めるまがアゴラちゃんねる
2014年4月第4週号
めるまがアゴラちゃんねる、第087号をお届けします。
配信が遅れまして大変申し訳ございません。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(99)
ゲームプラットフォーム化を単独で目指す「Unity
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(99)
ゲームプラットフォーム化を単独で目指す「Unity
■Unityはどこかの買収を受け入れるつもりはない
格安のゲームエンジンの販売によって、この5年余りの間に、急激な世界シェアを取ることになった、ユニティ・テクノロジーズ(サンフランシスコ州)は、今後、どこに自らの成長の機会を探っていくのだろうか。2011年には、ベンチャーキャピタル3社から、1200万ドルの投資を受けているが、その後は、独自に収益を出すことによって着実に成長を上げているようで、追加の投資を受け入れてはいない。
4月7日に、来日したデイヴィッド・ヘルガソンCEOのインタビューの機会を得たが、「どこかの買収を受け入れることは、ありえない」と私自身の質問に対して述べた。
3月27日に、Facebookにより、ヘッドマウントディスプレイ型の3D立体視デバイスOculus Riftの開発販売を行うOculus VRが、20億ドルで買収されたこともあり、すでに利益を明確にあげていると見られているUnityは、より高額な時価総額の評価を受ける可能性は十分にある。
そのため、多くの企業が買収を受けるのではと、懸念している点でもある。
Unityは多様なハードウェアデバイス環境に対応しているところが最大の強みだ。Facebookだけでなく、「プレイステーション」のソニー・コンピュータエンタテインメント、「WiiU」への任天堂。iPhone、Android端末を問わずスマートフォンへの対応。Windows、Mac、HTML5など。すでに提携している企業が多いため、Facebookのような「特定のプラットフォームと独占的な資本関係を結ぶことはない」(ヘルガソン氏)というわけだ。
Oculusの場合は、まだハードウェアが開発途中で、今から販売に至るまで、まだまだ多額の研究投資資金を必要とすると思われるため、立場の違いが大きいと思われる。
■3Dツール企業の先行事例Autodesk
ただ、それではUnityはどこへと向かうのだろうか。ゲーム開発ツールとしては、市場の独占状態に近いツールとなっている。利用されている領域も、ゲーム以外に広がりを見せ始めている。Unityのリアルタイム3D表示の強みを活かして、建設前の家や、その室内を3D で見せたりするようなツールも登場してきている。
しかし、3Dツール販売だけでは、成長を続けるには限界にぶつかると思われる。200万人以上のユーザーが利用しているとはいえ、Unityの場合は、1ライセンスの単価が安いためだ。
3Dツール技術によって、上場にまで成功している企業はある。1982年創業の老舗企業のAutodesk(カルフォルニア州)だ。
業績は2012年1月期決算で、売上22億1000万ドル。時価総額は18億8000ドルで、従業員数は世界7500名だ。「AutoCAD」というソフトの開発を行い、法人向けを中心にビジネスを展開してきた。90年代には、積極的に事業拡大を推し進め、製造分野、建設分野、電気分野など様々な企業に導入されることに成功し、同社の揺るぎない立場を作り上げることに成功している。
映画やゲームに関連する分野では、「3D Studio Max」のディスクリート、「Maya」のエイリアス・システムズ、そして、08年に「SOFTIMAGE XSI」のソフトイマージを買収している。この3種類のソフトウェアは、ディファクトスタンダード的な存在で、そのすべてを手中に入れており、事実上の独占状態にある。
映画「アバター」は「3D Studio Max」を中心的な技術として利用して撮影が行われた。映像のためのCGモデルの作成、アニメーション、合成など、様々な使われ方をしている。日本のゲーム会社でも、一般的にこのツールが使われる。
Autodeskは2DのCADや映像作成が中心であるため、リアルタイム3Dを中心としているUnityとは、現状ぶつからない。
また、大手企業を相手にしているため、製品は数十万円から数百万円と、高い価格設定でライセンス販売できるため、市場シェアを維持することができていれば、利益を生み出しやすい。それでも、いずれUnityとAutodeskの市場は重なり始める可能性は十分にある。
■ゲームプラットフォーム化を狙う?
ただ、現状、Unityは性能の高いAutodeskの製品と競い合うという方向に戦略の中心をおいてはいないようだ。まだ、はっきりとその姿勢を示してはいないが、単なるツールだけではなく、ゲームそのものを販売する「ゲームプラットフォーム」となる可能性を積極的に狙い始めてきているようだ。
3月14日に、スマホゲーム動画共有サービス「Every play」のApplifier(フィンランド)を買収したことを発表した。これはUnityのプログラム内にプログラムを組み込むことで、ユーザーは、スマホ向けゲームの遊んでいる動画を撮影し、それをネット上にアップロードして、他のユーザーと共有できるという仕組みだ。これを、同社が展開しているネット上の広告ネットワークと連動させている。
Unityは、単にゲームの開発ツールとしての展開にとどまるのではなく、広告宣伝にまで進出を始めようとしている。いずれ、iPhoneのAppStoreや、GoogleのGoogle Playといったコンテンツ配信サービスにまで、進出する準備を進めていると考えられる。Unity自身のライセンス料金を引き上げることは容易ではない以上、コンテンツ販売を通じて、手数料を獲得するというのが、最も戦略としては合理的と考えることができる。
ツールを販売するだけではなく、ツールで開発されたゲームをすべてUnity上で販売可能にする仕組みを整える。多くの他のゲームプラットフォームとの競争にはなるが、ユーザーとの間の市場を押さえた場合の利益への期待度は大きい。はっきりと、そういう方針を口にしているわけではないが、周辺の技術を持つ企業を、今後より積極的に買収する展開をしてくだろうと、私自身は見ている。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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