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検証 巨大メディアと総選挙報道
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検証 巨大メディアと総選挙報道

2012-12-29 11:15

    世論を誘導し選挙の公正汚す

    検証 巨大メディアと総選挙報道

     野党転落時の前回総選挙(2009年)よりも比例、小選挙区とも大幅に票を減らした自民党が「圧勝」した今回の総選挙。民意をゆがめる小選挙区制と並んで、巨大メディアの報道ぶりが、この結果に大きな影響を与えました。巨大メディアはいかに世論を誘導し、選挙の公正を汚したかを検証します。

    公示前 「第三極」の動き垂れ流す

     衆院が解散された11月16日から総選挙が公示された12月4日までの巨大メディアの報道の最大の特徴は、日本維新の会や未来の党などの「第三極」の動きを細大漏らさずに取り上げる「政局報道」に終始したことです。そして、それを民主・自民の「二大政党」に対する“対抗軸”であるかのように描きました。

     たとえば「朝日」「読売」「毎日」など全国紙の解散から1週間の紙面をみると、1面や特集面・政治面の政治ニュースは判で押したように、民主・自民の「二大政党」モノと、維新・太陽など「第三極」モノの組み合わせです。

     とくに「第三極」の動きは、「維新・太陽合流へ」「石原代表、橋下代行」「維新、みんなに合流打診」「維新・みんな合流破談に」などと1面や特集面で大々的に垂れ流しました。そのうえ1週間ごとに「比例投票先」として「自民○%、民主○%、維新○%」の見出しが1面トップを飾り、有権者を誘導しました。維新が1けた台でも大見出しになる異常さでした。

     巨大メディアは「総選挙は民主、自民、日本維新の会など第三極による三つどもえの構図が強まってきた」(「朝日」11月19日付)などと「三つどもえ」の構図を描き、ニュース報道までそれにあてはめ、それ以外の政党はほとんど報じさえしない態度をとりました。

     維新の会は消費税増税、原発推進、環太平洋連携協定(TPP)推進と、政治の中身では古い自民党政治と変わらない政策を掲げていました。しかも、自主憲法制定や石原慎太郎代表の「核シミュレーション」発言など、これまでの保守政党にない特別の危険性をもっていました。こうした本質をほとんど報じることなく、「既成政党」への“対抗軸”と描くことによって、真の対立軸を有権者の目から隠す役割を果たしました。

     同時に、自民党が「次期政権」を担うことを当然視するような報道も目立ちました。同党が公約を発表すると、「読売」は3日にわたって1面トップなどで大々的に報道。論戦も「2%物価目標」や「国防軍」といった同党の政策を中心に報じました。こうした報道が自民党「圧勝」を後押ししました。

     日本共産党は、「アメリカいいなり」「財界中心」という自民党型政治の転換を訴え、明確な対抗軸を示していました。しかし、巨大メディアは、解散後、日本共産党の主張・動向をほとんど報じず、わずかに報じた際には「埋没恐れる中小政党」などとやゆしたのです。

     公示間際に、嘉田由紀子滋賀県知事が新党結成を発表すると、なんの実績もなく、国会議員も当初は存在しなかったにもかかわらず、トップで報道。未来の党を含め、民主、自民、維新の「4極」報道に終始していきます。たとえば、11月末、主要政党の公約が出そろった際、「競う4党 公約交錯」(「朝日」11月30日付)、「民自、原発・金融で対決/維新、消費税『地方税化』」(「読売」)などと4党に限って報道。政策対照表まで4党に限定しました。「毎日」12月1日付は1面トップで「11党首直接対決」としながら、サブタイトルは「民自・第三極が討論」としました。

     この点では、「脱原発」をめぐる政党の“本気度”を恣意(しい)的な基準で報じた「東京」も「衆院選4党中心」「未来がリベラルのとりで」(12月3日付)など異常な肩入れをしたことも指摘しておかなければなりません。

