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2012年12月第1週号
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2012年12月第1週号

2012-12-03 10:49
    めるまがアゴラちゃんねる、第020号をお届けします。
    発行が遅れまして申し訳ございません。


    コンテンツ

    ・「ゲーム産業の興亡」(30)08年に登場するゲームビジネスモデルの根本的な変化

    ・『世界金融バブル 宴の後の二日酔い』藤沢数希氏×池田信夫
     第三回「邦銀が日本国民に押し付けている財政破綻というテール・リスク」(その1)

    アゴラは一般からも広く投稿を募集しています。多くの一般投稿者が、毎日のように原稿を送ってきています。掲載される原稿も多くなってきました。当サイト掲載後なら、ご自身のブログなどとの二重投稿もかまいません。投稿希望の方は、テキストファイルを添付し、システム管理者まで電子メールでお送りください。ユニークで鋭い視点の原稿をお待ちしています http://bit.ly/za3N4I

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    特別寄稿:

    新 清士
    ゲーム・ジャーナリスト

    「ゲーム産業の興亡」(30)08年に登場するゲームビジネスモデルの根本的な変化

    ゲーム産業にとっては重要なターニングポイントは、1983年の任天堂「ファミリーコンピュータ」の発売だ。ゲームハードウェアとソフトウェアとを分離してゲームビジネスの展開が進むことが確定的になった。一方で、現在の大きな変化が現れるのはソーシャルゲームが現れる08年だ。家庭用ゲーム機産業のビジネスモデルが登場して、25年あまり後に、ゲーム産業の根本が揺れることになる。


    ■08年の変化を確定させるフェイスブックとiPhone3G

    07年5月、ソーシャルネットワークサービス(SNS)のフェイスブックが「オープンプラットフォーム化」を行うという記者発表を行った。当時のフェイスブックは、2400万ユーザー、毎日15万ユーザーを獲得し、急激に広がりつつあった。ただ、現在と違い、ほとんどがアメリカでの利用者であり、かなり色彩が違っている。

    フェイスブックへの初期投資家の一人でもあった、マーク・ピンカス氏は、この情報をアナウンス前に獲得することができる立場にあった。そして、4月にSNS上のゲームサービスにターゲットを絞ったジンガを設立している。
    そして、7月に、ジンガの最初のゲーム「テキサス・ホールデム・ポーカー(ジンガポーカー)」をリリースしている。これはネットワークでの対戦要素を組み合わせたシンプルなポーカーゲームだ。既存のゲームポータルサイトなどに、類似のゲームサービスは存在していた。それを一番乗りで、フェイスブックという新しく急成長しているSNSに対応させた。

    それがもたらした優位性は、現在も変わっていない。ジンガ全体では3億人のMAU(Monthly Active User/月間アクティブユーザー)を獲得しているが、毎月様々なゲームが登場して、人気が上下するが、常にジンガポーカーは3000万人以上のユーザーを安定的に獲得している(12年11月は3400万人)。
    すでに、既存のサービスで人気のあるゲームとわかっているものを展開したために、結果的にフェイスブックの急成長による恩恵を大きく得られることができたのだ。ある意味では、アイデアのコピーを行って、フェイスブックという新しいプラットフォーム上に、付加価値を付けて迅速に展開したことが成功に結びついたとも言えるだろう。

    そして、08年1月、フェイスブックが「Facebook API“JavaScript Client Library”」を公開。企業やユーザーを問わず、フェイスブック向けの自由にアプリケーションを自由に開発して公開できるようにした。それにより爆発的な数のアプリケーションがフェイスブック向けに開発され、SNSは単なるユーザー間のコミュニケーション環境なだけではなく、にわかにアプリケーションを展開させることが可能なソフトウェアプラットフォームとしての地位を獲得する。
    それがさらに急激にユーザーを集めるきっかけになるが、同時にキラーアプリケーションはゲームだった。「SNS上で動くゲーム」という意味でのソーシャルゲームの時代の始まりだ。

    また、08年は6月にアップルから「iPhone3G」が発表され、スマートフォンの時代も幕を開ける。アップルは「App Store」という、企業を問わずにアプリを開発して、全世界に対して自由に価格設定をして配信できるオープンプラットフォーム型のネット流通システムを7月の発売と同時に開始した。

    そのため、08年は、ゲーム産業にとって重要な転換点となる。フェイスブックとアップルによってもたらされた新しいビジネスモデルは、世界全体のゲーム市場のあり方を根本的に変えていくことになるからだ。この動きはアメリカのみならず、同じビジネスモデルの概念は世界中に広がった。日本ではフィーチャーフォン上で、DeNAやグリーが同じビジネスモデルの展開を行い、欧州でも独自のソーシャルゲームプラットフォームやソーシャルゲーム開発企業の登場を引き起こした。


