主張
長時間労働
大企業の残業時間が長すぎる
厚生労働省の労働政策審議会で労働時間法制を見直す議論が始まりました。労働時間の短縮が目的であれば歓迎ですが、そうではありません。6月に閣議決定した「日本再興戦略」にもとづいて、ホワイトカラー層の労働時間規制を緩和するのがねらいです。「企画業務型裁量労働制」の対象拡大など残業代を出さずに長時間働かせる労働者を増やす危険な方向です。
日本の労働時間は、パートを除いて年2030時間という世界一の長さです。大企業の時間外労働(残業)が長いのが原因です。大企業の残業を規制し労働者を守る議論こそ労政審の役割です。
過労死基準を超える
労政審での議論を前に、厚労省が4月から6月にかけて労働時間の実態調査を実施しました。注目されるのは、健康を害する“危険信号”である週60時間以上働く人が1割弱で、とくに30歳代が18・2%もいることです。これを月の労働時間に換算すると、厚労省が過労死基準としている残業が80時間を軽く超えます。30歳代の2割近くがこんな長時間労働になっているのは異常です。
労働基準法は、1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならないと定めています。しかしこれは建前で、同法36条で労使が協定を結べば、時間外労働が認められます(「36=サブロク協定」という)。厚労省は、協定を結ぶさい、月45時間、年360時間の限度基準を示していますが、拘束力がありません。しかも特別の事情があればさらに延長できる「特別条項」があり、これを使えば月100時間、年1千時間でも延長できます。これが日本が異常な長時間労働の国になっている原因です。
時間外労働は、大企業ほど長いのが実態です。厚労省の調査でも月の平均時間外労働は、大企業が26時間25分で、中小企業の15時間21分を上回っています。厚労省の限度基準である月45時間を超える比率は、大企業が17%で、中小企業の9%のほぼ倍です。年360時間超でみれば大企業は22・1%にのぼり、中小企業は9・7%です。「特別条項」がある協定締結も、中小企業の26%に対して大企業は62・3%です。
こうしたデータが示しているように、労働時間を短縮し、人間らしい労働と生活を実現するためには、大企業の時間外労働をいかに抑えるかが重要です。政府が「日本再興戦略」でめざす「企画業務型裁量労働制」などの見直し論議は、大企業の時間外労働をいっそう野放しにするものです。「過労死」する働かせ方が世界から異常な目で見られている日本の長時間労働を、さらに過酷にするような見直し論議は常軌を逸しているというほかありません。
残業上限の法制化を
長時間労働を是正するためにやるべきことは、まず時間外労働を年間360時間以内とすることをただちに法定化することです。手当の割増率は50%増にし、深夜・休日出勤は100%増にします。取得率が5割を下回っている年次有給休暇の完全消化を保障する措置や、EU(欧州連合)のように連続休息時間を最低11時間確保するなど、世界の常識をめざす議論をすべきです。ディーセント・ワーク(人間らしい労働)の実現をめざしている世界の努力に逆行してはなりません。