憲法解釈の信頼損なう

 安倍内閣が解釈改憲で強行しようとしている「集団的自衛権」行使の容認について、政府の憲法解釈を国会で答弁してきた内閣法制局長官経験者から批判や異論が相次いでいます。世論調査で国民の多数が「集団的自衛権」行使容認に反対しているのに加え、与党内からの異論にも直面し、安倍内閣は深刻な矛盾に直面しています。

 「集団的自衛権」は、「自衛」とは無関係の概念で海外での武力行使を可能とするもの。大国が侵略や軍事介入する際の口実に使われてきました。歴代政府もその行使は「憲法上許されない」としてきました。

 安倍内閣はこれを可能にするため、憲法解釈を変更したうえ、安全保障基本法で裏付けようとしています。憲法研究者の小沢隆一さんは「解釈改憲は裏口入学のようなもの。そのうえ安全保障基本法をつくって集団的自衛権を行使できるようにしようというのは、いわば立法クーデターです」と指摘します。

 この解釈改憲に異論を表明したのが、阪田雅裕(まさひろ)、山本庸幸(つねゆき)、宮崎礼壱(れいいち)の法制局長官経験者の3氏。この間の記者会見や新聞社のインタビューなどで解釈変更は「難しい」「できない」などと明言しています。

 阪田氏は第2次・第3次小泉内閣時の長官。「朝日」(9日付)で「集団的自衛権の行使とは海外で戦闘に加わるということだ」と指摘。「集団的自衛権の問題は日本国憲法の三大原理の一つ、平和主義に関わる。…(国会の憲法論議の)蓄積を無視し、今までのは全部間違っていたということがあっていいのか」と語っています。

 今年8月まで長官だった山本氏(最高裁判事)も20日の会見で「今の憲法の下で半世紀以上議論され、維持されてきた憲法解釈であり、私自身は難しいと思っている」と発言。第1次安倍内閣時の長官だった宮崎氏は時事通信のインタビュー(27日)で「(解釈変更は法律上)ものすごく、根本的な不安定さ、脆弱(ぜいじゃく)性が残る。やめたほうがいいというか、できない」と語っています。

 海外の法制機関に詳しい鹿児島大の横大道聡(よこだいどうさとし)准教授は「仮に法制局が安倍首相のいいなりに憲法解釈の変更を認めてしまえば、憲法解釈の信頼性が根本から失われてしまうので、容易にのめる話ではありません」と指摘します。

 内閣法制局 内閣に置かれ、閣議にはかる法律案や政令案、条約案などの審査や法令の解釈を行います。また、法律問題について首相らに意見を述べることを任務としています。その長が内閣法制局長官です。