    ■ソーシャルゲーム普及前夜の初期条件

    この08年の登場の前に、ソーシャルゲームが普及するための初期条件が揃ってきたことで結果的に爆発が起きたと考えられる。その条件を下記の4つにまとめたい。

    (1)高機能化した家庭用ゲーム機向けゲームの開発コストの限界
    家庭用ゲーム機向けゲームは、06年の「プレイステーション3」、「Xbox360」世代に入って、表現能力の向上に伴い開発費の高騰に苦しんでいた。2年あまりで、30億円以上の開発費という状況が一般化し、全世界での数百万本のヒットしすることが前提条件になっていた。そのため、資本力に技術力のある企業でなければ、開発は難しくなった。
    また、そうした企業でも、リスクが大きすぎるために、続編以外の開発が難しくなった。結果的に、それは市場に閉塞感をもたらしていた。

    (2)ネット流通の発展(通信費固定・ダウンロード速度向上)
    各家庭に月額固定のブロードバンド回線が普及し、回線速度が向上したことによって、ネットを通じてのデータのやり取りが容易になった。ユーザーは自分の望む情報を容易にアクセスすることができるようになった。ゲームを遊ぶ上で、DVDなどの物理メディアが必須という状況がなくなった。

    (3)安定的かつ確実な少額課金決済システムの登場
    クレジットカードによる電子取引の普及、携帯電話キャリアによる決済システム、電子マネー、PayPalなど、100円単位での少額課金決済を可能にするシステムが一般に浸透するにつれて、アイテム課金のビジネスモデルの登場を用意した。

    (4)コストをかけてゲームを行いたくないがゲームを遊ぶ潜在ユーザーの存在
    長時間テレビの前に座ってゲームをするだけではなく、年齢が上昇していったことで、かつてゲームをやっていたが現在ではやらなくなった休眠ユーザーや、短時間であれば遊びたいと考えている潜在ユーザーが増加していった。この層は、任天堂が「ニンテンドーDS」や「Wii」によって開拓された層と重なる。


    ■ソーシャルゲームの優位性

    一方で、家庭用ゲーム機に比較して、ソーシャルゲームの優位性は、下記のようにまとめられるだろう。

    (1)オープンビジネスモデル ―参入障壁の低下によるイノベーションの加速化
    (2)開発生産性の向上 ―開発コストの低下に対してリターンが大きい
    (3)フリーミアムモデル ―無料でユーザーが惹きつけられ、アイテム課金
    (4)データマイニング ―ユーザーが何を望んでいるのかを的確に把握、収益化

    08年以降、ゲーム産業はまったく新しいルールに入った。


    □ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。また、既存の執筆記事情報をまとめたサイトもスタートしました。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ ご参照いただければ幸いです。

    新 清士(しん きよし)
    ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
    Twitter ID: kiyoshi_shin



    世界金融バブル 宴の後の二日酔い
    藤沢数希×池田信夫

    2.邦銀が日本国民に押し付けている財政破綻というテール・リスク(その2)

    藤沢:CDS(Collateralized Debt Obligation)自体は、別に一般的なデリバティブ商品なんですけど、要は使いようで。CDSって、債券の倒産保険みたいなデリバティブなんですけど、100億円の債券があってCDSでこの100億円をヘッジしようと思ったら、例えば毎年1億円ずつCDSプレミアム、要は保険料を払わなきゃいけない、と。
     この債券が全部紙屑になっちゃったら、CDSを買ってた人が売ってた人から100億円補償が貰えるっていうのが、そのCDSのデリバティブなんです。
     AIGという保険会社は、CDSをいろんなところに売りまくるというビジネスをしていた。それでCDSの売りというのは、補償対象の債券が紙屑にならなければ儲かり続けるわけです。チャリンチャリン保険料が入ってくるから。
     それでAIGは莫大なCDSの売りポジションを取っていて、そのCDSのトレーディングをする部署のトップのカッサーノさんって言うんですけど、その人は300億円くらいボーナスをもらって、おかしくなったらすぐ辞めちゃって、お咎めなしですよね。

    池田:たかだかクビになるくらいで済むんですよね?

