このプログラムで学ぶことは,あなたの生活とかけはなれたムズカシイことではありません。2017年8月24日現在,病原性大腸菌の話題がニュースでも流れていますので,とてもホットな話題ですね。
課題1 (有効回答数50)
食品の安全を守る,長く食品を食べることのできる方法は,なにがありますか?
※条件がありましたね。冷蔵・冷凍技術をのぞく。1970年代以前。
回答を以下に示します。もっとも多かった回答は乾燥させることでした。つぎに多かったのは塩漬けやつけ物です。
図1 課題1の回答
以下にいくつかの回答を紹介します。
1 乾燥(回答数27)
- 食品を太陽の下で乾かすことによって、食品の中の水分がほとんど抜けていく。細菌は水の中で増えるため、水分がなければ腐りにくく出来る効果があるから。例えば魚の干物など。
- 水分を減らして、食べ物の品質を守り、長持ちさせる。水は温度の影響を受けやすい。温度が上がると食べ物がいたむので、水分を減らしてまもる。また干すことにより軽く小さくなるので保存や移動が簡単にできる。例えば、切り干し大根、高野豆腐、干し椎茸、干し柿、レーズン、魚、カップラーメンなど。
- 乾燥により、微生物が生きていくのに必要な水分を食品から取り 除く。そのことによって微生物が生きられない環境を作り出す。 天日干しをした干物や干し野菜などが挙げられる。
- 食べ物を塩漬けにすると、腐らないのは、浸透圧の差を利用して食品の中の自由水を脱水して、水分活性を下げているため。雑菌が食品に入ってきたら、浸透圧現象により雑菌の体内の水分を奪って死滅させてしまったり、繁殖の速度をものすごく遅くさせたりする。
- 腐敗しやすい肉や魚介類、野菜等を塩分濃度の高い状態におくことで、細菌を繁殖させにくくし保存する手段。魚介類では塩辛、野菜類では漬物の一種とされる。塩漬けが長期保存できるのは、食品に含まれる水分(自由水/食品中の成分と結合しない水分で、微生物が生育のため利用するもの)を奪い、水分活性を下げるから。
- 塩は水分を吸い取るので、寄生虫からも水分を奪うことになるので、寄生虫が生きていける環境を崩して長く保存できるようにした。
- 納豆やヨーグルトは発酵させていて、他の食品も漬け物を作るときの糠に入れると長く保存することが出来る。
- 発酵させることにより、発酵菌で満たされ、雑菌が繁殖しづらい環境を作る。
4 缶詰(回答数6)
- 製造段階で缶の中に入れた上で密封し、加熱殺菌によって中を無菌状態にしている。そのため微生物がいない。缶詰の缶が腐食するなどして空気が入らない限り、ずっと腐らないと考えられる。
5 井戸水や地下貯蔵庫(回答数4)
- ぼくの、祖父母に聞きました。昔は、井戸水が冷たかったので、野菜などは井戸水で洗っていたそうです。風にあてると腐りにくかったので、食べ物を軒下につるして冷やしていたそうです。 食品の安全を守るために、一番は、使う量だけ買ってすぐ食べることが大切で、「くさらせないようにすること」と教わりました。
- 温度変化の小さい地中の特性をいかし、野菜を保存するなど、食品の貯蔵に地中の空間が使われていた。地中は熱の影響を受けにくく、一年中17〜18℃に保たれている。
6 その他(回答数3)
- カツオには寄生虫が潜んでいることがあり、食中毒を起こす原因となった。寄生虫は身の奥には入り込まないので、表面だけを炙って、寄生虫を焼き殺し食中毒を防いだ。
- 高温にすると細菌は死んでしまう。例えば牛乳の場合は130度で2秒間殺菌している。
- 昔、祖父母は正月にたくさん作ったもちを水をはった容器に入れ、水中保存したそうだ。また、フランスでは、バターベルという陶器の容器にバターを水中保存している。水は、腐らないように頻繁に(少なくとも3日に1回)変え、容器は直射日光の当たらない涼しい場所に置く。酸素に触れず密閉状態を保つので傷みにくい。
みなさん,バリエーションに富んだ多様な内容で,全部ご紹介できないのが残念です。いくつか気になった点についてかんがえてみましょう。
A 乾燥は風味や食感が変わってしまう。
乾燥させた食品は,乾物,干物などとよばれていて,スーパーに行けばコーナーがあるくらい有名な長く安全に食べることのできる方法ですね。でも,たとえば柿と干し柿では,風味も食感もまるでちがいます。柿は好きだけど,干し柿は……という人も,逆のヒトもいるでしょう。乾燥させることは,食品を長く食べることができるようにしてくれますが,影響も大きいですね。
B 漬け物はくさらない?
漬け物は,長く安全を守るために開発された科学技術です。でも,最近の漬け物はくさることもあるのです。
なぜなのでしょうか?
