12日の衆院予算委員会で安倍晋三首相の靖国神社参拝や原発事故の避難計画についてただした日本共産党の笠井亮議員。過去の侵略戦争の誤りを認めず、戦後の国際秩序に逆行する安倍首相の政治姿勢や、危険な原発の再稼働にひた走る安倍政権の暴走に正面から対決しました。
笠井 靖国 大戦を“自存自衛”
首相は神社の立場の誤り認めず
靖国神社は、どういう立場・主張を国内外に発信しているのか―。笠井氏がまず示したのは、靖国神社の敷地内に建つ軍事博物館「遊就館」のパンフレットの記述です。日本の過去の侵略戦争を肯定・美化し、宣伝する特異な歴史観・立場を貫いています。
笠井 靖国神社はあの大戦を「自存自衛」「避け得なかった戦い」と主張し、それに殉じた「英霊」をたたえる施設だ。
首相 宗教法人の考え、歴史観にコメントすべきではない。(参拝で)「不戦の誓い」をした。
中国、アジア諸国への領土拡張と植民地支配をめざした日本の侵略戦争を「正義の戦争」だと考えているのか、間違っていたのか―。歴史認識を問いただす笠井氏にたいして、首相は「歴史観は歴史家にまかせるべきだ」とはぐらかすだけ。靖国神社の主張が「間違っている」と絶対に認めようとしません。
第2次世界大戦が終わってほぼ70年。日本、ドイツ、イタリアの戦争はいかなる大義も持たない侵略戦争であって、「繰り返してはいけない」というのが戦後の国際秩序の土台です。それは、植民地支配と侵略に反省とおわびをのべた「村山談話」(1995年)にみられるように、政府見解の到達点です。
笠井 首相の参拝は戦後の政府見解を崩し、侵略戦争を肯定・美化する立場に身を置くことを世界に宣言することになる。そういう認識はあるか。
首相 そういう認識はない。政治の場では、歴史に謙虚でないといけない。
笠井 「正しい戦争だった」という靖国神社に「間違っている」と言わずに参拝するのは「謙虚」ではない証拠だ。靖国神社は「不戦の誓い」に最もふさわしくない場所だ。政府の公式の立場と正反対の主張をするところに、「国のリーダー」が参拝するから国内外から批判されるのだ。
笠井 A級戦犯も「殉難者」に
首相 コメントは適切ではない
「国際社会の信頼と、近隣諸国との友好を損なった自覚はあるのか」―。笠井氏は、靖国神社が作成したリーフレットが東京裁判を「連合軍(アメリカ、イギリス、オランダ、中国など)の、形ばかりの裁判」と表記したうえで、A級戦犯を「一方的に“戦争犯罪人”とせられ、むざんにも生命をたたれた千数十人の方々」の中に含め「昭和殉難者」と呼んで、「神」としてまつっていることを示し、こう追及しました。
笠井 (リーフレットは)英語、中国語、韓国語に訳されている。(これらの国々の人々が読んだら)どう受け止めると思うか。
首相 私がコメントするのは適切ではない。世界のすべての戦没者の霊をやすめる社(鎮霊社)にもお参りした。
笠井氏は、首相のあげた鎮霊社が誰をまつっているのか不明で、1978年までA級戦犯がまつられていたとの指摘もあるとして、「このような場所で手を合わせたからといって、靖国神社を参拝した事実が消えるわけではない」と批判。東京裁判には、いろいろな問題点があったが、侵略戦争と断罪したこと、その責任を持つ人々について個々にも罪を明らかにしたことは正しかったとして、日本もこれを受け入れて国際社会に復帰したと指摘しました。
笠井 東京裁判でA級戦犯が裁かれたことは当然だと考えるか。それとも、不当で「神としてまつる」ことは当然だと考えるか。
首相 被告人が、裁判で有罪判決を受けたのは事実。そのジャッジメント(判決)を受け入れた。
笠井氏は、東京裁判とともにポツダム宣言を受け入れ、サンフランシスコ条約を結び、国連に加盟し、国際社会に復帰したのが“戦後の出発点”だと強調。戦争中は、国民を不正不義の侵略戦争に動員し、戦後は、その侵略戦争を正しかったと肯定・美化する施設に参拝するリーダーが「世界のどこにいるか」とただしました。
「靖国参拝はやめるべきだ」と正面から迫った笠井氏は、「戦争の現実を直視し、真摯(しんし)な反省をしてこそ、国際社会の信頼、近隣諸国との友好、本当の意味での戦没者の追悼にもなる」と強調しました。
原発避難 救うべき命 除外するな
笠井 計画は策定不能
石原担当相 問題あるのは事実
笠井氏は、原発事故が起きた際の「避難計画」が各地で策定不能に陥っている実態を示し、「住民の安全を確保する計画ができもしないのに、よくも再稼働を口にできたものだ」と批判しました。
笠井氏は、電力各社が原発過酷事故の進行について、事故発生20分前後に「メルトダウン開始」、1時間半前後に「格納容器からの放射能漏えい開始」としたシミュレーション結果を示し、「事故は急速に進展する」と指摘しました。
笠井 短時間に住民を被ばくさせず安全に避難を完了させることができるのか。
首相 困難をともなうので、しっかり避難計画を策定していくことが重要だ。
笠井氏は、鹿児島県の九州電力川内原発地域で昨年秋に国が中心となって行った「原子力総合防災訓練」の実態を、訓練参加者の証言をもとに告発。原発5キロ圏内の高齢者福祉施設では▽第1報の電話連絡が来なかった▽歩行困難者を運ぶ救急車もそろわず第1陣の出発は防災無線で避難指示が出た70分後だった―との事実を示し、「受け入れ先が未定で避難計画づくりのメドがたたない」との事業者の声を紹介しました。石原伸晃原子力防災担当相は、「報告は受け、問題があったのは事実。こういうことが分かり、ある意味成果だった」「地域防災体制の強化に、これで完璧、これで終わりということはない」などと問題を認めました。
笠井氏は、避難計画の策定状況をまとめた政府の資料を提示(1面表)。策定対象となる135自治体のうち「策定済み」は1月末時点で58自治体、43%にとどまり、東通、女川、柏崎刈羽などでは計画が全くできていないと指摘。さらに集計が一般住民の避難計画だけを対象としており、入院患者などの要援護者の避難計画は一つもないと批判しました。
笠井 福島原発事故の避難で、双葉病院(福島県大熊町)で40人の命が奪われた痛苦の教訓こそ生かさなければならない。要援護者を除外し、最初から救うべき命を対象にせず、策定済みなどという。このことをどう思うのか。
首相 計画としてはしっかりすすめている。要援護者の避難は力を入れ、さらに改善していく。
笠井氏は質問の最後に、川内原発から15キロの自宅で療養中の身体障害者からメールで寄せられた「一人では避難もできない。私のところには一回も(避難計画の)調査に来ていない」との声を紹介。「安倍首相は原子力規制委員会の審査さえ通れば再稼働とするというが、その規制基準はそもそも避難計画の策定を必要条件としていない」と指摘し、「きっぱり再稼働をやめると決断すべきだ」と求めました。