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    公示後
     「政権の枠組み」論で真の対決隠す

     衆院選公示後は、マスメディアにはいっそうの公正性が求められます。しかし、政権を担うのは民主か、自民か、「第三極」との連携か、という「政権の枠組み」が最大の争点だと描く構図は公示後も貫かれました。

     「政権枠組み焦点 第三極の伸長カギ」(「朝日」)、「民・自政権かけ対決 維新・未来の伸長焦点」(「読売」)、「民・自・第三極が軸」(「毎日」)―いずれも公示日4日付の夕刊1面です。「毎日」5日付は「政権枠組み焦点に」としました。

     「日経」もふくめ4全国紙やNHKなどの巨大メディアが、そろってほぼ同じ見出しを掲げています。

     中の面でも「民自政権攻防戦」「第3極無党派票争奪」(「読売」)、「乱立後どう連立」(「朝日」)、「三つどもえ過熱」(「毎日」)=いずれも4日付=として、民主、自公、維新、未来各党の動向を報じました。

     こうした構図が、「ただちに政権にかかわらない政党」を国民の視野の外に置き、選択肢から排除する役割を果たしました。

    争点ものでも

     民主、自民、維新、未来の4党に軸を置いた報道は、各党の動向を伝えるニュース記事にとどまりません。

     選挙区ドキュメントや個別の争点を考える企画記事でも、この4党が重点的に取り上げられています。とくに「読売」は徹底しており、「衆院選ドキュメント」「衆院選政策点検」など各面にわたって連日掲載された企画で、自民、民主、維新、未来以外は、記事にほとんどでてきません。見出し、写真、グラフも、この4党が重点的に使われました。

    出てこない対案

     それがもたらすものは、単にメディア露出の「量の問題」にとどまりません。民自公、「第三極」という「自民党型政治」の枠内の政党しかださないことで、その外にある真の対立軸がおおい隠されています。

     たとえば、「朝日」6日付の「公約を問う」という企画の中の財政再建を考える記事には、民主、自民、未来、みんな、維新しかでてきません。富裕層増税を論点にしながら、富裕層増税を主張する日本共産党はださず、「各党は財政再建の道筋を示していない」とします。

     7日付の社会保障を争点とする企画でも、共産党の財源論にはまったくふれずに、「多くの政党の公約は財源の根拠が乏しい印象がぬぐえない」「各党の理念と政策は入り乱れ、必ずしもきれいに対立軸は描けない」という、有権者の選択にほとんど役立たない記事に終わっています。

     こうした展望の見えない「袋小路」記事は、11日付の沖縄の基地問題、12日の生活保護問題なども同様です。

     同じことは「毎日」にもいえます。「選択の手引」という争点企画の経済政策を考える回(14日付)は「デフレ」脱却がテーマですが、登場するのは自民、民主、維新、みんなのみ。「国民の家計を温めて内需を起こす」という対抗軸はまったく出てきません。

    我慢」を説く

     真の対決軸を有権者に示さず、袋小路に追い込む記事ばかりなのは、各社の論説委員、編集委員自身が国民に「痛み」や「我慢」を押し付ける立場だからです。

     「朝日」13日付では編集委員が、政党選択の基準を「『ある程度の負担を背負うしかない』と正直に語っているかを見るしかない」「『悪さ加減』の比較考量」と座談。投票日前日の15日付では編集委員が「『痛み』を含めた政策を」と説きます。「毎日」は選挙中、論説・編集委員の論評を連続して1面に掲載。「国民に負担を求める決断から逃げない政治指導者が必要」と語ります。

     日本共産党が具体的に提起している消費税に頼らない別の道があることについては、ハナから眼中にありません。

    「議席予測」報道で選挙妨害

     巨大メディアは、公示前は「政局報道」を垂れ流したうえ、公示されると、すぐに「議席予測」報道を掲載。「朝日」「読売」が6日付、14日付で、「毎日」も6日付、11日付で自民党の「大勝」予測を報じました。

