主張

プロ野球の統一球

選手やファン軽んじた隠し球

 冷水を浴びせられるとはまさにこのことでしょう。プロ野球で使われている統一球(ボール)が公表されないまま変更されていた問題です。選手会労組から追及されるまで日本野球機構(NPB)が変えたことを否定していたのにくわえ、発覚したあとも加藤良三コミッショナーが「知らなかった」などと開き直りに終始したため、抗議が殺到しました。NPBは第三者機関を設けて調査するとしていますが、遅すぎます。プロ野球を統括する組織やその責任者として、選手やファンをあまりに軽んじ、愚弄(ぐろう)する態度です。

試合の様相に関わる

 全試合で同規格のボールを使用するプロ野球の統一球は、2年前に導入されました。昨年、反発係数が基準値を下回るボールが多かったことから、NPBはメーカー側に反発力を高めるよう指示したというのがことの始まりです。反発力を高めればそれだけ打球は飛びます。ところがNPBは、そのことを公にせず、メーカーにも口止めしました。NPBの下田邦夫事務局長は「知らせれば混乱を招くと思った」と言い訳しています。

 数字上はわずかな違いですが、グラウンドの様相はがらりと変化しました。セ・パ両リーグともに今季は昨年と比べて本塁打の数が5割以上増え、大量得点の試合も目立ちます。打者の打率が上がる一方で、投手の防御率は大幅に悪化しました。開幕直後から「ボールが変わったのではないか」という声が上がっていました。

 ボールは、バットとともに野球の根幹をなす用具です。スポーツ選手にとって用具は体の一部であり、プレーを大きく左右します。そこに勝手に手をくわえ、しかも黙っているとは、選手をないがしろにしているとしか思えません。選手会が「労働条件にかかわる死活問題」と憤り、「選手がバカにされている」(ヤクルト宮本慎也・元選手会長)と批判しているのは当然でしょう。

 選手の一投一打に声援を送るファンにとっても、競技の性格を変えてしまうほどの変更を、NPBが隠蔽(いんぺい)していたことは許せません。選手会の嶋基宏会長(楽天)は「知らなかったでは選手もファンも納得できない」と、加藤コミッショナーの責任逃れの姿勢を問題にします。ファンとしても思いは同じです。

 本来、コミッショナーをはじめNPBの役割は、公平・平等で選手が全力を発揮できる競技環境をつくり、プロ野球を支えるファンに開かれ、愛される球界にしていくことです。それに逆行する今回の事態は、みずからの存在意義を否定するものです。

責任持てる組織に

 プロ野球の実質的な決定権は、各球団の親企業のオーナーにあります。NPBは単なる事務局にすぎず、組織の責任者である歴代コミッショナーも官僚などの天下りで「お飾り職」といわれてきました。NPBやコミッショナーが役割を果たしていないことがプロ野球をゆがめていると指摘されてきました。

 加藤氏も駐米大使などを務めた元外務官僚です。しかし、もともと各球団が契約していた公式球を統一し、低反発のボールを提唱したのが加藤氏です。「知らなかった」ではすまされません。自ら責任を認め、NPBはこれを機に責任をもてる組織になるべきです。