主張
日銀総裁人事
無制限の金融緩和認められぬ
安倍晋三政権が示した日本銀行の新しい総裁と2人の副総裁の人事案の承認が国会で採決されます。総裁候補の黒田東彦(はるひこ)前アジア開発銀行総裁、副総裁候補の岩田規久男学習院大教授と中曽宏日銀理事の3候補は国会での所信聴取で、安倍政権がすすめる「無制限の金融緩和」に全面賛成を表明しました。「2%の物価上昇」が国民生活に及ぼす影響を顧みようとせず、「金融緩和」で物価上昇に突き進もうとしています。到底認めるわけにはいきません。
「物価安定」に反する
日銀法は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」と理念を定めています。日銀が行う金融政策は国民の暮らしに大きな影響を与えます。かじ取りに責任を負う総裁・副総裁にはこの理念に照らしてふさわしいかどうかが問われます。
衆参両院での所信聴取で黒田氏は、安倍政権の政策を「方向は正しい」と持ち上げた上で、「『デフレ』脱却に向けてやれることは何でもやる」と述べました。日銀が現在、金融緩和として行っている国債などの金融資産購入について「規模と対象はまだ十分ではない」として大胆な金融緩和の必要性を強調しました。岩田氏も「今まで以上の量的緩和をすすめる」と表明しました。
安倍政権が持ち出した「異常な金融緩和」は、「2%の物価上昇」を目標に、「無制限の金融緩和」をすすめるというものです。市場にお金をバラまけば物価が上がるという口実で、日銀に市中からの国債などの買い上げや通貨の供給増を行わせます。こうした人為的な物価引き上げ政策が「物価の安定」という日銀の目的に反しているのは明らかです。
だいたい「異常な金融緩和」による「物価の上昇」が「デフレ不況」を打開し「経済の健全な発展」を実現することになるのか。日銀は2001年以降、大幅な金融緩和策を進めてきましたが、市場に供給されたお金は借り手がないため金融機関などにとどまったままです。その一方、大企業の賃下げや「リストラ」で国民の所得は減り、消費も落ち込んだため、「デフレ不況」の悪循環に陥っています。「異常な金融緩和」を続けても、「デフレ不況」から抜け出せないというのが現実です。
金融緩和でだぶついたお金が投機に回り、原油や穀物価格高騰に拍車をかけることも懸念されています。安倍政権が推進する「アベノミクス」による急激な円安で燃料や輸入原材料などがすでに値上がりしています。このまま「2%の物価上昇」を目指せば、賃金は伸びないのに生活必需品だけが上がるという、最悪の事態を招きかねません。
潤うのは大企業と富裕層
「デフレ不況」の原因は国民の所得が減り消費が落ち込んでいるからです。「デフレ不況」の打開には国民の所得を増やす抜本策をとるべきです。
日銀が政府の言いなりに「無制限の金融緩和」を推進するのはやめるべきです。「金融緩和」策に固執する3人の候補者が日銀の総裁・副総裁にふさわしくないことは明白です。安倍政権と日銀の異常な金融政策をやめさせ、国民の所得増による「デフレ不況」の打開へ政府の責任を果たせることが不可欠です。