     ところが、「朝日」で、6日付の時点で「投票態度を決めていない人」が「小選挙区で半数、比例区でも4割」、14日付でも「小選挙区で5割弱、比例区で4割」いました。他も同様で、「東京」13日付は「未決定者は投開票日が近づくと大幅に減る傾向にあるが、今回は有権者が投票先を絞り込めないでいることがうかがえる」と指摘。有権者が最後まで模索し、悩んでいる状況は明らかでした。

     にもかかわらず、巨大メディアは選挙の大勢が決まったかのような「議席予測」報道を繰り返しました。一方では、政党の政策も4党に絞り込むなど不当な報道をし、さらには急造の新党の性格さえ定まっていないなかで、真の争点を覆い隠しました。こうした報道は、世論誘導といわれても仕方ないものでした。選挙をたたかう政党にとっては選挙妨害そのものです。

     日本ジャーナリスト会議も選挙中に異例の声明を発表。「自らによる世論調査で、『勝ち馬』意識を煽るバンドワゴン効果を広げようとしている」と批判(8日)。ジャーナリストの鳥越俊太郎氏も「メディアが選挙予測をくり返すごとに、自民の議席数が増していくという現象が発生した」「小選挙区制の問題でもあるが、世論調査の結果が一人歩きして世論に影響を与え、メディアが望む政権を誕生させている」(『週刊ポスト』2013年1月11日号)と指摘しました。

    テレビ 大政党の動静に関心を誘導

    6be3e9005c66853a4e063639d7394a194c4f8de2  この十数年間、テレビは自民か、民主かの二大政党報道をもっぱらとしてきました。その二大政党制が破綻してもなお、政策的に変わりが無くなった民主対自民の構図はそのまま。それに、維新などの同類同根の党を「第三極」と持ち上げる報道が吹き荒れました。

     こうした報道に、多くの市民団体が懸念を表明し、「公平・公正な選挙報道」をテレビに求めたことも今回の特徴でした。日本ジャーナリスト会議と放送を語る会は「民主党・自民党の『二大政党』と日本維新の会などいわゆる『第三極』の政治家の動向に重点を置く報道が異常なまでに続いています」(11月28日)と指摘しました。

     NHKを監視・激励する視聴者コミュニティは「政党の離合集散を追う政局報道ではなく政策本位の争点提示型報道を」とNHKに申し入れました(11月27日)。同会は、NHKのホームページが公開する政治ニュース(11月19日~25日)の種類・内容を分析しています。それによると、民主党関連が9件、自民が13件、自民と民主の応酬が16件と圧倒的に二大政党中心であることが分かります(表)。それに維新を加えたニュースは、全体の64%を占めていました。この間、日本共産党のニュースはゼロです。同会は「大政党の動静に有権者の関心を誘導し、投票行動にバイアス(偏り)を及ぼす恐れ」を警告しました。

     この傾向は公示直前にさらに加速します。NHKの夜の番組「ニュース7」。26日からの内容をみると、ニュース冒頭は判で押したように民主・野田、自民・安倍の両党首の動向です。次に「第三極」の動きを加えるというのが不動のパターンでした。

     今回、投票日直前に自民圧勝の「議席予測」を大々的に報じる大新聞に批判が集まりました。テレビでも新聞報道がそのまま番組の中で使われました。さらにNHKは、「野田総理大臣か自民党総裁のどちらが次期総理にふさわしいか」という設問自体が偏った電話調査結果を11月19日と12月3日に放送しています。

     選挙目当ての離合集散が続き、多党が乱立した中で、政策を伝えようという努力を感じる番組もありました。しかし、「政権の枠組みが焦点」とする大政党中心の報道が、「議席予測」報道とあいまって、世論を誘導し、選挙の公正を汚したことを、メディアは銘記すべきです。

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