太宰君とシンジ君
「太宰の小説の主人公はエヴァンゲリオンのシンジ君みたいで笑える」
みたいな話を聞いたことがある。
確かに太宰治作品の主人公はいつも人生に悩んでいて、それを大げさに表現する。
何しろ代表作のタイトルが「人間失格」だ。
久米田康治さんの「さよなら絶望先生」のあの感じは、明らかに太宰(的な)ものをキャラクターにしたのだろう。
久米田康治という漫画家の芸風は「クールな突っ込み」(冷たい笑い)なので、何でもすぐに絶望するおおげさな先生をギャグにして、当時の「エモい風潮」をからかっていたのだと思う。
「シンジ君の叫び」は「90年代の若者の叫び」で、女の子に相手にしてもらえない苦しみと、父親に認めてもらえない苦しみみたいなものがメインだったと思う。
シンジが大げさに叫ぶのは、10代の思春期にはありがちなことで、だからこそ当時の若者に支持されたのだろう。
ところが「太宰の苦しみ」はそれとはまったく違う。
【元祖、死にたい男】
太宰治の主人公の多くは、女にだらしがなく、酒や薬におぼれ、金もなく、基本的な生活力がない。そのくせインテリ臭が強く、フランス文学や左翼思想なんかを語る。キリスト教からの引用も多い。
そして「死にたい」を連呼しながら中々死ねない。
とはいえ。
御存知の通り太宰治は自殺でこの世を去っている。
彼の作品のほとんどが「太宰本人」の体験から書かれたもので、「東京八景」にあるように、太宰は1度女性と心中を試みて女性は死んで、本人は生き残った。
その後彼は多くの作品を書き、そのいくつかは世間に認められていたのだけど、最終的に別の女性と再び心中を試みて。この世を去った人だ。
もちろん自殺には発作的なものも多いだろうし、死んだから偉いというのも違うだろう。
【太宰治の苦しみとは何か?】
太宰治は青森の名家の生まれで、彼の実家は地元では「殿様」と言われるほどの存在だったらしい。
6男とはいえ、中原中也などと同様の「お坊ちゃま」だったわけだ。
作品を読んでいて感じるのは「太宰治は優しい」ということ。