アゴラチャンネル、第032号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲゲーム産業の興亡(41)
【特別篇】「プレイステーション4」をどう見るか

・【アゴラチャンネル報告】
「ムラを守る」労働観がデフレの原因?--常見・池田対談


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特別寄稿:

新 清士
ゲーム・ジャーナリスト

ゲーム産業の興亡(42)
【特別篇】迫る新型ゲーム機時代の終焉

今週は、先週に引き続いて、2月20日に発表になった「プレイステーション4」が抱える疑問点について紹介しておきます。

翌21日にSCEのアンドリュー・ハウス社長にインタビューをすることができたが、SCE自体の技術指向性は変わっていません。1月にiOS、アンドロイド等向けに提供され、7億円以上を稼ぎ出した「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテインメント)に代表される「ソーシャルゲームのアイテム課金や、カードバトルゲームの人気はいつまで続くと考えていますか?」と逆に質問されました。
これは、PS4ではこうしたゲームを受け入れる体制整っていないと感じました。また、仮に移植されても、PS4のヒットに貢献しないでしょう。

SCEのハードウェアの技術が向上することと、ユーザーの支持を受けられるという思い込みは現在でも続いています。PS4の性能は、Xbox360の後継機種よりも若干下回る性能になると予測されていますが、マイクロソフトも店頭のパッケージ販売を基本にしたレガシーモデルによる販売を特に大型ゲームでの展開では中心にすると予想されています。
すでにWii Uがその戦略を継続しており、ソフト不足も原因で1月30日に、通期で550万台のヒットを予測していたのが、400万台に下方修正したことは記憶に新しいところです。

■GaikaiやOnLiveと同じ技術日本の「G-cluster」

既存のハード中心のモデルの致命的な課題は、高度なグラフィックスのゲームを遊ぶために、性能の高いハードウェアの新たに購入を必要とする点でしょう。そして、そもそも、魅力的なソフトウェアがなければ、ユーザーはわざわざ新しいハードウェアの購入に踏み切りません。多くのゲームがPS3でも提供されることが予告されていることもあり、既存のハードウェアで十分遊べるとなればなおさらでしょう。

PS4の目玉の一つは、ストリーミングゲームを実現するGaikaiの技術であることは、間違いはありませんが、果たして、この技術はそれなりにハードウェア性能の高いPS3では実現できないのだろうかという素朴な疑問を感じます。ほぼ同じような技術で、09年頃から、話題になったストリーミングゲームの企業のOnLiveがありますが、同社は昨年12月に一度倒産状態になり、現在は投資ファンドの資金を得て再建中であるもののサービスは継続されています。

1月の米ラスベガスで開催される家電見本市では、日本製の技術である「G-cluster」のサービス開始が発表されています。この技術は、GaikaiやOnLiveのテクノロジーとほぼ違いはありません。この技術は02年から、展開の可能性を探り続けていましたが、なかなか日本国内でも賛同するゲーム会社を見つけることができずに苦戦していました。
この技術はすでに10年前より登場しており、技術的にはかなり成熟しています。課題は、その実現性だけで、有力なソフトウェアを得られなかったとタイミングでした。

G-cluster技術では、オンライブと同じように、テレビに受像器を取り付け、Wi-Fiで接続するスマートフォンのタッチパネルがコントローラーになる仕組みになっています。今年の春から日本でも展開が開始される予定で、ハードは1万円以下で、様々なゲームをクラウド上に存在するゲームを遊べるようになります。
すでにフランスではサービスインに成功しており、月額5ユーロ、10ユーロ、15ユーロの値段で配信されており、大型タイトルが遊べる15ユーロの価格帯に力を入れて展開しています。

■競合他社はPS4の発売までに十分に対抗する用意ができる

こうした技術は、当然投入するタイミングが最も重要な点で、一度広がり始めるとウィナー・テイクス・オールの事象が起きる可能性が高いと考えられます。PS4のようにハードウェアの普及を待ってから、本格的な展開を待つというのは、ペースが遅い可能性があります。

