アゴラチャンネル、第030号をお届けします。
配信が遅れまして申し訳ございません。

コンテンツ

・ニコ生「アゴラチャンネル」第二回放送「リフレの損、引き受けるのは賃金下がる私たち」池田・小幡対談

・ゲーム産業の興亡(40)
なぜ日本の家庭用ゲームは高いのか―中古をめぐる裁判

・『財政破綻でもうける方法〜外資系金融の終わり〜エピローグ対談』
藤沢数希氏×池田信夫
最終章 民主主義の限界(その2)


アゴラは一般からも広く投稿を募集しています。多くの一般投稿者が、毎日のように原稿を送ってきています。掲載される原稿も多くなってきました。当サイト掲載後なら、ご自身のブログなどとの二重投稿もかまいません。投稿希望の方は、テキストファイルを添付し、システム管理者まで電子メールでお送りください。ユニークで鋭い視点の原稿をお待ちしています http://bit.ly/za3N4I

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・ニコ生「アゴラチャンネル」第二回放送「リフレの損、引き受けるのは賃金下がる私たち」池田・小幡対談

アゴラは毎週金曜日夜9時から、ニコ生に開設したアゴラチャンネルhttp://ch.nicovideo.jp/agora で映像番組を提供し、読者の皆さまと新しい形のコミュニケーションを作り出していきます。生放送の第2回目は2月16日、慶応ビジネススクールの小幡績准教授とアゴラ研究所の池田信夫所長の対談「アベノミクスで日本はどこへ?」が行われました。

この対談は加筆の上、アゴラブックスから電子出版として出版される予定です。

池田信夫氏による報告記事『日経平均の根拠なき熱狂』http://agora-web.jp/archives/1519381.html
小幡績氏の紹介を兼ねた記事『【告知】アゴラチャンネル2月15日、池田信夫・小幡績(慶大准教授)対談--アベノミクスで日本はどこへ』http://agora-web.jp/archives/1519158.html

金融政策でデフレを克服し、財政支出を増やして、インフレを誘導する政策「アベノミクス」。小幡、池田両氏は、その批判の急先鋒でネット上で批判の集中砲火を受けています。小幡氏は『リフレはやばい』(ディスカバー携書)http://www.amazon.co.jp/dp/4799312936/ref=cm_sw_r_tw_dp_xqcirb1P3FWDRを出版したばかりです。

そうした批判の論拠は「株価が上昇し、景況感も変っている。現実を見れば、あなたたちの意見は間違いではないか」というもの。2人はどう答えるのでしょうか。

■生活感覚の正しさ−物価上昇の直撃

「目先は景気はいいでしょうね。ビジネスを支える態度の乏しいように見えた民主党の退場と、財政出動の期待、そして円安ですから。一部の輸出企業はもうかるでしょう」。小幡氏は述べました。しかし、それが日本経済を持続してよくするとは思えないと言います。

小幡氏は最近、一番印象に残った経済ニュースは、意外にも何かと批判の多い朝のワイドショーの情報だったと言います。「生活感覚は正しい。夜の情報番組やニュースよりも、事実を伝えていた」(小幡氏)。ある番組で、東京の商店街で「アベノミクスで良い事ありましたか」というリポーターの質問に大半の人は「関係ない」と答えていた。今のところ客足も給料も変りません。ところがパン屋の人は「円安で小麦が値上がりするので困る」と述べていました。

小幡氏が情報交換するマーケット関係者も冷静と言います。「日本経済がよくなると信じている人はいないが、トレンドについていこうとする人が大半。逆に、長期的な日本国債のリスクに注目する人が増えていた」。

日経225を構成するのは大企業だ。円安で業績はよくなるだろうが、普通の成熟国は通貨高を歓迎する。国の力が世界でそれだけ強くなる事だから。けれど日本は円安で景気がよくなると過去の経験で錯覚している。産業構造も、輸出企業主導の経済から変化している。輸入物価上昇はコストに響いてくる」。

