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■久瀬太一/8月2日/17時45分
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■久瀬太一/8月2日/17時45分

2014-08-02 17:45
    久瀬視点
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     オレは眉間に皴を寄せる。
    「話って、なんの?」
    「ありきたりな世間話だよ。君、聖夜協会のクリスマスパーティに参加したことは?」
     どうして、そんなことを聞きたがるんだろう?
     わからない。が、やっぱりオレは嘘が苦手だと、昨夜反省したところだ。オレは事実を答える。
    「あります。幼いころに、何度か」
    「その会場に、『少年』は何人いた?」
     少年?
    「それは、いくつくらいまでですか?」
    「当時の君と同い年くらいだよ」
    「たぶん、いなかったと思います」
     みさきとちえりの他には、同年代の子供には出会わなかった。高校生くらいなら、他にも何人かいたような気がするけれど。
     八千代がじっと、オレの顔を覗き込む。
    「本当に?」
    「はい。はっきりとは覚えていませんが」
    「いいねぇ」
     彼は嬉しそうに笑う。
    「君、今、いくつ?」
    「21ですよ」
    「じゃあ最後の質問だ。12年前――9歳の時にも、クリスマスパーティに参加したかな?」
    「いえ」
     オレがあのパーティに行っていたのは、幼稚園から、小学校の2年生――8歳のときまでだ。はっきりと覚えている。最後にあのパーティに参加したのが、母親が死んだ年だったから。
     八千代はあからさまに笑顔を引っ込めた。
    「そうかい」
     つまらなそうな口調。いったい、なんだっていうんだ。
    「12年前のパーティで、なにかあったんですか?」
    「いや。なんでもない」
     八千代はアイスオレを飲み干して、紙幣をコースターの下に挟んで席を立った。茶封筒はテーブルの上に置かれたままだ。
     彼はゆっくりとオレの隣に立ち、右肩に手を置く。
    「残念だけど、君はハズレみたいだ」
     直後、右肩に激痛が走った。――息が詰まる。咄嗟には声が出せない痛みだった。
     八千代は信じられない力でオレの肩をつかんだまま、耳元に口を寄せる。
    「推測だが、ほとんど確信しているよ。アカテから食事会の招待状を受け取ったのは、君の仲間だ」
     アカテ、というのが何者なのか、オレはまだ知らない。
     だがソルは今日の食事会に、「ドイル」という名前で潜入すると言っていた。ドイルは八千代だろう。ソルは八千代の代わりに、食事会に行こうとしている。そこまでは想像がつく。
     痛みの中で、ろくに回らない頭で、オレは口を開く。
    「白い星は、オレが持っている」
    「なんとなくそんな気がしていたよ。じゃあ、返してくれないかな」
     オレが持っている白い星は、おそらく八千代のものではない。でも彼はそこを、都合よく解釈してくれたようだった。
     ――こいつの意識を、ソルに向けちゃいけない。
     よくわからないが、そう思う。
     一瞬、右肩の痛みが引き、直後にさらに強い激痛が走った。
    「星はどこにある?」
     オレはどうにか答える。
    「手元にはない」
     嘘じゃない。ソルには、あの星は慎重に扱えといわれていた。
     だから八千代に会うのに持ってくるのは避けた。
     彼は首を傾げる。
    「そう。おかしいな。食事会はもうすぐだ。今から自宅まで取りに帰る時間もないだろう」
     それは質問ではなかった。
     八千代は屈み込み、痛みで身動きが取れないオレのポケットに手をつっこむ。そして、笑った。
    「なるほど」
     彼が指先でつまみだしたのは、コインロッカーのキーだった。
     番号が振られている。でも、それをみただけでは、どの駅のものかまではわからないはずだ。
    「程よい時間稼ぎだ。悪くない」
     八千代がそう言った直後、今度こそ痛みが引いた。
     激痛はオレに、急激な疲労を与えた。長い時間、歩き続けたあとのように、オレは疲れ切っていた。
    「名簿は置いていくよ。好きにしてくれていい」
     そう言って、八千代はオレに背を向ける。
     そのまま帰すわけには、いかなかった。
     オレは右手で、彼の腕をつかむ。――動かすと肩がずきんと痛んだ。
    「待てよ。鍵は置いていけ」
    「あの白い星はオレのものだよ。ただ返して貰うだけだ」
     八千代はへらへらと笑う。
    「それに、もうすぐパーティだからね。ちょっと急がないといけない」
     一瞬、彼の腕に力がこもった。
     強い力。オレは腕を引っ張り返す。
     ――その直後だった。
     視界が、ぐるんと回った。席に座っていたはずのオレは、気がつけば床に倒れ込み、天井を見上げていた。なにをされたのかもわからない。ただ八千代の腕を掴んでいる右手の手首が、ずきんと痛んだ。
    「へぇ。放さないんだ。なかなか根性があるねぇ」
     彼は空いている方の手で、オレの手首をつかむ。また、激痛が走る。直後、肩の辺りを蹴られた。彼の腕がオレの手から抜け落ちていた。
    「ま、今日のことはお互い、水に流そう。困ったことがあったら連絡しておいで。君も旅先に迷い込んでいるみたいだからね」
     そう言い残して、八千代は店を出た。

           ※

     立ち上がったオレは、痛む手首を押さえてカフェを飛び出す。
     だが、通りの左右を見回しても、八千代はいなかった。
     ――くそっ。
     奴はどこに行った? オレはどう行動すればいい?
     ついポケットの中の、ソルのスマートフォンを握りしめる。
    読者の反応

    光輝 @koukiwf 
    推測当たり。ロッカーの鍵取られたね


    KURAMOTO Itaru @a33_amimi 
    @mako_3dbell よくあるコインロッカーは鍵タグにロッカー名・駅名・番号が乗ってるのでヘタすると一発なのだけど… 


    空つぶ@3D小説bell参加中 @sora39ra 
    今までに出てた話だけで彼らのいる場所特定とか可能です?


    桃燈 @telnarn 
    久瀬君ははずれってどういうことだろうなぁ。確かに、我々の掴んだ招待状の情報と小2が最後という情報は矛盾する(小学校卒業等の話題から)。ひょっとして久瀬君、英雄になったときの記憶がないんじゃないか?みさきが悪魔のときの記憶がない、と言われたように。


    イノサンス・エヴェイユ【純潔の覚醒】 @A_hazuki 
    12年前に何があったか、が一番重要な謎な気がしてきましたね。そこで時間軸がずれたのかな? 





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