は非常に率のいい賭けだ。米国は基本的に、だれの助けもいらない一国だけで何でもやれる国。だから、米国が必要とするのは精神的な支持であり、日本にいろんな制約があることは十分、承知している。堂々と米国支持をうちだし、日本がやれる範囲のことをやれば、それが最大の貢献になる


 要するに岡崎は、日本は精神的な支持さえ表明すれば、他には大したことをやらなくても、米国が全く新しい平和な世界秩序を作ってくれて、その勝ち馬に乗ることができる…という、とんでもない「お花畑」を夢見ていたのであり、だからこそ小泉のイラク戦争支持表明にあれだけ欣喜雀躍したのである。

 そして岡崎は開戦後に行った前掲の安倍晋三との対談本でも、「歴史は大きく変わりつつあります」と言い、現在は「パックス・ロマーナ」が形成されていく過程の時代と相似性があるなどと、つまりはこの「お花畑」の未来図と同じ話を開陳している。
 そして安倍は「(ローマに敗れた)カルタゴを強大なソビエト帝国とみれば、いまは社会主義に打ち勝った後の新たな国際秩序の構築の過程となるわけですね」とか言って、岡崎の妄想に同意していたのである。


 安倍はイラク戦争支持の第二の理由として、「北朝鮮の脅威」があるからと言っているが、これは要するに「イラク戦争を支持すれば、次に米国は北朝鮮の金正日体制を倒してくれる」という意味である。

 当時は自称保守の言論人・マスコミのほとんどがそう信じていたのだ。一例を挙げれば、イラク戦争真っ最中の2003年4月12日の産経新聞では、初代内閣安全保障室長・佐々淳行が「ブッシュ大統領の『悪の枢軸』のNO.1イラクのサダム・フセインが倒れたとなれば、次は核開発施設を再稼働し、NPT(核拡散防止条約)を一方的に脱退し、IAEA(国際原子力機関)査察団を国外追放し、ノドン百基で日本を狙って実戦配備し、テポドンを開発し、対艦ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮の番となることは必定である」
 と断言し、「ノドンの脅威を抑止してくれるのは日米同盟だけである」と同盟強化を力説している。

 今となっては「そんなバカな」と思うかもしれない。だがその渦中にあると、人はどんなにバカげたことでも信じたいものしか信じないのだ。わしがいくらそんなことはありえないと言っても、自称保守言論人は誰一人耳を貸さず、憎悪まで抱いてわしを攻撃してきたのだった。


 それから10年が経った。「パックス・アメリカーナ」はできたか?

 それどころか、米国はイラクに安定政権も作れないまま軍を撤退させるしかなかった。米軍の死者は約4500人。イラクの一般市民の死者は12万とも13万とも言われる。

 開戦前のイラクはフセイン独裁という「重し」によって民族・宗派間の対立が抑えられていたし、国際テロ組織などイラク国内には入れなかった。
 イラクの義務教育は無料で小学校の就学率は100%、小学3年から英語を学び、誰でも大学まで行けて、ユネスコに表彰されるほどの教育立国だった。
 女性差別の厳しい中東において女性の社会進出も進んでおり、女性の国会議員が2割に上っていた。フセインは「中東の優等生」と言われるほどの近代化推進者だったのである。

 ところがフセイン政権崩壊で「重し」がなくなるや、民族・宗派間対立が噴出。今も日常的に爆弾テロが起きて死傷者を出し続け、犠牲者は先月だけでも220人に上っている。
 政権は全く安定せず、治安の乱れに乗じ、国際テロ組織アルカーイダ系武装組織や犯罪集団が一挙に流入。イラクがテロ組織の温床になってしまった。

 イラクで独裁がベストだと思う者はいない。しかし今よりもフセイン政権下の方が、社会が安定していたことを否定する者もいない。
 さらに「テロとの戦い」を信条としていたはずが、テロ組織の活動の場を拡げてしまったのだから、マヌケとしか言いようがない。
 もちろんイラク一国すら手に負えなかった米国が「次は北朝鮮」となるわけもなく、逆に北朝鮮との「対話路線」を打ち出すようになり、結果的に北朝鮮の核開発の進行を黙認することになり、現在に至っている。