競合他社として、想定されるのは、アップル、グーグル、アマゾンといった企業で、また、PC向けのダウンロードゲームプラットフォームとして大きな優位性を築いている米Valve、春に米国で発売になるアンドロイドベースの99ドルのベンチャー企業のゲーム機Ouya(ウーヤー)といった企業がライバルになってきます。
PS4の発売が年末であるため、約半年あまりの時間は、競合他社にとって、例え実現が来年以降にずれ込むとしても、プレスリリースで発表するだけで、PS4の初期の段階に大きなダメージを与えることができるでしょう。

クラウドゲーミングのユーザーにとっての最大メリットは、受信する側の画像の表現能力が、技術的に十分な段階に達することができれば、ユーザーはハードウェアを買い換える必要がなくなる点です。
どれほど、高度なグラフィックスを使ったゲームであっても、サーバ側で映像を処理して、生成してユーザーの受像機にデータを配信することができれば、新型ハードウェア自体に強力なコンピューティングの能力は不要になります。今は技術的な分水嶺のタイミングに迫りつつあり、ハードウェアのスペック競争が終わりへと向かい始めている時期でもあるのです。

■独自のハードウェア専門のソーシャル性はハードの売りにならない

これ以降の世代では、ソーシャル性といった別の付加価値がより重要になってくるでしょう。しかし、それらはすでに市場を独占しているフェイスブックなどとの争いになるため、既存のゲーム機の中に囲い込むのは非常に難しいと考えられます。少なくともハードウェアを販売する上ではヒットを引き起こす要因になるとは、考えにくいです。

すでに任天堂は、「Wii U」向けに「Miiverse」という独自のソーシャル機能を組み込んでいますが、この機能がハードウェアの売り上げを牽引するだけの魅力を持っていないのは明らかです。フェイスブックやツィッターといったソーシャルネットワークサービスが爆発的な普及をみせたのは、それがハードウェアを必要としないソフトウェアだけの技術だったためです。

ソフトウェア中心のテクノロジーは、ハードウェア中心の技術を、その普及速度で大きく上回ります。日本でも、DeNAやグリーといったソーシャルゲームのプラットフォームが急激に普及することができたのは、すでに普及していた携帯電話というハードウェア環境に、ただ乗りすることができたという面が大きいです。そのため、まず、ハードウェアを普及させて、クラウドゲームを展開するという順序には、今の時代では、速度感に無理があるのです。

■ストリーミングゲームの限界はやがて解決される

もちろん、現状では、ストリーミングゲームの限界は、ストリーミングであるために画質が安定しないという弱点を抱えています。OnLiveの技術では、スピードの速いゲームでは描ききれないために、ストリーミング技術の悪い特徴でもある画面の一部にブロック化が起きる現象が起きます。
また、ネットワーク対戦型のゲームの場合では、ちょっとした遅延が、ゲームのユーザーの強さに影響を与えてしまいます。しかし、これらの問題もそう遠くない未来に、広義のムーアの法則(パソコン性能の向上、インターネット回線の向上、サーバ性能の向上)の特に後者の2つの要素によって、今後数年で解決されることでしょう。また、日本で人気のあるロールプレイングゲームの場合には、それほど急激な画面の変化を必要としないために、フィットしやすいと考えられています。
PS4が、「将来的」であれ、クラウドゲーミングが実現可能であると、アピールしたことは、他社にとっても同じことができるということを意味します。OnLiveやG-clusterが示しているのは、まだまだサービスに限界があるものの、すでにサービスとしてはユーザーに提供可能な段階に入っているという事実です。
新型ハードの能力をアピールする時代は、この新しい世代のハードが、最後に可能性が高いと考えています。仮に、グラフィックの高度さが最大の売りであるゲームであっても、ストリーミングゲームで提供する事は何の不都合もないと思われます。そのため、同じゲームが他のハードウェアにリリースされるというのは、当たり前のように想像できることです。

■クラウドゲーミングはPS3でも展開されるのではないか ?

