めるまがアゴラちゃんねる
2012年11月第1週号
めるまがアゴラちゃんねる、第016号をお届けします。
今回から新たな連載を開始する予定でしたが、諸事情で次号からになります。
大変申し訳ございません。次号よりの新連載にご期待ください。
コンテンツ
・「ゲーム産業の興亡」(26)年齢層の高い無料で遊ぶ米カジュアルゲームユーザー層の姿
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
「ゲーム産業の興亡」(26)
年齢層の高い無料で遊ぶ米カジュアルゲームユーザー層の姿
03年に、Steamが実際にサービスインした当時の状況をもう少し振り返ってみたい。Steamの登場前後に、アメリカで後追いの形で、多数のゲームのネット流通サービスが立ち上がる。その多くは失敗することになるが、Steamの前年の01年にスタートしたネット流通プラットフォームがある。動画フォーマットのReal Playerを展開していたRealNetworkがはじめたRealArcade(現Game House)だ。
このサービスは、Steamと同じ仕組みとして、スタートした。サービスに登録して、ゲームをダウンロード購入する形だ。ただ、想定ユーザーが変わっていった。サービス立ち上げ当初は、PCゲームで主に遊んでいたコアゲーマーを考えており、実際ロボットアクションゲームもリリースしていたもののあまり人気は出なかった。Valveが自社の「カウンターストライク」といった強力なキラータイトルを持っていたのに対して、RealArcadeには、そうしたタイトルがなかった。
そのため、展開していくゲームを別の方向に切り替えていくことになった。それが欧米圏で一般的に「カジュアルゲーム」と呼ばれるジャンルのゲームだ。家庭用ゲーム機でアクションゲームなどを熱心に遊ぶようなユーザーではない人をターゲットにしたゲームで、パズルやカードゲームといった、「ライト」なゲームが好まれた。この場合の「ライト」は「手軽に」といったニュアンスだ。
■03年段階で中年を中心に5000万人がオンラインでゲームを遊んでいた
そもそも、パソコンを使ってオンライン上で遊ぶユーザーの数は少なくなかった。03年にまとめられた調査(※1)によると、パソコン向けのウェブサイトで遊んでいるゲーマーの数はアメリカで5000万人以上存在すると考えられていた。当時は、ゲームポータルという考え方が登場しつつあり、様々な無料ゲームを遊べる環境を提供して多くのユーザーを集めていくということに関心が集まりはじめていた時期だ。
特に、JAVAやFlash、Shockwaveを使ってゲームを簡単にネット上に、比較的容易に公開可能なった時期にも重なりはじめていたために、パソコンでインターネット環境に接続するユーザーが、そうした家庭用ゲーム機に比べるとはるかに素朴なゲームを遊ぶケースが増えてきた。
いくつものサイトが立ち上がっていったが、90年代から立ち上がっていた老舗のエレクトロニックアーツに買収されたPogo.com、97年に成長期にYahoo!に買収されたウェブゲーム会社のサービスを広げたYahoo Games、マイクロソフトのMSN Zone.com、AOL Prop Games、SHOCKWAVE.comといったサイトは、それぞれ数千万から数百万のアクセスユーザーを集めていた。
ただ、アメリカと日本には決定的な違いがある。そうしたサイトを利用しているユーザーの年齢層の違いだ。現在のFacebookといったソーシャルゲームの年齢層とも重なるのだが、遊んでいるユーザーの女性比率は50%近くで、年齢層も30代後半から40代以上と、中年層が多い。(※2)
現在のFacebookといったソーシャルゲームの平均ユーザーのプレイヤーのイメージされる年齢は、45歳主婦といったイメージが実感として近いといわれているため、当時から年齢層の高いユーザーは無料でゲームを遊んでいた。
米ゲーム業界団体のEntertainment Software Association(ESA)は、毎年6月のゲーム展示会イベントE3にあわせて「Essential Fact」というゲーム業界を社会的にアピールするためのデータを公表する。今年6月に公表された「2012」(※3)ではゲームプレイヤーの平均年齢は30歳となっており、32%が18歳以下、31%が18〜25歳、37%が36歳以上としており、ゲームプレイヤーの平均年齢が意外と高いことをアピールしている。