問題は賃金だ、と言います。池田氏は一つのグラフを出します(図表)。日本は名目賃金が95年以降、2010年まで1割減少。一方で、米国はこの減少が物価の下落、デフレをもたらしました。賃金はどの国でも下方硬直性を持っています。日本が例外なのは、若年労働者を非正規雇用で雇う一方で、中高年の雇用を守る代わりに、賃下げを行う、従業員共同体を守る労働慣行にあると言います。

小幡氏は同意し、インフレは事実上、名目賃金を下げる効果がある、と言います。「生活の中で賃金が切り下がるのに、賃金は途上国との生産競争で上がりづらい。そして、日本はそもそも賃金水準が、20年前のバブル経済以来、高止まりしていた。リフレの生活へのリスクを考えて経済政策を考えてほしい」と指摘しました。

■安売り競争―−今までのやり方を繰り返すな

アベノミクスとリフレを行い、円を切り下げ、賃金を安くしても、結局は、モノ作り競争に巻き込まれかねません。これは今までの日本企業の取り組みを繰り返す「いつか来た道」で、賃金面で途上国にかなうわけもない。小幡氏は語ります。「日本は今までのやり方に固執してはいけない。難しい道ではあるが発想を変えて、世界との分業の中で、高付加価値な商品、サービスを提供していくしかない」。

日本経済の未来、そしてマーケットでの対処法までを語り合った、2人の経済論客の議論の詳細は、近日出版されます。またアゴラチャンネルは毎週金曜日午後9時から、さまざまな論客、ニュースを、ニコ生を通じて配信していきます。

言論プラットホーム・アゴラは他のポータルサイトの転載を含めると月500万ページビューの閲覧があり、新しい形のウェブメディアとして成長しつつあります。今後はその存在感を活かしながら、読者の皆さまとともに映像という新機軸にチャレンジしていきたいと考えています。

(アゴラ編集部)



特別寄稿:

新 清士
ゲーム・ジャーナリスト

ゲーム産業の興亡(40)
なぜ日本の家庭用ゲームは高いのか―中古をめぐる裁判

中古問題をめぐる対立は、この後、激しくなる。96年、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、プレイステーションのソフトウェアに対して、小売店に販売価格を強制したことで、公正取引委員会が、独占禁止法違反に抵触するのではないかという検討を行い始めたのだ。決められた販売価格以外の価格をつけて販売する以外を認めず、中古販売を禁止する行為が、該当するのではと指摘された。


■中古合法化に向けた裁判のゲームシ販売店側の逆転勝訴

しかし、97年にはSCEは小売店に圧力をかけることをやめなった。

98年に入ると、96年にゲームソフト業界の企業によって作られた業界団体CESA(コンピュータエンターテインメント協会、東京ゲームショウは同協会によって開催されている)、デジタル著作物の権利を保護、著作権の普及活動、情報モラルの普及を目的としたコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)などが中心になり、「違法中古ゲームソフト撲滅キャンペーン」を開始。「ゲームソフトは著作権法上の映画の著作物であり、中古品売買は同法第26条の頒布権を侵害する違法行為である」と発表、ゲームショップ側とは決定的な対立が引き起こされた。

さらに、98年に、カプコン、コナミ、スクウェア(現在のスクウェア…エニックス)、ナムコ(現在のバンダイナムコゲームズ)、SCEは、ゲームショップと家電量販店を著作権法違反として、東京地裁に提訴。ゲームショップ側も大阪地裁に逆提訴を行ったものの、ゲームショップに対しての強い影響力を持っている家庭用ゲーム機企業が立場的にも強いため、勝利すると考えられていた。実際に、地方裁判の判決はゲーム会社側が勝利し、控訴審にまでもつれ込んだ。ところが、公正取引委員会は、98年にドリームキャストを販売し、同じ締め付けの条件で販売していたセガにも、「控訴が行われている以上、地方裁の地裁判決を認めない」とした。

