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週刊アゴラちゃんねる、第034号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。
コンテンツ
・ゲゲーム産業の興亡(41)
【特別篇】「プレイステーション4」をどう見るか
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
ゲーム産業の興亡(44)
【特別篇】カナダから見える北米ゲーム産業の動き
3月8日〜16日まで、カナダ政府の招待で、モントリオール(ケベック州)、トロント(オンタリオ州)、バンクーバー(ブリティッシュコロンビア州)の主要3都市のゲームと映像産業の企業・大学を訪問するメディアツアーに参加する機会に恵まれました。
カナダは、ゲーム産業を重点産業に位置づけており、ゲームの開発会社を持つ国としては。アメリカ、日本に続く、世界で3番目に大きな国です。ここでは、今回の取材を通しての、ゲームの世界市場の動向、特に日本のソーシャルゲームに対しての評価を、端的に紹介をさせていただきます。
■(1)家庭用ゲーム機市場が回復する可能性は、多くの企業が悲観的。スマートフォンへの移行に全力。
07年にもメディアツアーに参加する機会に恵まれているのですが、そのときと状況は完全に様変わりしました。中堅以下の企業は、家庭用ゲーム機への開発をほとんど行わないか、限定的な展開に絞り込んでいます。5年前には、「ニンテンドーDS」向けにゲームを開発していた企業は、すでに家庭用ゲーム機向けのゲーム開発を中止しており、スマートフォン向けゲームに注力していました。
数十億円単位の大型の家庭用ゲームを作っているのは、今回訪問した「アサシンクリード」シリーズを抱える世界最大規模のスタジオUBIモントリオールや、「デウスエックス」シリーズで成功し、現在は「トゥームレイダー」を開発中のスクウェア・エニックス傘下のアイドスモントリオールといったところに限られています。最高クラス(AAA)のゲームであれば、まだ家庭用ゲーム機市場で生き残れるという判断です。
一方、エレクトロニックアーツの世界最大のスタジオEAバンクーバーは、家庭用だけに絞るのではなく、多様なゲーム機、スマホ、タブレット等のすべてのハードウェアに、自社のブランド展開を広げておき、多様なビジネスモデルに対応するクロスプラットフォーム戦略の重要性を述べていました。
同スタジオは、サッカーゲームの「FIFA」のブランドを利用する独占契約を持っています。特に欧州で安定的にヒットしていることもあり、企業として、この戦略を推し進めています。ただ、どこの大型スタジオでも、継続開発が行われているのは続編のみで、新規のシリーズ開発に投資をしているところはないように見えました。
一方で、中小開発スタジオには、それでも新規のシリーズ開発に投資をしているところもいくつかありました。しかし、大型投資はリスクが大きすぎる上、開発資金を集められないため、従来のDVDなどの物理メディアの規模ではなく、Xbox Live Arcadeといったダウンロード販売のみに絞って、規模を小さくしつつAAAを狙う開発が行われていました。
■(2)「神撃のバハムート(Rage of Bahamut)」のゲームとしての評価は低い。なぜランキングトップの状態にあるのかは、誰もが「わからない」と答える。
多くのスマートフォンに注力するモバイル企業に、私が繰り返し聞いたのが、なぜ、DeNAが展開するカードバトルゲーム「神撃のバハムート」が、アメリカでヒットしているのか?、という質問です。
昨年、アンドロイド端末向けのGoogle Playや、iPhoneなどのiOS向けのトップ売り上げランキングで、常に首位に近い位置を保ち続けることに成功し注目を浴びました。これは日本のカードバトルゲームが、海外でも通用する成功例だと日本では評価されていますが、どうも、北米での評価は違っているようです。
モントリオールのインキュベーターは、「まったくおもしろくないゲームだ」と言い切りました。別の開発会社は「15分でやる気が失せた」と述べていました。カードのグラフィックスの美しさは認めていましたが、ゲームは退屈で、音楽もないHTMLベースのゲームが、日本でヒットしていることが理解できないと。
それでは、なぜアメリカでヒットしているのか?と、説明を求めたのですが、誰もが「ノーアイデア」と語る不思議な状態です。昨年春の立ち上げ期には、広告宣伝費を相当使ったと考えられていますが、現在もその状態が続いているのかどうかは、はっきりとはわかりませんでした。