そう。そういったギモンが重要です。漬け物は多くの場合,塩につけて作られます。昔は,これをそのまま食べていたのですが,非常に塩っ辛い上に,塩分のとりすぎが健康に悪いことがわかってきました。そこで,塩分を下げて健康に良い漬け物を作るようになったのです。減塩というヤツですね。
食塩をつかったのは,食品の安全を守るためだったのに,その食塩の量をへらしたのです。つまり,漬け物への私たちのかんがえが,食品の安全を守る科学技術から,おいしさを求める食品に変わったのです。しょっぱくない漬け物には食品の安全を守る役割はなくなってしまいました。健康と食品の安全,ふたつのバランスはどうするべきなのでしょうか。ムズカシイ問題ですね。
C くさると発酵のちがいは?
食品を発酵させると,くさりにくくなりますね。たとえばチーズがそうです。
では,「くさる」と「発酵」は,どうちがうのでしょうか?
くさるのは,食品を微生物が食べてしまうことによっておこります。たとえば,青カビがパンを食べるとパンに,青カビが生えます。
発酵は,食品を微生物が食べてしまうことによっておこります。たとえば,チーズを作るときに青カビで発酵を進めると,ブルーチーズになります。
おや? ふたつはどうちがうのでしょうか?
そうです。パンに青カビが生えることと,チーズを青カビで発酵してブルーチーズを作ることはまったくおなじです。ついでに言えば,カビとイースト菌はおなじ分類なので,カビが生えるのと,パン生地をふくらませるのもおなじことです。
じつは,くさることと,発酵することにちがいはありません。微生物が食品を食べたあと,私たちにとって良い効果があるときを発酵とよび,悪い効果があるときをくさるとよんでいるだけなのです。つまり,食品を発酵させると言うことは,別の微生物に食品を食べさせて,他の微生物が食べられないようにする方法なのです。早食い競争ということですね。
D 真空パックは大丈夫?
真空パックという答えがいくつかありました。まず,条件の確認が必要ですね。真空パックがつかわれるようになったのは,1970年代より前なのかを調べなければなりません。それは,あなたにおまかせするとして,いまは真空パックなら大丈夫なのかをかんがえてみましょう。
日本では,1984年に真空パックされた「からし蓮根」によるボツリヌス菌中毒事件がおこっています。くわしい内容は参考URLを見てください。
参考URL:からしれんこんによるボツリヌス中毒事件の概要
http://idsc.nih.go.jp/iasr/CD-ROM/records/05/05702.htm
この事件によって,真空パックの安全性は高められました。条件をもう一度確認しましょう。1970年代より前の方法として真空パックはふさわしいでしょうか。課題は,あなたが自分の力をのばすために行うものです。良くしらべて,かんがえることが重要です。
少数ですが,興味深い回答をとりあげてみましょう。
E パスツールによる低温殺菌の開発
回答:『高温にすると細菌は死んでしまう。例えば牛乳の場合は130度で2秒間殺菌している。』
解説:牛乳の殺菌方法ですね。これは超高温殺菌とよばれる方法です。これ以外にもいくつか方法がありますので,あなたも調べてほしいのですが,科学の歴史として取り上げておきたいのは,パスチャライゼーションとよばれる方法です。
これを開発したのはルイ・パスツール(フランスの生化学者)です。パスチャライゼーションは,微生物を害のない程度にまで減少させることを目的とした方法で,風味を変えずに,菌をへらすことができます。パスツール先生が,この方法を開発したのは,ワインがくさって酸っぱくなってしまう課題の解決をワイン業界(フランスと言えばワインです)からたのまれたからです。私たちの暮らしと科学技術の関係を学ぶとき,パスツール先生の業績は欠かすことはできませんね。
F 昔の人の知恵
回答:『昔、祖父母は正月にたくさん作ったもちを水をはった容器に入れ、水中保存したそうだ。また、フランスでは、バターベルという陶器の容器にバターを水中保存している。水は、腐らないように頻繁に(少なくとも3日に1回)変え、容器は直射日光の当たらない涼しい場所に置く。酸素に触れず密閉状態を保つので傷みにくい。』
解説:冷蔵庫が当たり前になる前の時代,食品の安全を守るのは,とてもムズカシイことでした。いろいろな工夫もありますが,一番大事なことは「くさる前に食べる」ことだったというお話はとても大事ですね。生まれたときから便利な生活をしていると感じませんが,私たちの生活のあらゆるところに科学技術があり,プログラミングや医療もふくめて,それらによって,私たちの生活は支えられているのです。
さいごに
人間は,パンやチーズ,ヨーグルトをつくったり,清酒,ミソ,しょう油など微生物を利用して,食の安全を守ってきました。この課題は,あなたが学ぶことは,決して生活とかけはなれたムズカシイことではないことを学ぶためのものでした。
あなたがふだん目にしていることにこそ,ナゾはあります。しかし,多くの人は,そのナゾに気づくことはありません。課題を「やらされる」のではなく,課題をとおして「学ぶ」ことで,広く興味関心をもつことが,ナゾに気づくために必要です。
約束を守ろう!
前回も今回も,課題には条件があります。条件をキチンと守りましょう。課題は「答えれば良い」わけではありません。学びをあなたの生活を結びつけてかんがえ,より良く理解するために行っています。課題の動画はなんどでも見直すことができますし,動画を止めて条件を書き写すこともできます。