そのため、ゲーム会社は態度を軟化せざる得なくなった。実際に、コーエー(現在のコーエーテクモ)のように中古ソフトを販売した場合には、一定のライセンス料を小売店が支払えば構わないという立場をとる企業も現れるようになった。しかし、2001年に東京高裁はゲーム会社側の控訴を棄却、また、それに引き続き、大阪高裁も棄却が行われ、02年には、最高裁判所は、ゲーム会社側の上告をすべて棄却。中古販売は合法という結果に終わった。


■確定した中古販売の合法化

その後、公正取引委員会の裁定が行われた。

「本件においては,中古品取扱い禁止行為が再販売価格の拘束行為と一体として行われ,同行為を補強するものとして機能しており,中古品取扱い禁止行為を含む全体としての再販売価格の拘束行為が公正競争阻害性を有するものである以上,仮に被審人の主張するとおり,PSソフトが頒布権が認められる映画の著作物に該当し,中古品取扱い禁止行為が外形上頒布権の行使とみられる行為に当たるとしても,知的財産保護制度の趣旨を逸脱し,あるいは同制度の目的に反するものであることはいうまでもないから,被審人(SCE)の上記主張は採用できない。」

これにより、ゲームは、映画の頒布権の対象にならないという結果が確定し、中古ソフト販売は合法となった。当時は、ゲーム関係者からは、「頒布権」という点から裁判を争ったことへの恨み節が聞かれたものだった。もし裁判を行わず、ゲーム販売側と妥協点を見いだすことができれば、中古市場からも利益を終えられた可能性があったことへの不満だ。


■なぜ日本のゲームは世界的に見ても高いか

その後、このルールは現在に至るまで、日本のゲームの販売価格を引き上げ、中古市場を発展させる要因になっている。現在の「プレイステーション3」向けのゲームは7000円〜8000円近い価格帯に設定されていることが多い。例えば、12年10月に発売されたシリーズ最新作の「バイオハザード6」は、 7991円という定価設定がなされており、プレイステーション時代に比べて、非常に高価なものになっている。PS3世代になって、開発費が高騰する中で、それを価格に転嫁せざるを得なかったためだ。そして、返品が来ないという前提だと、受注が期待値よりも膨らみにくいのを恐れるためだ。

一方で、アメリカのゲーム市場は小売店の力が強い。スーパーのウォルマート、数千点を展開するGamestopといった小売店は、入荷したゲームを100%返品することができる。そのため、ヒットしなくなったゲームは、値引き販売を行うか、返品を受けるようにゲーム会社に対して迫ることになる。PS、PS2時代には49ドルで販売されていたゲームは、ゲームの開発費の高騰によってPS3世代には59ドルが一般的な販売価格になっている。しかし、ヒットしなければワゴンセール行きで半値以下の価格にされてしまう。アメリカのゲーム会社は、ヒットをしたかどうかの目安として出荷本数を上げる。しかし、それは値引きや返品のリスクが残っていることを意味しており、利益を確定したことにならない。

ゲーム会社にとっては、返品を受け付けてしまうと、どこまで利益が上がるのかを事前に予測しにくい。しかし、SCEが確立したシステムでは、小売店から受注を受ければ、確実に利益になる。逆に言えば、小売店に押しつけてしまえば、そこから先は関係ないとも言える。


■中古ゲームショップが形成したビジネスモデル

しかし、これのルールは小売店との関係をおかしくしていくことにもなった。特に2000年代に入って、日本の家庭用ゲーム機のソフトウェア市場が3000億円前後から、成長しなくなった要因の一つとも考えられている。ゲーム販売店は、ゲームを少数発注して、その代わりに、ゲーム会社がCM等を行っていて、まだ、ゲームへの注目度が集まっている間に、早々にクリアしたユーザーからゲームを買い入れ、中古品として販売する。

仮に、5800円のゲームを小売希望価格の60%の価格に当たる3480円でユーザーから買い入れ、90%5220円で販売したとすると1740円の利益を生みだすことができる。これは、SCEがPSで設定した1800円の小売店のマージンと大きく変わらない。もっと安めに買い入れれば、当然利益は大きくなる。

