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第77号 2014.3.11発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、よしりんの心を揺さぶった“娯楽の数々”を紹介する「カルチャークラブ」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…国民は惰性で、権力の暴走を指をくわえて見守るだけの時代になってしまったが、果たしてそれで良いのか?中韓にとって有利な状況になってしまった歴史問題、戦後最悪といわれる日米関係、蜃気楼だったと気付かれつつあるアベノミクス、消費税増税、国際社会から「極右」と見られている安倍政権の現実を直視せよ!
※隠れた名作を紹介している「よしりん漫画宝庫」!編集部からの要請に従って描き始めてはみたものの、どうにも「腹の虫が収まらない」状態になり、結局は、予想もつかない方向に暴走!『突撃!!(偏)BOYS』が辿り着いた想像を絶する奇想天外な結末とは!?
※『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて、一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてくり!」。寒い日の温泉はたまらんもんがありましゅねえ…へみ?何を怒りよるとでしゅか、袋小路くん?いよいよMVPが決定ぶぁい!

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【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第78回「日米関係、歴史問題、消費税増税…どうなる安倍政権?」
2. しゃべらせてクリ!・第38回「おもらし注意と袋こぢんまりの温泉二人旅!の巻 ネタの鉄人特集編」
3. よしりん漫画宝庫・第62回「『突撃!!(偏)BOYS』②天才大暴走!東大講堂再び破壊!!」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第78回「日米関係、歴史問題、消費税増税…どうなる安倍政権?

 右翼・左翼のイデオロギーには関係なく、権力には懐疑の念を持ち、「王様は裸だ」と言ってしまう勇気を持つ表現者は必要なのだが、残念ながらそういうオピニオン・リーダーや表現者が若者の中から出現することがなくなった。
 その最も大きな原因はインターネットだろう。
 若手の知識人はインターネットこそが自分たちの文化であり、ネットさえあれば幸福だと言っている。
 20代の知識人が書いた「絶望の国の幸福な若者たち」という書名はまさに今どきの若者の性向を的確に表現している。
 だがネットは言葉を徹底的に劣化させる。
 大学生の40%は読書ゼロという統計もあるが、多分、新聞も読んでないし、ネットしか見てないのだ。

 経済的格差が拡大し過ぎ、将来の不安が大きすぎて、若者の中に「反権力」という文化も消滅した。
 日本で排外主義ナショナリストが支持する安倍首相が、ローリングストーンズを見に行き、田母神極右が若者の支持を得ているらしいから、もはや若者文化が育つ素地が失われている。
 国民は惰性で権力の暴走を、指をくわえて見守るだけの時代になってしまったが、この状況を警戒しておられるのは、もはや天皇陛下くらいかもしれない。
 最近の「おことば」で「憲法」に関して踏み込んで発言をされる、天皇皇后両陛下のご様子から、隙のない闘争心を感じる。
 尊皇なきナショナリズムが国民をどこに連れて行こうとしてるのか、我々は監視の目を緩めてはならない。

 鳴り物入りで始めたアベノミクスが蜃気楼だったと気付く国民も、じわじわ増えてきているのではないだろうか。公共投資がほんの一部に経済効果をもたらしただけで、膨大な借金を積み上げつつ、日本は昔のまんまの利権王国に戻りつつある。
 わしは「たとえ株価が上がっても、実体経済には影響せず、円安で物価が上がるが、一般庶民の賃金は上がらず、生活は一層苦しくなる」と言い続けてきたが、その通りの現状である。

 輸出から輸入を引いた貿易赤字は過去最大の11兆4745億円。貿易赤字が増えても経常収支がマイナスでなければ大丈夫なのだが、困ったことに経常収支も赤字に転じた。
 これはグローバリズムの構造的な問題なので、グローバリズムそのものを問題視しなければ解決の道がない。

 自民党や、田母神俊雄ら自称保守&ネトウヨ一派は、貿易赤字を原発停止による化石燃料の輸入増のせいにしようとしていたが、民主党がこの件を国会で追及し出して、ようやく嘘っぱちだと言う者も出てきた。
 化石燃料の輸入量は震災前よりも増加しているが、昨年はわずかながら減少に転じており、赤字が増加したのは円安のせい、つまりアベノミクスのせいなのだ。
 円安になれば回復すると期待されていた輸出が低水準に止まったのは、製造業が生産拠点の海外移転を進め、国内の産業が空洞化したためであり、今後いくら円安が進んでも輸出の増加には直結しない。

 株価も「異次元の金融緩和」によって、外国の投資家がマネーゲームで株を買い越しているが、国内の投資家は売り越している。
 アベノミクスの唯一の成長戦略と言っていたTPPは、交渉の閣僚会合が合意に至らず、次回の日程さえ決められないまま閉幕した。もっとも、TPPでグローバリズムがさらに加速されるような政策は悪夢だから、さっさと頓挫してしまった方が良いのだが。


 さらに安倍政権にとって最大の悪夢となっているのが、対米関係の悪化である。
 安倍晋三は首相就任当初、民主党政権時代に崩壊した日米同盟を蘇らせると高らかに宣言したが、今や日米関係は民主党時代どころではない「戦後最悪」とまでいわれる状態になってしまった。
 米政府が「失望した」なんて強い表現は、鳩山由紀夫にすら使ったことはないのだ。
 ところが日本のいわゆる「親米保守派」は、親米を自称していながら、アメリカがなぜ「失望」するのかが全然理解できない。
 最初のうちはパニック起こして、「失望」と言ったって大した失望ではない、それは翻訳がおかしいなどと、躍起になって過小評価しようとしていた。まるで駄々っ子のように現実を拒否していたのだ。

 米国はイラク戦争の失敗と深刻な財政難による軍事費削減のため、中東や東アジアに対する関与をなるべく控えたいと考えている。
 もちろん中国との衝突なんて米国は一切望んでいない。中国の台頭には、日・米・韓が緊密に連携して均衡を保つというのが米国の基本戦略なのだ。
 そのため、昨年12月にはバイデン副大統領が日中韓を歴訪。安倍首相との会談では日中の対立激化を防ぐため両国間でより効果的なコミュニケーションをとる必要があると述べ、さらに日韓の関係改善を促した。
 ところが、その直後に安倍は靖国を参拝したのだ。しかも参拝は見送るようにと米国から忠告されていたのを無視しての強行であり、米国政府は完全に面目を潰された。
 そりゃあ「失望した」と言って当然だ。

 靖国参拝によって中国が喜んだことは間違いない。中国の挑発行動が東アジアの緊張状態を作り出しているというのが国際常識となっていたのに、中国が「日本こそが緊張の原因だ」と主張できて、それがある程度説得力を持つようになったのだから。
 しかも、日本と韓国の亀裂が深まったために、韓国は中国・北朝鮮寄りに外交姿勢を変えようとしている。韓国の国柄である「事大主義」の面目躍如だ。
 金正恩体制が暴発して、北朝鮮軍が韓国へ軍事進攻することだってあり得るのに、一方の韓国に北朝鮮と戦争する覚悟があるとはとても思えない。