また、プレイヤーの比率は、男性は53%で、女性は47%としているE3という場は、家庭用ゲーム機の展示会のために、家庭用ゲーム機向けの派手な映像が流れるが、この統計数値のなかには、カジュアルゲームプレイヤーや、ソーシャルゲームプレイヤーが含まれているので、こうした数値になっている。
また、どんなタイプのオンラインゲームを遊んでいるのかという回答に、42%の大多数を占めていたのがパズル、ボードゲーム、トリビア、カードゲームといったジャンルが上げられている。これが「カジュアルゲーム」という分野で、無料で遊んでいるユーザーを多数抱えている。
■なぜアメリカでは中高年層がカジュアルゲームを遊ぶのか
ただし、02年当時は、これらのウェブのゲームポータルは多くのユーザーを集めている割には収益性が低かった。収入を広告とスポンサーに頼らなければならなかったためだ。一人当たりの月の収益は$0~$0.45と非常に小さかった。この当時の予測でも、これらのサービスが短期〜中期に掛けて収益性が伸びる可能性は「低い」とされている(※4)。
Facebookに相当数のユーザーを取られているとはいえ、まだ十分なユーザー数を抱えているPogo.comの場合、12年の現在でも、基本的に広告収益モデルで運用されている。
日本では、現在もソーシャルゲームを遊んでいるユーザーの中心年齢層は20代〜30代だ。そのため、欧米圏と大きく異なっている。この違いは、
・ナローバンド回線で遊ぶユーザーの存在
・コンピューターリテラシーの違い
にあると考えられる。
アメリカでは、93年にビル・クリントン政権の副大統領アル・ゴアが提唱した「情報スーパーハイウェイ構想」が語られた割には、一般家庭にブロードバンド回線が普及するのには日本よりも遅れ、大半の家庭はナローバンド回線でインターネット接続を行っていた。
ただ、市内の回線に、一度接続してしまえば、切るまでは料金は固定という仕組みになっていた。そのため、ネットサーフィンを楽しむユーザーは、手軽に遊べる娯楽としてゲームポータルを利用するようになっていたのだ。また、英語キーボードに言語的な違いもあって、日本よりも慣れが早かったという問題もあって、中高年層への浸透が進んでいたという背景がある。
もう一点重要な点として、
・すぐに遊べる娯楽の選択肢が多くない
要因があると考えられる。率直に言うならば、ゲームを遊べる場が近くにそう多くないのだ。アメリカでも人気が高いのはポーカーといったカードゲームだが(実際、現在でもソーシャルゲーム最大手のZyngaの安定的に3000万人の人気を誇っているのは「テキサスホールデンポーカー」)、カジノは、限定された場所に行かなければ遊ぶことができないため、簡単に遊ぶことができない。
一方で、日本では、競輪、競馬といった公営ギャンブルやパチンコといった、ギャンブルが娯楽として街中で簡単にアクセスして遊ぶことができる。実際に、パチンコを趣味と考えている人の人口は多く、日本人全体の5.4%を占めており、男性の20〜50代まで約10%、女性の20〜60代まで約3%と世代を超えて安定した人気を得ている(※5)。
ゲームを求めるユーザーの一定ニーズはほぼ普遍的に存在しており、そのユーザーが吸収されていると考えられる。もちろん、ゲームに支払っている金額には大きな違いがある。
アメリカでは、そのお金を支払わないユーザーに、なんとか課金する方法としてウェブサービスとネット流通(ダウンロードゲーム)を基本としたカジュアルゲーム分野が立ち上がってくる。この違いは、ガラケーを中心に立ち上がってくる日本の市場と大きな違いを生んでいる。
(※1) IGDA Online Game White Paper 2nd Edition March 2003
(※2) 同 P.22
(※3) ESA 2012 Essential Facts About the Computer and Video Game Industry http://www.theesa.com/newsroom/release_detail.asp?releaseID=174
(※4) ※1と同 P.10
(※5) 角川アスキー総合研究所「メディア&コンテンツ・サーベイ 2012」
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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