また、ユーザーにとってもゲームを2320円で遊べたことになるので、お得でもある。この方式は、ゲーム販売店のすべてに浸透していき、現在では、ブックオフやゲオといったところに引き継がれている。しかし、中古価格の変動といった要因は、一般的なユーザーにとってわかりにくく、ゲーム販売店はゲーム好きの人以外は、近寄りがたい一種独特な雰囲気になってもいる。


■家庭用ゲーム機ビジネスの制度疲労

日本の家庭用ゲーム機市場は、SCEがPSによって確立した流通システムによって、新しい分野のゲームを次々に登場させた。一方で、そのシステムが、現在まで続き続けることによって、様々な制度疲労を引き起こしている。

ここに、05年頃に大きく広がるオンラインゲームや、09年頃に登場するソーシャルゲームといった新しい市場形成が突然成立する要因が作られていたのだ。ソーシャルゲームはBtoCのビジネスであり、最初に8000円もするような価格を支払う必要なく、無料からゲームを始めることができる仕組みだったからためだ。


□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin



※今週より全3回で経済・環境ジャーナリスト、石井孝明氏による論考を連載します。

「資産1兆円を持った男の見た世界=バブル紳士佐佐木吉之助の思い出2」

経済ジャーナリスト 石井孝明


佐佐木吉之助とはどのような人物だったのか。自分が全株を保有する資本金1000万円の桃源社の保有する不動産の含み益が、1兆円まで膨らんだ。しかし91年をピークに全国で不動産価格が暴落。いわゆる「バブル崩壊」だ。その後、佐佐木は141保有した不動産を順に手放した。

そして桃源社の借り入れは、不良債権化した。住宅金融専門会社(住専)7社の大口借り手として、社会的に批判された。住専は1996年に6850億円の税金を投入した後で破綻処理された。

ところが佐佐木本人が96年5月に競争入札妨害、公正証書原本不実記載など8件の法律違反で逮捕・起訴された。97年8月に出た一審の東京地裁では、懲役2年の実刑判決を受けた。控訴後の東京高裁で99年3月に出た判決では懲役2年に執行猶予が3年付いた。

佐佐木は95年に土地を暴落させたとして、政府に行政訴訟を起こした。ところが逮捕後に、それは棄却されてしまう。彼は150の民事・刑事裁判を経験した。刑事裁判では段ボール箱600分の資料・書面を提出したという。

佐佐木の「夢の跡」が今も残る。東京・蒲田にある大田区役所。桃源社の所有だったが、日本興業銀行などの融資団が差し押さえ、1994年に区へ売却されてしまった。当時建設が進んでいた2階までは大理石などが使われる豪華な作りだが、3階から上は質素な奇妙なビルになっている。

■日本人が「ババ」を引き、バブルは崩壊する

こうした激しい経験のため、佐佐木は不動産をめぐるアイデアが次々とわきでていた人だった。取材時点は2008年だったが、その後の経済が停滞した日本を振り返ると意味のある意見もあった。

佐佐木 バブルの後、とくに地方がおかしくなった。土地が有効に利用されていないよ。農地や山林が補助金を吸い取っているのに、ほったらかされている。日本は美しい。世界でこれほどきれいな国はない。この国土をなぜ有効に使えないのかねえ。

日本のモノづくりの強さが続くのは、あと数年。取材時は2008年だった。その間に、知恵で価値を生み出さなけりゃいけない。その一つは観光だね。海外の旅行客を呼び込む仕組みを作ればいい。余った土地を「花」で飾る運動をして、もっと美しい国にすればいいんだよ。観光資源にもなるし、みんな気分もよくなる。

愚かな役人に土地をいじらせちゃダメ。価値が落ちるだけだ。日本は持てる力を使い切っていないように思える。くやしいよ。

佐佐木にインタビューをした2006年から08年のリーマンショック前まで、東京都心部では大規模開発が続き、「ミニバブル」という言葉さえ囁かれた。今の2013年のミニ好況を思い出すものだ。佐佐木に見方を聞いた。

