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2016年6月26日(日)の8:30〜12:30に愛媛大学教育学部で,科学イノベーション挑戦講座第2回を実施しました。生徒・児童18名が,バナナの香りの分子,酢酸イソペンチルの合成と匂いによる分類に挑戦しました。
1 バナナの香りの分子の合成に挑戦
加工食品のバナナ風味に使われる酢酸イソペンチルは,実験室ではイソペンチルアルコールと無水酢酸からつくることができます。生徒・児童は,リービッヒ冷却管,マントルヒーター,スライダックを使って,酢酸イソペンチルの合成に挑戦しました。
図1 加熱環流中です
マントルヒーターは,安全かつ素早く溶液を加熱できます。5分もしないうちに,溶液が蒸発していき,気体が冷却管で冷やされて,溶液にもどる「環流(かんりゅう)」が起こり始めました。この状態で20分,さらに冷却に20分かかりますので,この間に匂いによる分子の分類に挑戦しました。
2 分子の香りで分類しよう
匂いで分類したのは,以下の4つの分子です。
酪酸エチル 1−プロパノール 酢酸エチル バニリン
図2 4つの分子
1−プロパノールを除く,3つの分子は,いずれも加工食品に使われています。生徒・児童は,分子の構造から,どの分子の匂いが似ているかどうかについて予想しました。その後,それぞれの分子の匂いを実際にかいで分類しました。
※化合物の匂いをかぐときは,鼻から離して,あおいでかぐなどの注意が必要です。
酪酸エチルはパイナップルの香りの主成分,酢酸エチルはリンゴの香りの成分,そしてバニリンは,名前から連想されるようにバニラの香り,バニラエッセンスの主成分です。これらの分子を天然物から集めるためには大変な時間とコストが必要ですが,人工的に合成して,安価に大量に手に入るようになったので,私たちは普段の生活でもさまざまな香りに囲まれて暮らすことができるようになったのです。
3 バナナの香りの分子を取り出そう
いよいよ,合成した酢酸イソペンチルを取り出します。まず,水を加えて反応を止め,2層に分かれた溶液を分液ロートを使って,ふたつにわけました。
図3 水を加えて反応を止めよう
図4 分液ロートでふたつの液をわけよう
慎重な作業が必要な操作ですので,集中してふたつに分けます。
原料である無水酢酸1分子は水を加えると酢酸2分子になります。酢酸は水に溶けます。酢酸イソペンチルは水に溶ける分子に共通しているOH基(予習動画での赤い球と白い球)をもちませんので,水には溶けません。では,イソペンチルアルコールはどうでしょうか?
図5 イソペンチルアルコール
イソペンチルアルコールの特徴は以下の通りです。
(1)水と仲の良いエタノールやメタノールと同じようにOH基を持っています。
(2)水と仲が悪い炭化水素基(黒い球と白い球)も持っています。これらは油と同じように水に溶けない性質を持ちます。
イソペンチルアルコールが水に溶けるかどうかは,水と仲が良い方と仲が悪い方,どちらが強いかできまります。どうでしょうか? 水に溶けるでしょうか? それとも溶けないでしょうか?
分液ロートで酢酸イソペンチルの入っている有機層(上の層,画像では黄色になっています)を水洗いしてから,飽和重曹溶液で洗い(酢酸を中和しています),飽和食塩水で洗いました(上の層と下の層がきれに分かれるようにしています)。
取り出した酢酸イソペンチルの質量は,チームによってちがいましたが10 g程度です。
4 どのくらい化学反応は進んだのか?
今回は時間がなく,この内容については行っていませんが,ついでにご紹介しておきます。
この化学反応で理論的にとれると考えられる量はどれくらいでしょうか?
この化学反応では,イソペンチルアルコール1分子から酢酸イソペンチルが1分子得られます。つまり,イソペンチルアルコールと酢酸イソペンチルの1分子の質量と,イソペンチルアルコールの分子数がわかれば,酢酸イソペンチルがどれくらいとれるのかを予測することができます。
今回用いたイソペンチルアルコールは0.073(モル個)でした。同じ数の酢酸イソペンチルは9.5 gになります。すると,理論値に対して実験値(実際の結果)が,どのくらいの割合なのかを計算することができます。私の予備実験の値10.1 gを使いましょう。
{10.1 g(実験値) ÷ 9.5 g(理論値)}×100=ca. 106%
約106%!,つまり,理論的にとれる量より多くとれてしまいました。では,これは実験が失敗したと言うことでしょうか? そうではありません。酢酸イソペンチルの匂いがしていますから,酢酸イソペンチルがたくさんとれていることはまちがいありません。
では,なにが起こっているのでしょうか? どうすれば,それを確かめることができるでしょうか?
理論値通りに酢酸イソペンチルをつくることはできるでしょうか?
これを考えるのが科学研究です。科学研究とは未知を探究する手法です。それにはいろいろな方法があります。だからこそ,勉強が必要なのです。私たちが取り得る方法を知り,それを使って「未知」を「既知」に変える,これが科学研究のおもしろさです。
ちなみに,今回の分子の匂いではバニリンが一番人気でした。良い匂いですからね。
良い匂いがするなら,バニリンをつくれば良いと思われるかもしれません。しかし,バニリンをつくるのは結構大変なんです。自分の技能,知識,設備,予算で,できることと,できないことを考えるのも科学研究では大事です。
科学研究として考えるであれば,別の考え方もあります。今回の講座で考えた匂いは「だす」だけではなく,「けす」研究もされています。匂いを消すためには,どんな方法があるでしょうか?
