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2013年3月第2週号
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2013年3月第2週号

2013-03-11 09:41

    めるまがアゴラちゃんねる、第033号をお届けします。
    発行が遅れまして申し訳ございません。


    コンテンツ

    ・ゲーム産業の興亡(43)
    「プレイステーション」がゲーム会社にもたらした巨大な利益

    ・アゴラチャンネル報告
    中国の成長にかげり、国内には危うい大国意識--津上・池田対談


    アゴラは一般からも広く投稿を募集しています。多くの一般投稿者が、毎日のように原稿を送ってきています。掲載される原稿も多くなってきました。当サイト掲載後なら、ご自身のブログなどとの二重投稿もかまいません。投稿希望の方は、テキストファイルを添付し、システム管理者まで電子メールでお送りください。ユニークで鋭い視点の原稿をお待ちしています http://bit.ly/za3N4I

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    特別寄稿:

    新 清士
    ゲーム・ジャーナリスト

    ゲーム産業の興亡(43)
    「プレイステーション」がゲーム会社にもたらした巨大な利益

    94年のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレイステーション(PS)が登場後、日本のゲーム産業は好景気に沸いた。その一つの要因は、スーパーファミコン時代と比べて、PSの方が、より収益を生み出しやすいビジネス環境だったためだ。

    96年の100万本を越えるヒットになった「バイオハザード」。そして、最新作が、任天堂のスーパーファミコンの後継機「NINTENDO 64」ではなく、PS向けに発売すると96年に発表された、97年発売の人気ロールプレイングゲームのシリーズ最新作「ファイナルファンタジーⅦ(FFⅦ)」(スクウェア)。
    これらのゲームの登場は、このゲーム機世代のPSの勝利を決定的なものにした。競合だった「セガサターン」(セガ)は追いつけず、任天堂も苦戦することになった。98年には日本国内で、売れたゲームの7割がPS向けという状況まで起きている。

    ■ゲームは開発コストを回収した後はすべて利益になる

    そして、ゲーム開発会社にとっては、とてつもなく、1本当たりのゲームの収益性が高い時代だった。ゲームの開発費は、数千万円から、最も高いものでも数億円といった金額だったと推計される。開発チームの人数も、せいぜい10人程度が基本だった。開発期間は多くのゲームが数ヶ月から、大きなゲームで1年といった単位だった。

    PS向けのゲームメディアであるCD-ROMは、スーパーファミコン世代のROMカセットといった製造費が掛かる状況と大きく違う高い優位性を持っていた。CD-ROMではデータ容量が増加しても、製造コストは変わらないという点だ。
    5800円で販売されているゲームのうち、ゲーム会社の取り分は、おおよそ約2000円となることは一度紹介しているが、ゲーム会社にとって開発費を回収した以降は、すべて純利益に変わる。そのため、データ容量によって価格が変動させざる得ないROMカセットよりも、開発費を回収しやすいため、純利益を圧倒的に出しやすくなったのだ。

    ■少なくとも100億円以上の利益を産んだ「FFⅦ」

    発表から1年後、98年に発売された「FFⅦ」は、日本国内で344万本の大ヒットを記録した。3Dグラフィックのムービー映像と、リアルタイムに動くキャラクターの融合は、誰もが息を飲むほどの迫力だった。また、ストーリーの斬新さにも多くの人が惹きつけられた。
    もちろん、当時のロールプレイングゲームとしては、世界的にも、最高の評価を獲得している。そして、CD-ROM3枚組という大容量でありながら、6800円で発売された。これは、前作の94年にスーパーファミコン向けに発売された「FFⅥ」の販売価格が1万1400円だったことに比べると破格の安さだった。そして、大容量のデータを収納でき、製造コストが固定しているCD-ROMではないと実現できないことだった。

    開発費は数億円と推測されるが、6800円のうち、スクウェアの取り分を2000円と仮定すると(実際には、SCEとの交渉により、もっと高かったと考えられる)、日本国内だけでも68億円の利益を生み出していると推計できる。開発費と広告宣伝費を抜いた後は、すべて純利益だ。そして、「FFⅦ」は全世界でも大ヒットし、最終的に1000万本以上売れたと推測されており、莫大な純利益を同社にもたらしたと考えられる。少なく見積もっても100億円以上だろう。

    ■続出する100万本タイトルに新しいジャンルのゲーム

    CESA ゲーム白書によると、「FFⅦ」が発売された97年に、日本国内の家庭用ゲーム機ソフトウェア市場は5833億円に達しており、ピークを迎えたと考えられている。当時は、100万本を越える大ヒットしたゲームが続々と登場した時期でもある。

    競馬育成ゲームの「ダービースタリオン」(アスキー)、戦略型のロールプレイングゲーム「ファイナルファンタジータクティクス」(スクウェア)の120万本、ゴルフゲームの方向性を決定づけた「みんなのGOLF」(SCE)の109万本、「サガフロンティア」(スクウェア)の103万本などだ。

    また、数十万本のヒットを引き起こす新ジャンルのゲームも次々に登場した。音楽のリズムゲーム「パラッパラッパー」(SCE)、実車を使ったリアルレーシングゲームの「グランツーリスモ」(SCE)、電車コントロールゲームの「電車でGo!」(タイトー)などだ。これらのヒットしたゲームは、開発費の回収が容易だったために、ゲーム会社に大きな利益をもたらし、市場の急成長を生み出した。ゲームクリエイターのボーナスが1000万円以上出るといった景気のいい話がそこかしこで聞こえた時期だった。