    藤沢:そうそう(笑)。それでAIGは10兆円くらいやられたのかなぁ。それが、史上最大の公的資金注入とFRBの救済融資で結局救われて……。
     AIGは金融危機で紙屑になった債券が多くなってきたから、いろんな債券をどんどん補償しなきゃいけなくなって、もしAIGがつぶれたら、それで補償を受け取れると思っていた他の金融機関、例えば、ゴードマンとか欧州の金融機関は、自分がヘッジしていたと思っていた債券が、実はAIGがつぶれたからヘッジされてなかった、ということになってしまう。
     だから、AIGがつぶれたら他の金融機関も連鎖破綻しちゃうわけですよ。AIGっていうのは、自分たちもモラルハザードだけど、AIGと取引していた他の多くの金融機関も、社会にリスクを押し付けて、自分たちが儲けていたわけですよ。
     ある意味では、みんな合理的に行動してて、そもそも儲かってたら別にあんまり特に深く考えないし、基本的には自分に不利なレギュレーションとか、自分に不利な商慣習とかは一生懸命直そうとするけど、自分に有利なことで、別にだれも気付かなかったら、それが社会全体には良くなくても、普通は放っときますよね。民間のプレイヤーだったら。

    池田:ラジャンが言ってたように、これはみんなが意識してるかしてないかは別にして、とにかく確率は非常に低いけど、ものすごく大きな「テールリスク」を取ってるんだと。

    藤沢:テールリスクも、ヘッジファンドとか個人投資家が取るなら別にいいんです。それは自己責任だから。失敗したら税金で面倒見なきゃいけない巨大な金融機関が、そういうモラルハザードをして儲けるのは、おかしいですよね。

    池田:日本の場合これから懸念されるのは、さっきおっしゃったように、邦銀が同じビジネスモデルで、日本の財政破綻という、今度はもっと大きなリスクを取ってるわけですよね。

    藤沢:だから、外資系の金融機関が、サブプライムで作った金融商品やCDSとかでやっていたことを、日本の銀行は、日本国債でやってるわけですね。儲けは自分のもの、大損したときは、国民が尻を拭う、というね。

    池田:それはCDSよりはるかに危ない賭けですよ。

    藤沢:規模的にいったらあのリーマンショックとか、ユーロ危機とかよりも大きな激震が走るでしょうね。
     日本国債がいつかは暴落するっていうのが何十年も前からテーマになっていて、いまのところは日本国債が暴落するのに賭けていた人はみんなやられたわけですよ。むしろ日本国債の値段は上がり続けたわけで。もうこれはいつになるかはわからないですけど、持続可能ではないですよね。だからいつか何か起こるわけですよ。

    池田:恐らく普通にソフトランディングするのはまあ無理なんじゃないかっていうのが大方の見方ですよね。

    藤沢:もし本当にそれが大方の見方だったら、その予測が実現される形ですでに価格に織り込まれてるわけだから、まあ基本的には十年とかそんな単位ではまだ大丈夫だと、みんな思っているわけです。そういう意味では、大方の見方ではないですね。実際に、日本国債の金利はすごく低いわけですから。

    池田:短期的にはいいかもしれないけど、そういう楽観論が落ち着いて財政破綻が来るのは、たぶん時間の問題ですね。

    藤沢:別に日本の財政が破たんすることまで、金融機関で働いてるサラリーマンは考えてもしょうがないわけだから、破たんするまで儲かり続けるんだったらやっぱり合理的なんですよね。破綻したときは、国民に押し付けられるわけだから。

    池田:日本の銀行員のサラリーマンとしての人生から考えたら、ノーリスクで1%の利ざや取れるって、こんなおいしい仕事ないよね。

    藤沢:サラリーマンとして考えたら、財政破綻に賭けて、みんなの反対をやって、毎年毎年損して、ある日突然得するっていうようなポジションは、非常に取りにくいですよね。だって毎年毎年怒られて、3年ぐらいずっと損し続けたら席がなくなっちゃうわけだから。
     まあ、日本の銀行だと、首というよりも左遷でしょうけど。基本的には、毎年毎年儲かって、ある日突然何か起こったら、バンザイする、というのがとても合理的な戦略になります。

    池田:そのときは業界みんなワーってなるから別に自分の責任じゃない(笑)。これは、サラリーマンとして合理的に行動してる。邦銀は完全にそんな感じですよ。

    藤沢:そりゃあそうでしょ。だって別に儲けたからって何億円ってボーナスもらえるわけじゃなくて、みんなと違うことやるインセンティブが全くないですからね。

    池田:そうだよね。あのリーマン・ショックで起きたことのちょっと変形版が、あと十年くらいの間に日本でまた起きるかな、と。

    藤沢:いつ起きるか予想するのは難しいですが。


    ※次の章へ続く。
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