科学研究の世界は無限に広がっていますね。
1 バナナの香りの分子の合成に挑戦
加工食品のバナナ風味に使われる酢酸イソペンチルは,実験室ではイソペンチルアルコールと無水酢酸からつくることができます。生徒・児童は,リービッヒ冷却管,マントルヒーター,スライダックを使って,酢酸イソペンチルの合成に挑戦しました。
図1 加熱環流中です
マントルヒーターは,安全かつ素早く溶液を加熱できます。5分もしないうちに,溶液が蒸発していき,気体が冷却管で冷やされて,溶液にもどる「環流(かんりゅう)」が起こり始めました。この状態で20分,さらに冷却に20分かかりますので,この間に匂いによる分子の分類に挑戦しました。
2 分子の香りで分類しよう
匂いで分類したのは,以下の4つの分子です。
酪酸エチル 1−プロパノール 酢酸エチル バニリン
図2 4つの分子
1−プロパノールを除く,3つの分子は,いずれも加工食品に使われています。生徒・児童は,分子の構造から,どの分子の匂いが似ているかどうかについて予想しました。その後,それぞれの分子の匂いを実際にかいで分類しました。
※化合物の匂いをかぐときは,鼻から離して,あおいでかぐなどの注意が必要です。
酪酸エチルはパイナップルの香りの主成分,酢酸エチルはリンゴの香りの成分,そしてバニリンは,名前から連想されるようにバニラの香り,バニラエッセンスの主成分です。これらの分子を天然物から集めるためには大変な時間とコストが必要ですが,人工的に合成して,安価に大量に手に入るようになったので,私たちは普段の生活でもさまざまな香りに囲まれて暮らすことができるようになったのです。
3 バナナの香りの分子を取り出そう
いよいよ,合成した酢酸イソペンチルを取り出します。まず,水を加えて反応を止め,2層に分かれた溶液を分液ロートを使って,ふたつにわけました。
図3 水を加えて反応を止めよう
図4 分液ロートでふたつの液をわけよう
慎重な作業が必要な操作ですので,集中してふたつに分けます。
原料である無水酢酸1分子は水を加えると酢酸2分子になります。酢酸は水に溶けます。酢酸イソペンチルは水に溶ける分子に共通しているOH基(予習動画での赤い球と白い球)をもちませんので,水には溶けません。では,イソペンチルアルコールはどうでしょうか?
図5 イソペンチルアルコール
イソペンチルアルコールの特徴は以下の通りです。
(1)水と仲の良いエタノールやメタノールと同じようにOH基を持っています。
(2)水と仲が悪い炭化水素基(黒い球と白い球)も持っています。これらは油と同じように水に溶けない性質を持ちます。
イソペンチルアルコールが水に溶けるかどうかは,水と仲が良い方と仲が悪い方,どちらが強いかできまります。どうでしょうか? 水に溶けるでしょうか? それとも溶けないでしょうか?
分液ロートで酢酸イソペンチルの入っている有機層(上の層,画像では黄色になっています)を水洗いしてから,飽和重曹溶液で洗い(酢酸を中和しています),飽和食塩水で洗いました(上の層と下の層がきれに分かれるようにしています)。
取り出した酢酸イソペンチルの質量は,チームによってちがいましたが10 g程度です。
4 どのくらい化学反応は進んだのか?
今回は時間がなく,この内容については行っていませんが,ついでにご紹介しておきます。
この化学反応で理論的にとれると考えられる量はどれくらいでしょうか?
この化学反応では,イソペンチルアルコール1分子から酢酸イソペンチルが1分子得られます。つまり,イソペンチルアルコールと酢酸イソペンチルの1分子の質量と,イソペンチルアルコールの分子数がわかれば,酢酸イソペンチルがどれくらいとれるのかを予測することができます。
今回用いたイソペンチルアルコールは0.073(モル個)でした。同じ数の酢酸イソペンチルは9.5 gになります。すると,理論値に対して実験値(実際の結果)が,どのくらいの割合なのかを計算することができます。私の予備実験の値10.1 gを使いましょう。
{10.1 g(実験値) ÷ 9.5 g(理論値)}×100=ca. 106%
約106%!,つまり,理論的にとれる量より多くとれてしまいました。では,これは実験が失敗したと言うことでしょうか? そうではありません。酢酸イソペンチルの匂いがしていますから,酢酸イソペンチルがたくさんとれていることはまちがいありません。
では,なにが起こっているのでしょうか? どうすれば,それを確かめることができるでしょうか?
理論値通りに酢酸イソペンチルをつくることはできるでしょうか?
これを考えるのが科学研究です。科学研究とは未知を探究する手法です。それにはいろいろな方法があります。だからこそ,勉強が必要なのです。私たちが取り得る方法を知り,それを使って「未知」を「既知」に変える,これが科学研究のおもしろさです。
ちなみに,今回の分子の匂いではバニリンが一番人気でした。良い匂いですからね。
良い匂いがするなら,バニリンをつくれば良いと思われるかもしれません。しかし,バニリンをつくるのは結構大変なんです。自分の技能,知識,設備,予算で,できることと,できないことを考えるのも科学研究では大事です。
科学研究として考えるであれば,別の考え方もあります。今回の講座で考えた匂いは「だす」だけではなく,「けす」研究もされています。匂いを消すためには,どんな方法があるでしょうか?
科学研究の世界は無限に広がっていますね。