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山田玲司のヤングサンデー 第306号 2020/9/7

まんが家おばけ

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藤本先生は人とうまくやれない人だったという。


僕はこの話が好きで様々な時に思い出す。

藤本先生は子供の頃から明らかに天才漫画家だったと思う。


でも人間関係は苦手で友達の多いタイプではなかったらしい。

そんな藤本先生は、小学生の時にたまたま知り合った「同じ漫画好き」の少年「安孫子素雄くん」とコンビを組んで漫画家になる。


その少年は後に「藤子不二雄A」となり、藤本先生は「藤子・F・不二雄」となる。



人嫌いで頑固なF先生に対して、A先生(安孫子素雄)は社交的で柔軟な性格なので、外交は基本的にA先生がやっていた。


A先生は初めからF先生の圧倒的な才能を認めていて、彼をリスペクトしつつ、「自分も頑張ろう」と思う、という人だった。


「まんが道」を読んでいると、A先生がF先生の漫画の才能に引っ張られて自らの才能を開花させていく様子がわかる。


一方で編集者 との打ち合わせの最中にブチ切れて帰ろうとするF先生の不器用さをフォローするA先生の様子も見える。


2人はそれぞれの問題をフォローし合う。

漫画家として互いをリスペクトしつつ、互いの短所を補う。


ありがちな「どっちが上」みたいな事で揉めたりしない。


F先生の漫画が基本的に「バディもの」(コンビが主人公)なのも、納得できる。


僕はこの関係が本当に好きで、多くの漫画家もこの関係にあこがれている。


漫画家は基本的に1人の仕事なので、辛い時も嬉しい時も1人だったりするからだ。



【F先生の冒険】


人とうまくやれずに「いつも1人」だったF先生に明るく社交的なA先生という友達ができた、という話はなんだか「まどかマギカ」みたいだ。


仕事に関しても高校卒業後に就職した地元の新聞社にすっかり馴染んで楽しく働くA先生に対して、F先生は3時間そこらで会社を辞めてしまう。


F先生は仕事を辞めて、1人で黙々と漫画を描く。

A先生はそんな彼がいたからこそ、新聞社の仕事を辞めて漫画家として生きるために上京するのだ。


そういうコンビの良さもいいけど、気になるのは「1人で生きていたF先生」の事だ。


社交的なA先生はすぐに外に遊びに行く。

F先生は基本的に家で1人ぼっちなのだ。

僕が想像するに、F先生は「空想の中」で遊ぶ人だったんじゃないかと思う。


人とうまくやれない少年は「漫画の世界で遊び」「漫画の世界を作る」ようになっていったのだろう。



「まんが道」は、あくまでA先生の目線で描かれているので、F先生の心境はわからないけど、F先生にとって「漫画を読むこと」は「冒険」だったのではないかと思う。


そんなF先生はものすごく「今の子供」に重なる。


F先生のように、人とうまくやれない子供が沢山いるからこそ、この作品は今も愛されているのだと思う。



【おばけのアパート】


そんなF先生(のび太)に現れた、一緒に遊んでくれる「変な友達」(ドラえもん)がA先生だったのだろう。


マクガイヤーなんかは当然知っていたけど、このA先生という人は中々に変わっている人だ。