    PSは、任天堂が独占していた世界市場の形を塗り替え、最終的には1億台以上売れた大ヒットハードになった。一方で、任天堂が携帯ゲーム機の「ゲームボーイ」向けの「ポケットモンスター」を大ヒットさせた時期にも当たり、ゲームといえば「日本」というイメージが作られたのは、この頃だ。

    ■新しい産業構造の登場時には巨大な利益が生まれることがある

    留意してほしいのは、新しい産業のフォーマットが形成されたときには、爆発的な収益性が生み出される時期があるということだ。これは現在のソーシャルゲームが登場した時に、高い利益率を生み出している状態に似ている。PS世代では、ユーザーは次々に登場するゲームを買い求めた。ただ、この収益性は00年の「プレイステーション2」の世代になると、状況は少しずつ変わり始める。「FFⅦ」の成功は、より豪華な映像を生みだすことが、ゲームの価値を生み出すと考える方向性も決定づけることにもなったからだ。

    最後に注意点として、販売本数の統計データがちゃんと整え始められたのは、97年ぐらいの時期からだ。ゲームの業界紙や「ファミ通」のエンターブレインが小売店と提携し、販売本数データの推計値を発表するようになったのがそこの頃だったためだ。そのため、99年ぐらいまでは、販売本数は実際とはずれている可能性はある。今回の内容は「ファミ通」の当時のデータを参照しているが、細かい販売数などに、実際との違いがある可能性は指摘しておく。


    □ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

    新 清士(しん きよし)
    ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。


    アゴラチャンネル報告

    ●中国の成長にかげり、国内には危うい大国意識--津上・池田対談

    アゴラ研究所は毎週金曜日夜9時から、ニコニコ生放送に開設したアゴラチャンネルhttp://ch.nicovideo.jp/agoraで番組をネット放送している。3月8日は中国研究家で津上俊哉氏を招き、池田信夫所長との対談「中国バブル? 崩壊するのか」を放送した。

    約1500人の視聴、700人のタイムシフト予約があり、視聴者アンケートで7割の満足度と好評を得た。(告知記事)http://agora-web.jp/archives/1522794.html

    ■中国の経済成長は減速へ

    津上氏は、経産官僚出身でコンサルタント会社「津上工作室」を経営する。池田氏とは経済産業研究所(RIETI)の研究者として、同僚でもあった。

    津上氏は、10年前サントリー学芸賞を受賞した『http://www.amazon.co.jp/dp/4532350298/ref=cm_sw_r_tw_dp_DX3orb1JSM6ET" target="_blank" title="">中国台頭--日本は何をなすべきか</a>』(日本経済新聞社)で、中国経済の急成長を予想。
    ところがそれが現実になった後で、今年『<a href="http://www.amazon.co.jp/dp/4532261848/ref=cm_sw_r_tw_dp_MZ3orb0VBZDBT" target="_blank" title="">中国台頭の終焉</a>』(日本経済新聞出版社)を出版。それがベストセラーになっている。

    「津上さんの考えはなぜ変ったのですか」と、池田氏は聞いた。「中国は成長によって得た変化を、国民の利益になる形に使えなかったのです」と津上氏は答えた。リーマンショック以降、景気落ち込みを避けるために、中国は全土で総額4兆元(日本円で08年のレートで50兆円以上)の巨額公共投資を実施。そのために、日米欧が低迷する中で景気の落ち込みが最小になった。

    ところがそれは需要の先食い。しかも非効率な国営企業の延命や、累積する問題を先送りさせてしまった。特に土地バブルの懸念も残る。また農民工と呼ばれる地方出身の労働者の生活環境改善のために、公的支出も増え、地方政府の財政への懸念が広がっている。

    また中国の経済成長を支えた諸条件の変化も起こっている。地方から都市の労働力の移転は一服。これは「ルイスの転換点」と呼ばれる発展途上国の経済成長で頻発する経済現象で、同じ事が起こった。さらに一人っ子政策で、労働人口のピークも過ぎた。「今後は経済成長が減速する可能性が高い」という。しかも統計が未整備で、経済の実態を反映していない面がある。これらの変化が経済での「台頭の終焉」と津上氏がまとめた理由だ。

    大国化による中国人の危うい自信

    「日本との関係はどうなるでしょうか」と池田氏は聞いた。津上氏によれば中国では、知識人から、一般市民まで、大国意識と言える自信を持ちはじめた。「150年にわたって欧米や日本に侵略されたり、国が混乱したたというトラウマが変るのは良い事でしょうが、それが諸外国との関係がうまくいかない原因にもなりそうで心配です」という。

    不思議な事に、中国は個人個人は優れた人が多いものの、多くの組織でマイクロマネジメントが上手にできないという。現場の長が、上司とコミュニケーションを取らずに、自分の責任で物事を処理しようとする。「尖閣での衝突、反日暴動の混乱などは、中南海(最高指導部の居住区、転じて指導部のこと)が全部管理しているとは思えません。末端の暴走で外交や経済が混乱する可能性はと否定できない国です」という。

    今年発足する習近平氏の政権は、山積する内外問題に向き合う。「習さんは国の問題を理解はしているようだが、どこまで解決できるかは分かりません」と、津上氏は話した。しかし習氏は良いイメージをつくろうとして国のさまざまな場所にいいことを言う八方美人的な対応を現時点でしており、「国民の期待は高まっているようです」と、津上氏はまとめた。巨大な隣国の先行きは一段と不透明になっていることが、今回対談で改めて示された。

    今後アゴラは、一連の映像コンテンツをまとめ、読者の皆さまに提供していく予定だ。

    (アゴラ編集部)
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