今回の講座では,分子模型とコンピューターケミストリーをつかって,分子を具体的にイメージできるようになることが目標です。
図1 自作できる分子模型
分子模型は,私の研究室で前々から研究している安くて大量に買えて色がついているボールを利用する予定です。よく使われている発泡スチロール球より使いやすいと思います。この研究を進めたいと思っているのですが,なぜか学生が卒業研究テーマに選ばないのです。良いテーマだと思うのですがね。関連論文の方が先に出てしまいました。
関連論文:Journal of Chemical Education
タイトル:Using Latex Balls and Acrylic Resin Plates To Investigate the Stacking Arrangement and Packing Efficiency of Metal Crystals
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ed5006954
図2 関連論文で発表したモデル
コンピューターケミストリーとしては,wavefunction社のiアプリ,waterを利用する予定です。iアプリは費用も安く,学校現場でも使いやすいと思います。
原子や分子は「目に見えない」からむずかしいという話を耳にします。たしかに,原子や分子はとても小さくて「目で見えません」ね。しかし,「目に見えない」からむずかしいのでしょうか?
別の仮定で考えてみましょうか。みなさんは,地球の絵を描くことができますか?
そう,たいていの人は,球を描いて,つぎにそれぞれの大陸を描くことでしょう。しかし,それは「目で見た」ものなのですか?
図3 地球は球体だと誰もが思っていますが…
地球を自分の目で見た人は,ほとんどいないでしょう(絶対にいないと断言しないのは可能性を否定しない科学者の考え方です)。しかし,みなさんは「地球は球体である」と思っていますし,絵に描くこともできます。画像を見たことがあるから? 映像で見た? そうでしょう。そうでしょう。
さて,ここからが本番です。みなさんは『原子や分子の画像や映像』も見たことがあると思います。どうして地球は「わかる」と思うのに,原子や分子は「わからない」と思うのでしょうか?
どちらも目で見たことはありません。どうして「地球」はイメージできるのに,「分子」はイメージできないのでしょうか?
図4 なぜか「分子がわからない」の代表にされてしまうベンゼン
そうじゃない,地球は「一部でも見えている」からわかる? そうでしょう。そうでしょう。みなさんは,物質の色や固さという形で,分子の「一部分」を毎日目にしています。どうして「地球」はイメージできるのに,「分子」はイメージできないのでしょうか?
図5 植物の葉の色はクロロフィルという分子によるものです(写真ACより)
つまり,すべて「思いこみ」なのです。あたまの中に,分子を「イメージ」できるかどうかのちがいです。みなさんが,あたまの中で地球を自転させつつ,太陽の周りを公転させるイメージを描くように,化学者はあたまの中で,分子を動かしたり,分解したり,合成したりします。そして,物質の性質がどう変わるのかを予想します。やっていることはおなじです。化学で必要とされるのは,分子を地球のように身近な存在としてイメージすることなのです。
図6 植物の葉にふくまれていて光合成につかわれるクロロフィルa
ほんとうに原子は見えるの?という点について,もう少し知りたい人は以下の動画を見てみましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=oSCX78-8-q0
IBMが走査型トンネル顕微鏡でつくった,原子を動かしてつくったアニメです。表面解析で,原子の観察をしたことがある研究者から見たら,よくこんな大変なチャレンジをしたなと思うでしょうね。
講座を通して,科学のおもしろさ,不思議さを感じて貰えればと思います。
コメント
コメントを書く地球の画像はNASAのサイトから引用しています。引用元の表記を忘れていましたので,こちらで追加しました。渓流の画像は写真ACというサイトから引用しています。