一方で、多くの企業がカードバトルゲームの開発に乗り出しているようです。少なくとも2社が開発していることが確認できました。つまり、北米全体を考えると、さらに多くの企業が開発していると想像できます。日本のHTMLベースのゲームが上位ランキングに入るのであれば、北米市場に合わせたゲーム性を持たせたネイティブ(専用)アプリを開発すれば、ヒットのチャンスが十分にあると見ているようです。
そのため、今年の夏頃には、北米の企業から、様々なカードバトルゲームが登場すると思われます。日本がこの1年優位性を持っていた北米市場でのカードバトルゲームは、北米企業の新作タイトルとの激しい競争にさらされると思われます。
また、日本の極端な高収益市場については「ミステリー」と考えられており、関心はあるものの、北米企業の進出余地はないとの考えが感じられました。スマートフォンが、数百万台単位で増加し続けている成長期にある北米市場に注力した方がよいとの判断があるように感じられました。
■(3)グリーに対しての評価はきわめて厳しい。「グリープラットフォーム」は北米では失敗状態にある。
厳しい評価を受けていたのが、グリーのグローバルプラットフォーム展開です。グリーはこのサービスに統合するために、11年4月に買収したゲームユーザー間をつなぐネットワークであるOpenFaintのサービスを昨年12月に中止しました。
このサービスプログラムは、無料で提供されており、どのゲームにも簡単に組み込むことができるプログラムです。ユーザーのスコアランキング、他のユーザーとのやりとりができるといった仕組みを持っていました。ただ、同様の仕組みをアップルがGame Centerというサービスの提供が開始されたことで、事実上、アンドロイド端末向けの展開が中心になり、立場が脆弱になっていました。
グリーは、Open Faintをグリープラットフォームに統合すると同時に有償化し、利用企業から10〜20%のマージンを求めるという仕組みにしました。これは買収時から、無償で利用していた多くのゲーム開発会社が、最も懸念していた展開でした。この方式が採用された場合、アップルやグーグルにマージンを30%支払っているのに、さら追加で支払うメリットがないと考えられています。
グリーは、マージンを支払うメリットとして、OpenFaint への登録ユーザーが9000万人近くいるため、ユーザー登録のための導線としての強力さをアピールしていたようですが、その効果はまったく信頼されていませんでした。
また、グリーは「神撃のバハムート」に似た、HTMLベースのファンタジーをテーマにしたカードバトルゲームをアメリカで積極的に展開しているところですが、ユーザーの一人あたりの獲得コスト(ダウンロードして一度でも起動してくれるユーザーコスト)が、6ドルに及んでいると指摘がありました。
大半がバナー広告などの広告宣伝費に使われます。北米での一般的な相場観は、1ドル〜1.5ドル程度です。しかし、それでも、グリーのゲームは、ランキングの上位に入ることができず、コストに対して、結果がついて行ってないと見なされています。そのため、北米でのグリーの展開はかなり厳しい状態に置かれていると想像されます。
一方のDeNAについては、評価を保留にするところが多かったです。事実上、Mobageは、すでにオープン化したグローバルプラットフォーム化戦略を、昨年春には、事実上中止しており、自社との提携タイトルに注力するパブリッシャー的な立場へと切り替えたためです。
そのため、展開した経験のある企業が少なかったことも要因のようです。どちらにしても現状、日本のモバイルゲームのプラットフォームを積極的に利用したいという声は聞こえてきませんでした。
■まとめとして―F2P以外の選択肢がなくなりつつある
家庭用、モバイルに関係なく、多くの企業がF2Pというアイテム課金モデルが中心になり、特にスマートフォンでは、これ以外に、収益を上げる方法はないと考えられています。日本で、ガンホー・オンラインエンターテインメントの「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」が大ヒットしている状況は、北米にも伝わり関心を持ってみられています。HTMLベースのカードバトルゲームに比べて、きちんと評価できるゲームと考えられているためです。
一方で、「パズドラのアイデアコピーは氾濫していないのか?」とも質問を受けました。北米のソーシャルゲーム会社の基本戦略は、ヒットタイトルが出たら速やかにアイデアコピーを行い、広告を積極展開することで、ユーザーを獲得するというものだからです。特に、Facebookで成功したジンガはその戦略を積極的に採用していました。そのため、この質問は、今後の北米企業の動きを暗示するものと言えるかもしれません。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin