めるまがアゴラちゃんねる、第101号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(112)
有利な条件を揃えた中でのLINE上場への動き
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(112)
有利な条件を揃えた中でのLINE上場への動き

7月15日、スマートフォン(=スマホ)向けの無料通話&メッセンジャーアプリの「LINE(ライン)」が、今年の年末に東京証券取引所に上場を申請したことが明らかになった。

LINEのサービス開始は11年6月、サービス開始から3年が経過している。利用ユーザー数は国内で5200万人、世界合計で4億8000万人に達している。時価総額が1兆円規模に上るとみられている。


■カカオトークのコピーとしてスタート

LINEは、元々は韓国発のスマホ向けテキストメッセンジャーアプリ「カカオトーク」のアイデアをコピーする形でスタートしている。10年3月にリリースされたこのアプリは、無料通話機能やスタンプ、ゲームのランチャー機能といったアイデアは、このアプリに組み込まれていた。

すでにこの技術ノウハウは04年のSkypeがパソコン向けにリリースされていたことで、陳腐化しているが、それをスマホ向けに一般のユーザー向けにわかりやすいインターフェイスを作り込んだことが、このアプリの成功を生みだしたと言えるだろう。韓国では同類アプリでは93%がカカオトークという独占状態に近い地位を築いている。

しかし、海外展開は、日本市場をまず押さえ、さらに東南アジア市場を押さえることに力を入れているLINEに比べて出遅れている。利用ユーザー数は全世界1億4000万人と推定されている。

12年10月には、ディー・エヌ・エー(DeNA)がLINEと類似のサービス「comm(コム)」を立ち上げ、日本で先行するLINEへの追撃を見せようとした。差別化のポイントが音声通話の音質が高いというものだった。

しかし、LINE側は大きく宣伝を行ったりはしなかったが、音声品質の向上にはかなり力を入れたようで、その後、音質的な差はなく、むしろ、LINEの方が高い考えられる評価を得られるようにもなった。commは積極的に、広告宣伝を通じて、LINEからユーザーを獲得しようとしたが、その試みは成功しているとはいえない。

LINE、2月の発表で、2013年10月〜12月期売上高を前の四半期比20%増の122億円、前年同月比で450%増と発表している。LINE事業の2013年通期の売上高は343億円で、売上高の構成はゲーム課金が約60%、スタンプ課金が約20%としている。LINEは明らかにしていないが、無課金の無料通話の部分は赤字であると考えてよい。

また、東南アジア、南米、欧州の一部に広がりつつあるとは言っても、売上を実際に出しているのは、日本の市場が中心でもあるだろうと考えられる。


■圧倒的なLINEの口コミ導線

LINEは多くのユーザーが利用すれば利用するほど、特定のプラットフォームへの利用が進むネットワーク化現象のメリットを受けている。LINEの強みは多数のユーザーを抱えていることによる、圧倒的な口コミ導線だ。LINEは自社のサービスを利用しているユーザーに対して、新規サービスが開始したりしたときに、必要な費用をゼロで告知することができる。

新規ゲームをヒットさせることは、スマホゲームの開発費と広告宣伝費の高騰により、ますます難しくなってきている。そのため、あらかじめ自分たちのユーザーを抱え込むことができている企業が優位に立てるという状況が続いている。

その圧倒的な有利な立場に立っているのだ。

アップルのアップストアでの、NAVER JAPANで登録されているトップ売上ランキングのうち、100位以内に入っているタイトルは9タイトルに及ぶ(7月21日現在)。「LINEツムツム」「LINE POP」「LINEポコパン」など、主力タイトルは、ルールが複雑でなく、1回のプレイが1分程度で終わるわかりやすいパズルゲームだ。女性にアピールしやすい、わかりやすさに注意が行われているように思える。

無料でも十分に遊ぶことができるが、有料のアイテムを購入することで、パズルを進める上で有利な能力を持つキャラクターを得たりすることで、多くの得点をより稼ぎやすくなるなど成長要素が与えられている。

特に「LINEツムツム」はディズニーのキャラクターを可愛らしいぬいぐるみのようにアレンジし、それが空から振ってくるのをなぞって消していくというシンプルなアイデアのゲームだが、売上では今年1月に登場してから、常に5位以内に位置付けているヒットタイトルになっている。

映画「アナと雪の女王」のキャラクターを「限定のガチャ」で手に入れる事ができるというキャンペーンを行っており、テレビCMも流している。

「ツムツム」のガチャは、特殊な能力を持つディズニーのキャラを手に入れるところに課金する仕組みになっており、1回に300円のものか、600円のプレミアムかを選ぶことになる。キャラクターのかわいらしさから、ついお金をかけてキャラクターを集めようとさせてしまうために、ガチャを引かせてしまう魅力がこのゲームの人気を支えている理由だろうと思われる。


■ライバルの中国「WeChat」とフェイスブック「WhatsApp

LINEのライバルは、中国では世界最大のゲーム会社でもあるテンセントが展開を11年1月始めた「WeChat(微信)」も3億人以上のユーザーを抱えている。また、LINEと同様にゲームサービスの展開を開始している。

また、アメリカでは、フェイスブックの「WhatsApp」がある。昨年12月の段階で4億人となっており、成長のペースはLINEに近い。フェイスブックのメッセンジャー機能との明確な差別化ができておらず、ゲームサービスも立ち上げることに成功できていないため、現状では、LINEの方が有利とも見えるが、LINEのアメリカでの浸透度は低い。

しかし、スマホの事業を展開する上で、今年から来年にかけてが、世界的に勝つことができるサービスが決まってくることになるだろう。そういう意味では、今年年末の上場で得た資金で、更なる国際展開が進むかどうかが注目を受けることになる。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin