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山田玲司のヤングサンデー 第307号 2020/9/14

卵の不安

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【自由な大人】


今回はヤンサン6周年という事で、僕のヒーロー「サルバドール・ダリ」の特集でした。


放送でも話した通り、納得できない管理教育にうんざりしていた10代の頃の僕は、とにかく「自由な大人」を探してました。


そんな日々の中で出会ったのが、ダリだったのです。


長過ぎるタイトルに挑発的なモチーフ。

それでいながらエレガントな雰囲気が満ちている。


所々に「不快感」を感じさせるようなモチーフも配置されているけど、画面全体はあくまで美しい。


一見でたらめで、何を伝えようとしているのかわからないのもいい。


ダリは断言しない。

インタビューでは断言調で語るダリだけど、同時に矛盾した事も「断言」している。

つまり、世界の本質は「A」であり「B」でもあるわけだ。


絵に関しても、色々言っているけど「正解」なんかはないのだ。

「観る人によって変わる」

それが絵画なのだ。


「君にはどう見えるかね?」


10代の僕は、ダリがそんな風に言っている気がした。



ダリは僕らを自分と同等な感性を持っている人間として見ている。

その無垢な信頼が愛しく思える。




【ダリが卵を描くのは?】


彼は「卵」を描き続けた画家だった。


「卵」とは何か?

孵化して羽ばたく鳥になれるかもしれないし、孵化することなく死んでいくかもしれない存在。それが「卵」だ。


卵のままでは自ら動くこともできないし、鳥の卵は「親に守られ、温めてもらう」事が孵化の条件だ。


そう。


この「他者の愛」が決めてしまう残酷な運命に置かれているのが「卵」なのだ。


乳児のまま死んだ兄の代わりに、その名を受け継いだダリは、画家として「孵化」する前に母親を失う。


彼は母親の代わりに自分を温めてくれる人を探したのだろう。


そしてそれが「ガラ」だったわけだ。




【漫画家の卵】


そんな「ダリの物語」を知ったのは、僕が美大に入った頃で「漫画家の卵」だった頃だった。


「卵の時期」は死ぬほど不安で、死ぬほど寒い。


僕が新人のクリエイターに優しくしたくなるのは、それを知っているからだ。


ダリは死体に群がる蟻を「死の象徴」として描いた。

彼の描く「卵に群がる蟻」というモチーフは「孵化しないままで死んでいく恐怖」を描いているのだと思う。


この恐怖はダリが巨匠になり、経済的に大成功した後も続く。


札束で埋め尽くされた棺桶に入ったダリは、そのままの状態で自分の口に卵を乗せ、それを割ると蟻が出てくる、というパフォーマンスをしている。


これは明らかにダリ自身の「心理療法」としての側面を持ったパフォーマンスだろう。


「孵化しない恐怖」は果てしなく彼を悩ませていたのだと思う。



【正直な大人】


そんな不安をガラが救ってくれる。

ダリはそう感じ、実際彼は「ガラの助力」によって大成功を収める。

「サルバドール」とは「救世主」という意味なのに、救世主は「ガラ」の方だったわけだ。


そんなガラが死んだ後、ダリは断筆宣言をする。