怖いよね、この好況は。日本人の投資家が「ババ抜きのババ」を押し付けられた形で崩壊するんじゃないの。高い所に登って、東京の四方を見渡して見なさいよ。高層ビルが300棟はある。バブルが崩壊して、どの程度の富が消えたか知っているかい。地価は3分の1だ。現在の不動産の価値総額は約1000兆円だから、2000兆円が失われたんだよ。それを考えたら、カネが日本にあるわけないよね。(笑)国際金融機関が日本の不動産を買いあさって建設資金を供給しているんだよ。

不良債権はプロが見れば宝の山。おいしいとことは、みんな外資にとられちゃった。ゴルフ場なんて、みんなゴールドマンサックスが持ってもうすぐ売り逃げるよ。くやしいよね。実は2−3年前に面白い事があった。ある外資が俺に日本での窓口にならないかと話を持ちかけてきた。京都の神社仏閣や、日本の観光地の有名老舗旅館の財務内容を調べ尽くして、安く買えると言ってたよ。俺は断った。日本人だからね。でもカネになりそうな不動産を詳細に調査している事にはたまげたね。日本は絶対に負けると思ったよ。

六本木ヒルズとか、汐留とか、東京の大規模開発地を見ると、高層ビルが城壁みたいに囲んで、外資系金融とその「手先」のカタカナ名前の日本企業が事務所を構えている。そういうのを見ていると、以前に上海にあった租界地を思い出すね。あそこも外国資本の高層ビルが並んで、何かあると軍隊が来て篭城したもんだ。

日本人に覇気がないと、日本もいずれそうなるんじゃないの。バブル敗戦の後で、ハゲタカの国際金融資本に「軍隊なき占領」を受けているんだから。それが見えないまま進行しているんだね。でも俺はもう外資の侵略と戦う気力はない。どうにでもなれという感じだ。他の誰かがやってくれ。

■不良債権はまだ隠れている、日本は立ち直れない

不動産業界では物件の権利を細分化して販売する「不動産証券化」が2000年以降普及した。2008年のリーマンショックは、その引き金になったサブプライムローン(米国の不動産の証券化された貸し付け)はこれによってリスクが隠された金融商品だ。それの暴落が世界の金融混乱の引き金になった。佐佐木はこれを「うさんくさい」と、06年ごろから切り捨てていた。

人間の考えることは大きく変わらないんだよ。バブルの時に抵当証券(編注・金融機関が不動産に抵当権を設定し、権利を細分化して投資家に証券として販売した)が流行しただろ。日債銀が、桃源社の物件を使って抵当証券をつくって、売った後で破綻しちゃった。こっちは抵当権が分散して困ったし、投資家も困った。

「最近流行のアメリカ式の不動産証券化でござい」と言っても、抵当証券と仕組みは大して変らない。俺のところに、不動産屋が、そのアメリカ式のビジネスとやらを自慢しに来る。けれども「一歩間違えたら詐欺と同じだよ」とからかっている。もうすぐ証券化でつくった不動産ファンドの大量償還が始まるけど大丈夫かね。ファンドの作り手の多くケイマン諸島などの外国に書類上の事務所を持っている、聞いた事もない会社だろ。紙くずになっても文句は言えない。

そうはいっても、2006年ごろ、地価は下げ止まっていた。都心の一等地は上昇に転じていた。

実態を知ったら、笑っちゃう話なんだよ。「完売御礼」なんて立て札のあるマンションを観察すると、実は空き室だらけというのが六本木でもよくある。不動産ファンドのカネを引き入れたり、自己売買したりする事によって、売れたことにして「完売だ」と嘘をつく。そうしないと、金融機関が資金をかさないからね。不動産融資にはシビアなんだよ。一部で土地は動いているけれど、全体が上昇する気配は感じないね。

「不良債権が処理された」と政府も銀行も言っているが、それは違う。会計上の捜査をしただけで、まっさらになったわけじゃない。何と言っても2000兆円消えたんだから。今後は政府の財政投融資や郵貯と農協の不良債権が白日のもとにさらされるよ。そんな日本が立ち直れるわけがない。(了)

文中敬称略。

(次号へ続く・全3回)