ゲーム機が最新のゲーム機だったからこそ、価値のあった時代の終わりは、もう目の前に迫っているのです。SCEはクラウドゲーミングを、PS4の目玉として位置づけていますが、私自身は、同様の機能をPS3にも提供するといった戦略転換を迫られるのではないかと思われます。
PS4の普及にとっては有利となる材料にはなりませんが、すでに7700万台の出荷に成功したPS3のユーザーが所有し、その大半が登録しているプレイステーションネットワーク(PSN)の資産を有効活用して、同社の発展に貢献すると考えられるからです。この転換が引き起こされたとしても、SCEにとっては現実的な戦略であり、ポジティブな要素になると考えられます。


□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin




【アゴラチャンネル報告】

「ムラを守る」労働観がデフレの原因?--常見・池田対談

アゴラ研究所は毎週金曜日夜9時から、ニコ生に開設したアゴラチャンネル http://ch.nicovideo.jp/agora で番組をネット放送しています。
3月1日は「働き方」をめぐるユニークな論客として知られる常見陽平氏を招き、「働き方を間違えるな」というテーマの放送を行いました。
(告知記事)http://agora-web.jp/archives/1521265.html 今回はその内容報告を掲載します。

「フリーで飯は食えない」

「強調したいのは、フリーで飯を食えるのは100人に一人。そうなっても大変です」「ノマドという言葉は明確な意味がない。礼賛はおかしいし、信じてはいけない」。対談のはじめに2人の意見は一致しました。

常見氏はリクルート、玩具メーカー、ベンチャーを経験。今は就職サイト、執筆、講演などをしながら、働き方を考え提案する仕事をしている。そして現役の大学講師、同時に一橋大学大学院の大学院生でもあります。

これまで仕事を頑張り、もういいかという段階になると、次の仕事がやってきた幸運が続いていました。「最初からキャリア構築なんて行っても、その通りになることはない。そしてフリーなんて言うものは自由と不自由の間をいったりきたりする」。結局は、実力と人脈のある人が、どのような立場になっても生き残る、というわけです。

一方で、今は組織にしがみつく人が増えている、と言います。大企業の若年離職率は急速に低下。労働者は自発的に賃下げを……。しかし、多くの企業が、早期退職を増やし、中小企業の労働状況は厳しい。「いろんな働き方があっていい。ところが、皆が頑張る事に追い立てられる厳しい状況」と、常見氏は話します。

日本は世界の先進国の中で、労働者の実質賃金が下落していく唯一の国でしょう。自分の雇用を守るために、働く人が賃下げを受け入れています。小さな組織、いわば「ムラ」を守ろうとするのです。

その結果、失業率は低いものの、「その中に入れない」非正規雇用者、ブラック企業・下請けの勤務者は守られない。「デフレの原因は『小さな世界を守る』という日本人の働き方や意識とつながっている根の深い物のようだ」と言います。こうした、働き方のゆがみが、自由な労働市場の形成を妨げていると、2人は合意しました。

「ノマドが日本を動かした」

誰もが満足する働き方の定まった形は見えません。池田氏は、『無縁・苦界・楽』(池田氏によるコラム)http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51407019.htmlなど、日本の「非定住民」などの研究を進めた歴史学者の網野善彦氏の研究を紹介。日本の歴史では流浪民など、農本社会からはじき出された人がかなりの存在感を持っていた、と言います。「悪党」を使い政権を取った異形の天皇後醍醐帝や、明治維新の力の一つになった「一種のルンペンプロレタリアート」(池田氏)の浪人や下級士族の例もあります。「ノマドが、閉塞感に満ちた社会を壊す力の一つにもなり、動きに注目したい」と話しました。

さらに話は、日本のベンチャー企業の走りであるリクルート創業者で、先日亡くなった江副浩正氏の再評価などに話は広がっていきました。

今後アゴラは、一連の映像コンテンツをアーカイブ化。読者の皆さまに提供する予定です。
http://ch.nicovideo.jp/agora

(アゴラ編集部)