山本視点
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 それぞれ実家に帰る前にランチでもということで、数人の友人に会った帰りだった。
 私はよく利用する商店街のパン屋さんに立ち寄り、カレーパンとベーコンのフォカッチャを買った。夜は抜いて明日の朝食にするつもりだけれど、今日はランチが早かったため、夜にたべてしまうかもしれない。よくない。平均よりも少しだけ身長が高いから、体重も同じだけ上回ってしまうのだと言い訳してきたけれど、やはり理想ではもうちょっと落としたかった。
 商店街では相も変わらずクリスマスミュージックが繰り返されている。
 私はここから逃げ出したい気分になる。
 ――今夜のうちに、実家に帰ってしまおうかな。
 と少し考える。
 明日の予定はない。
 あの怪しげな「クリスマス懇親会」とやらには、やっぱり出るべきではないだろう。
 久瀬くんのことがあるせいで、なかなか「いかない」と決断できないでいるけれど、このまま返事を引き延ばせば自ずと不参加ということになりそうだ。
 それでいいのだ、と自分に言い聞かせる。
 ただ一通、彼のことを尋ねるメールだけは送ろう。
 それでいい。だって友人が同じ状況に巻き込まれていたなら、「そんなの行っちゃだめだよ」とアドバイスする。馬鹿なことは避けて通るべきだ。
 一方で、もし久瀬くんだったなら、ためらわずにクリスマス懇親会に参加するだろう、という予想も簡単についた。彼に関する記憶はほんの幼いころのもので、もちろん大学生になった今の私の判断基準にするのはおかしな話だけれど、彼に対する憧れのようなものは今も拭い去れない。だから未だに、いかないと決めてしまうこともできない。
 私は本質的に、とても臆病で優柔不断なのだと自覚しているけれど、でもほんの1パーセントか2パーセントだけ無謀なところがある。
 久瀬くんが私と同じ小学校に通っていたのは、たった4か月間のことだ。
 21年間の人生のうち、たったの63分の1だ。
 その63分の1の影響が、今も私の中に残り続けている。
 ――もしもその比率が、もう少し高かったなら。
 あのクリスマスに久瀬くんが事故に遭わなかったなら、私はまったく違っていただろう。
 私は本当は、そちらの私になりたかった。
 だからクリスマスは嫌いだ。

       ※

 と、そんなことをつらつらと考えながら歩いていた時だった。
 後ろからふいに、声をかけられた。
「すみません」
 私は足を止めて振り返る。
 そこに立っていたのは、眼鏡をかけた、ひょろりとした印象の青年だった。
「山本さんですね?」
 やばい、と感じた。
 この青年は、一昨日から起こっている、わけのわからない出来事の一部なのだと直観で理解した。どうしてみんな私の名前を知っているのだろう? 本当に止めて欲しい。
「違います」
 と私は答える。
 それから、返事をせずに逃げ出せばよかったと思った。
「いえ。貴女が山本さんだ」
「違うって言ってるでしょう」
 眼鏡はこちらの話なんてちっとも聞いていないようだった。
「悪いことはいわない。明日のクリスマス懇親会には、出るべきではありません」
「貴方、だれなんですか?」
「山本さんよりはセンセイに会うことを望んでいる者です。招待状をこちらに渡してください」
「招待状なんて知りません」
「そんなはずがない。必ず持っているはずです。さぁ、早く」
「知らないって言ってるでしょ」
 本当に、知らない。
 私が受け取ったのはメールだ。招待状じゃない。
 ――もしかしてこいつは、あのスマートフォンを渡せと言っているのだろうか?
 でも、それは。
「さっさと渡せ!」
 と眼鏡が叫ぶ。
「嫌」
 理性より先に感情で答えていた。
 なんだこいつ。気持ち悪い。
 でも、嫌だ。クリスマス懇親会なんてものに出るつもりはないけれど。
 あのスマートフォンも気持ち悪いけれど、唯一の久瀬くんへの手がかりだ。
 手放すつもりなんてない。

 私は眼鏡に背を向けて、走り出した。 
読者の反応

ボストーク@ソル(bell) @BocTok_SOL
変なのキターーー!


セトミ @setomi_tb
これホールじゃね!??眼鏡!!!


伊藤允彦 @gatuhiko
まとめwikiの「眼鏡の男」がホールなんですよね?
今回の更新の描写と共通してすね。
3dnovel.wiki.fc2.com/m/wiki/登場人物#megane





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