むかーし、昔のそのむかし。
年間100ステージ以上に出演し、多忙な日々を送っていた青春真っ盛りのミュージシャンが居た。
スポットライトに照らされて、ファンが集まる満員のステージに!
・・・なんてのは、ほんの数えるほど。
中には信じられない場所での演奏や、奇々怪々な現場も数多くあった。
この連載では、
その若かったミュージシャンが、30年以上経った今でも忘れられない、ある意味『伝説』となったステージの数々を紹介しよう!
記念すべき第一回目は、
■伝説のステージ No.001
『清涼飲料水メーカーとの契約で行ったキャンペーン!』の巻
その昔、カ●メ トマト&レモンという新しい缶ジュースの類が発売された。
「♪シャツのボタン 2つはずしただけで・・・」ってCMソングが結構流行ったので、 覚えている方もいる・・・かな?
この新製品のキャンペーンのひとつとして、我々がスーパーの前でライブをヤルって契約だった。
確か、新製品の説明を必ずMCで入れるというのが条件で、1日10万円位のギャラだったと記憶している。
プロのPAも来てくれたのだが、機材は超レトロ、ステージもスーパーの前にひな壇を置いただけの、お手軽なものだった。
マイクは昔、スパイダースだかタイガースだかが使った「本物」だと言われた。
ライブは最悪。なにせ買い物に来ているおばちゃん達が子連れで足早に行き交う場所。見たこともない若いにーちゃんの、聴いたこともない曲の演奏に興味を持つおばちゃんは、ほとんどいない。
それなら、それで練習だと思って勝手にやるから「いいや!」って、わけにも行かない。何故なら、天敵「ガキ」の皆さんがいるからだ。
彼らの必殺技は、後ろに周って死角から攻める変顔攻撃だ!
演奏している場合、大人は説明をしなくてもひな壇がステージであり、観客はステージの前側にのみいるべきという常識を持っている。
しかし、「ガキ」には、その常識はない。
しばらくはステージ前で不思議そうに観ている。
※1:近い。彼らはいとも簡単にパーソナルスペースに踏み込み、異様に近い距離で見上げて来る。
で、すぐに飽きて、必殺技を繰り出す。
後ろに周り込み、演奏に合わせて奇妙な踊りをし、観客にウケようものならすかさず変顔。
そこに仲間も加わわり「ガキ」の皆さんになったら、もう演奏どころではなくなる。
MCも天敵への対応で手一杯になり、新製品の説明を忘れてしまうなんて事が起こる。
「元気なクソガキの皆さん! ボクらの後ろには行かないで下さいね!」
「なんで?」「どうして?」の大合唱が湧き起こり、
「アイドルなの?」「テレビ出てるの?」と続き、「ガンダム歌って!」と来て、
「おじさんガンダーラ知ってる?」てな事を言われる頃には、心のシャッターを降ろして、無視できるようなる。
「こちとらまだ十代じゃい! 誰がおじさんじゃい!」という様に、取り乱す事は決して無い。
あくまで冷静に、優し~く応対する。これは仕事なのだ。10万円の仕事。
だ~か~ら~ ・・・ オレの後ろに周るんじゃない!
●参考
※2 カ●メ トマト&レモン:1980年に発売。CMには多岐川裕美を起用。
※3「ガンダム歌って!」:機動戦士ガンダム 1979年4月放映開始。
※4「おじさんガンダーラ知ってる?」:1979年に堺正章主演のドラマ「西遊記」が
大人気。最高視聴率27.4%を記録。主題歌のガンダーラが82万枚のヒットとなった。